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花柱の屋敷へ
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鬼殺隊本部へ向かう道中、俺と無一郎は柊依さんから鬼についてや鬼殺隊についてを詳しく教えてもらった。
鬼は、“鬼舞辻無惨”という男を始まりに、そいつが人間を鬼に変えていくらしい。鬼になった者は人間を喰わないと生きていけなくなり、手当たり次第に人を襲って喰うようになる。鬼の強さは喰った人間の数と比例する。強い鬼の中には“血鬼術”と呼ばれる怪しい術を使ってくるものもいて、人間にとって不利になることもある。
鬼殺隊は、政府非公認の組織で、当主である産屋敷一族のもと結成された、文字通り鬼を殺す為の隊。階級があり、その最高位である“柱”は特定の条件を満たした強い剣士が務める。柊依さんは確か“花柱”って言っていたから、彼女も相当な剣の使い手なのだろう。鬼殺隊の剣士の多くは“呼吸”というものを修得し、それを使えば格段に身体能力が上がったり、傷の治りが速くなったりするのだそう。剣士になるなら俺たちも何らかの“呼吸”を使えるようにならないといけない。
『呼吸は、色々と試してみて自分に合ったものを極めていけばいいわ』
そう言って、柊依さんは優しく微笑んだ。
時々休憩を挟みながら数時間掛けて歩き、ようやく鬼殺隊の本部に辿り着いた。
“お館様”である産屋敷耀哉氏と、その妻と対面する。
当主だと聞いていたから、俺は貫禄のあるおっさんを想像していたのに、全然違った。まだ若い。病気だろうか。“お館様”は顔の上半分が青黒く変色してしまい、痛々しい容姿をしていた。
「有一郎と、無一郎だね。よく来てくれた。君たちを歓迎するよ」
穏やかな優しい声。なんだか頭がふわふわするような心地いい声だった。
「と…、時透無一郎です!双子の弟です。柊依さんに助けてもらって、剣士になりたいって気持ちが一層強くなりました。僕も強くなって鬼と戦って、困ってる人たちを助けてあげたいです!」
最初に言葉を発したのは無一郎だった。
「素晴らしい心掛けだね、無一郎。頑張るんだよ」
「はい!」
嬉しそうに無一郎が笑った。
「…時透有一郎。双子の兄です。…俺も柊依さんに助けてもらいました。俺も剣士になって鬼と戦います。………その……」
「どうしたのかな?」
口ごもる俺に“お館様”が優しくたずねてくる。
「……俺たちのこと、気に掛けてくれてありがとうございます。……えっと…、今まで失礼な態度をとって…、水をぶっ掛けたりしてすみませんでした……」
後半は“あまね様”に向けて頭を下げた。
「お気になさらないでください。暑かったので涼めてちょうどよかったです」
特に怒った様子もなく、“あまね様”が涼しい顔で微笑んだ。無一郎が言っていた通り、“白樺の木の精”のように美しかった。
「2人は、“最終選別”については知っているかな?」
「はい」
「柊依さんに教えてもらいました」
「それなら話が早いね。きっと7日間生き延びて帰ってきておくれ」
「「はい!」」
剣士になるんだ。絶対に大事な家族を…、無一郎を、鬼に殺させたりなんかしない。俺が守らなくちゃ。
「柊依」
『はい』
「2人のことは、君に任せていいかい?」
『もちろんです、お館様。お任せください。私が責任を持って2人を守ります』
「頼んだよ。よろしくね」
深々と頭を下げる柊依さんに、“お館様”が安心したように笑った。
“お館様”への挨拶が済み、俺たちはこれからお世話になる柊依さんの屋敷に向かった。
「わあ…!」
「大っきい…!」
自分たちが暮らしていた家の何倍もある大きな屋敷。
「花柱様、おかえりなさいませ」
「お疲れ様でございます」
『ただいま帰りました。皆さんもご苦労様です』
柊依さんとは違う制服に、覆面を着けた人たちが出迎えた。多分彼らが、鬼狩り以外の仕事で鬼殺隊を支えている“隠”の人たちだろう。
『今日からここで暮らす、有一郎くんと無一郎くんです。皆さんよろしくお願いします』
柊依さんに紹介されて、俺たちも挨拶する。
「時透有一郎です。お世話になります」
「時透無一郎です。よろしくお願いします」
双子が珍しいのか、隠の人たちがわっと歓声を上げた。
「可愛いー!」
「ほんとにそっくりですね!」
まだ10歳の子どもの俺たちを取り囲む歳上の隠のお兄さんお姉さんたち。
『皆さん、気持ちは分かりますが、愛でるのも程々にね』
困ったように、可笑しそうに、柊依さんが笑った。
しばらく客間でお喋りしながら出されたお茶を飲んで、隠の人たちの質問攻撃がおさまってから、柊依さんが屋敷の中を案内してくれた。
食事をする部屋、台所、洗面所、風呂場、厠、隠の人たちの部屋、柊依さんの部屋、それから道場。
ひと通り見て回って、最後に俺たちが使う部屋に案内される。
『お部屋は2人一緒がいいかなとも思ったんだけど、1人の空間も欲しいかなと思って。ここでどう?』
連れてこられた部屋は、広めの部屋を中で襖で仕切って使える部屋だった。
「すごくいいね!」
「ほんとにこんないい部屋、俺たちが使っていいの…?」
『いいのよ。好きなように使ってね。ここはもうあなたたちの家でもあるんだから』
嬉しかった。生家を離れて暮らすことに少し不安はあったけれど、自分たち専用の部屋まで用意してもらって、ここが家だと言ってくれた。
『何か困ったことだったり、不便なことがあったら遠慮なく言ってね』
「うん!」
「ありがとう」
こうして花柱である柊依さんの屋敷で暮らすことになった俺たち。
着るものも新しいのを用意してもらって、お風呂も広くて、布団もふかふかであったかくて、隠の人たちも俺たちを可愛がってくれて。何より、時々柊依さんが作ってくれるごはんが本当に美味しくて。両親が死んでからは食事の仕度はほぼ自分がしていたから、誰かが作ってくれるごはんが嬉しくて仕方なかった。
ある日の夕食後、俺と無一郎は屋敷に仕える隠の人と食器を洗いながら話をしていた。
「ここでの生活には慣れましたか?」
「はい、大分慣れました」
「柊依さんも隠の人たちもすごく優しくて大好きです」
「よかった」
隠の人が目を細めて笑う。
「あの…、皆さんはどうしてここに仕えようと思ったんですか?」
俺の質問に、隠の人が何かを懐かしむように顔を上げた。
「花柱様に助けていただいてからですかね。その時はまだ、倭様は柱ではなかったけれど、先代の花柱様が殉職されて倭様が柱に就任して。“この人に恩返しがしたい”と思いまして」
「先代…?殉職…?」
聞き返すと、隠の人が少し目線を落とした。
「…先代の花柱様と倭様はとても仲がよかったのです。同じ花の呼吸を使う者同士、気が合ったのでしょう。同じくらい強かった2人の、先に柱に就任したのは先代の花柱様で。そんな彼女は、上弦の弐の鬼と戦って亡くなりました…」
そんな……。
「心の傷も癒えぬまま、倭様が新しく花柱に就任されました。…あの頃はひたすらに任務にあたられて、ぼろぼろになって帰ってこられて。まるで親友を亡くした悲しみを、鬼を滅することで紛らわせているような。そんな危うさが倭様にはありました」
俺も無一郎も食器を洗うのも忘れて話に聞き入る。
「先代の花柱様が上弦の弐と戦っていたちょうどその頃、倭様は他の隊士との合同任務で遠くに出張していて。帰ってきた時にはもう、先代様は息を引き取った後だったのです」
親友の死に目に会えなかったんだ……。柊依さん…、どんなにつらかっただろう……。
話を聞きながら涙が滲んでくる。無一郎も腕の泡のついていないところで涙を拭っている。
「新しく花柱に就任してから、倭様はそれまで以上にひたすら鬼と戦うようになりました。…そうしていないと悲しみに押し潰されそうだったんだと思います。あの頃の倭様は今にも壊れてしまいそうなほど儚くて危うくて、でも自分たちには何もできなくて、我々もしんどい時期がありましたね」
そうだったんだ…。初めて会ったあの時も、無一郎と俺を助けてくれたあの夜も、すごく強くて優しくて、自分たちよりずっと大人だと思っていた柊依さん。そんな彼女にも、大事な人を亡くして悲しみに暮れた経験があったんだな……。
「柱に就任して少し経ってから、この屋敷が完成しまして。倭様を少しでも支えたいと、彼女に恩返しがしたいと、集まったのが今ここで働いている者たちです。我々は皆、倭様に命を救われたんですよ」
みんな…、柊依さんに……。
「剣を持てぬ我々は鬼殺の現場で倭様と共に戦うことはできませんが、任務から戻られた倭様が少しでも安らげるように、彼女の支えになれるようにと思っています」
そっか……。
「お2人も倭様に助けられたと聞きました」
「はい」
「柊依さん…、すごく格好よかったです」
「そう、格好いいんですよ、うちの花柱様。しかも強くてとても優しくて」
隠の人が笑った。
「お2人も倭様が好きですか? 」
「はい、大好きです! 」
「お、俺も大好きです!」
無一郎に先越され、自分も負けじと返事をする。
「実は、花柱様が弟子をとったのはお2人が初めてなんですよ」
「「えっ!」」
「だから頑張ってくださいね。たくさん鍛錬して稽古して、強くなって花柱様を支えてあげてください」
隠の人がまたにっこり笑った。
「「はい!」」
「…さあ、早く洗って終わらせちゃいましょう。いつもお手伝いありがとうございます。倭様が作ってくださったお菓子があるんですよ。お茶と一緒にいただきましょう」
手作りのお菓子…!
「楽しみ!」
ようやく食器洗いを再開した俺たち。
早く強くなって柊依さんを支えたい。あの時助けてもらった恩返しがしたい。俺も、きっと無一郎も、そう強く思った。
続く
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