「真斗の父親とは学生時代の友人でね。彼は1人で子育てを頑張ってるから……俺に何かできることがあれば何でも手伝ってやりたいと思ってる。真斗も彼に似て本当にいいやつだから。俺の小さな親友だな」
微笑みを浮かべる九条さん。
話しながらでもスムーズな運転、ブレーキングまで優しい。
「そうなんですね。確かに真斗君はいつも保育士の言うことをちゃんと聞いてくれて、みんなの面倒も良く見てくれます。真斗君を見習いたいくらいです」
「……良い顔してる」
「え?」
「彩葉が販売員を辞めて保育士になっていたのは驚いた。でも、あの時話していた「やりたいこと」っていうのは保育士のことだったんだな。君は今、とても良い顔をしてる」
「良い顔なんて……」
これって褒められてるんだよね?
何だか恥ずかしい。
「一堂社長に会った。とても喜んでおられたよ、君がとても幸せそうだって」
お父さん……
ずっといっぱい心配をかけてるから、そう感じてくれてるならすごく嬉しい。
「ここに入ろう」
九条さんは、少し離れたカフェに車を止めた。
とても落ち着いた店内。
平日の夕方前の時間だからか、そんなに混雑していない。
1番奥のテーブルに向かい合って座り、九条さんはコーヒー、私はミルクティーを注文した。
私、まだ少し手が震えてる。
お願いだから早く治まって。
正直、この状況がまだ理解できなくて、どうして目の前に九条 慶都さんがいるのか、よくわからないまま。
この3年間、ずっと心の中にはいたけど、決して求めてはいけなかった人。
胸の奥に閉じ込めていた想い人が、手を伸ばせば届く距離にいるこの現実を、そう簡単には受け止められない。
「彩葉、体は大丈夫か? 元気でいたか?」
身内みたいな質問に少しホッとする。
「はい。九条さんこそお元気でしたか?」
「……元気だった……というべきか」
歯切れの悪い言葉、九条さんは少し顔を曇らせた。
その悩ましい顔でさえも美しく、この人には360度どこから見られても欠点は無いんだろう。
さっきからオシャレな雰囲気の若い女性達がチラチラこちらを見てるけど、九条さんは全く気にしていないようで。
きっとどこにいてもこれが当たり前の日常なんだろうな。
その時、向こうのテーブルで店員の男性が困っているのを見て、九条さんは私に一言断ってから、スっと立ち上がり近づいていった。
「大丈夫ですか?」
「すみません、お客様が何語を話してるのかわからなくて」
身振りを交えてメニュー表で何かを説明しようとしている年配の……たぶんご夫婦。
色白でブロンドの髪、ブルーの瞳が美しい奥様と、体型がガッチリとした黒髪で褐色肌の旦那様。
もしかしてご旅行なのか……
九条さんは、その2人にニコニコ微笑みながらフランクに話しかけた。
これは……フランス語?
3人でのあまりにも流暢な会話に、思わずここはフランスなのかと錯覚しそうになる。
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