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PINK
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※原作軸。毎度おなじみ大捏造&私得パラダイス!展開はよくわからないです。カプ要素強。想像以上に大作。後半かなり適当。※
本文8,000字
モグラという名で世間を騒がせた黒岩満は、綾部和也の無罪を証明するための裁判中に、創薬センターで生野を殺そうとして皮肉なことに警察の手によりあっけなく殺された。
綾部が黒岩の死を知ったのは次の日だった。ニュースはそこら中正体の明かされたモグラのことばかり。ネットでは“モグラ”の次に“人殺し警官”として黒岩の名が広まっていった。
その様子を綾部はベッドの上でスマホの画面をスクロールしながら眺めていた。
黒岩についてデマ情報や意味のわからない考察ばかりでそれを見ながら鼻で笑う。
「ハッ、なんだか気分がいいな」
威圧的でいつも嫌味なんだのばかりをぶつけてきた上司が死に、そしてネットではこうして批判が飛び交っている。
周りからあれだけ慕われエリートで完全無欠で、ヒーローとまで呼ばれた男が、今や大勢に銃口を向けられ、絶賛撃たれ放題な状態。
綾部からしたらこの状況は悲しいどころかとてつもなく気持ちがいいのだ。
けどそれなのに、どこか心に穴が空いたような、そんな感覚があった。
綾部は気のせいだろうと自分に言い聞かせベッドから立ち上がる。
黒岩の葬式は家族葬ということもあり、また後日実家の方に立ち寄らなければならない。
だがそれもそうだろうと綾部は思う。黒岩が人殺しだということは八神により完全に証明されてしまったのだ。公に葬式を開いてもいいことはないだろう。
「好きでもない上司の実家に顔出すなんてなあ…」
そのことについてなかなか気分が上がらずにいると、後ろに黒岩の気配を感じ反射的に振り向く。
心臓がバクバクと音を立て、いないと分かると足の力が抜け尻もちをつく。
「ま、まさかな…?あいつは死んだ、死体だって出てる。いるわけがない」
もしかしたらあれはダミーで本当は生きているのではないか?という考えが一瞬綾部の頭に浮かぶが、即座にそれは絶対にないと正気に戻る。
圧をかけられてしまったからには、線香の一本は立てにいかなければ、殺される。そんな気がした。
「いやだねぇ、あんたって人は」
ーーーーー
汚職がバレ、しばらくの期間停職処分をくらって暇だったこともあり、後日、綾部は黒岩の実家の住所を上から聞き出し、葬式や整理などある程度落ち着いたであろうタイミングに訪れた。
一応、服装もいつも羽織っているコートではなく、しっかりとしたスーツを着てきた。
二階建てで少し古めな家。ごく普通の家だ。
玄関チャイムを鳴らすと優しそうな女性が顔を出す。
「えっと、満のー、」
「あ、黒岩さんの部下やらせてもらってた綾部という者です」
「あ〜綾部さん!満からよく話は聞いてました、どうぞあがってください」
あの黒岩が自分のことを?一体何を話されていたのかと不安になりながらも家にあがる。
廊下を歩くと、畳のある部屋に着き、そこには立派な祭壇が出されていた。隣にはおそらく父親の仏壇も小さくあった。
花や酒や好物だったであろう物であふれる祭壇の前に座り線香に火をつけた。見た限り、綾部のほかにも何人かは訪れているようだった。
だがきっと、大半は上の人間か、相当慕っていた人間だけだろう。
線香をあげ終わったタイミングで黒岩の母親に呼ばれそちらへと移動する。
「この度はご愁傷さまです」
「お忙しい中、ありがとうございます」
当たり前のことだが、目の周りが赤くなっている。若い息子を亡くしてしまえば一週間は勝手に涙が流れてしまうのも無理はない。
「警察の人から色々聞きました、あの子のこと。最初は信じられなかった…本当にしっかりした子でしたから ニュースになっても、なにかの間違いなんじゃないかって」
「心中お察しします。私も聞いた時、驚きました いい上司でしたよ、黒岩さん。かなり厳しかったですけど」
「ふふ、あら本当?それはよかった」
気に食わないヤツだったし、本当は来たくもなかったなんて口が滑っても言えない。なので綾部は黒岩と話すときと同じく慎重に言葉を選びながら話す。
「あっそうだ、実はあの子の住んでたマンション、まだ片付けられてないんです よかったら手伝ってくれませんか?」
黒岩の家か…行きたくないが…もしかしたら美味い情報も出てくるかもしれない。
「いいですけど…逆にいいんですか」
「いいのよー他に頼れる人もいないですし、あなたのことはさっきも言ったけど、満の方からよく聞いてて信頼できるので」
「な、なるほど…ちなみに黒岩さん具体的にはなにを…?」
「あなたの何気ないことばかり話してましたよ 段差でコケてたとかそんなのばっかり」
「そっすか…」
愚痴でもなんでもない事を話されているのもなんだか、こう、おかしな感覚だ。
ーーーーー
「どうぞあがってください」
「お、おじゃまします…」
自分の上司の家に入るというのはあまりいい気分ではない。いくら相手が死んでいようと。
部屋の中は思ったよりも無臭で、そして、思ったよりも、整理されているわけではなかった。
他と比べれば一般的ではあるだろうが、黒岩のあの雰囲気からは想像できない部屋だったから少し驚いた。
ゴミ袋にはカップ麺やコンビニ弁当のゴミばかりが入っている。
ここで改めてあの人もこんなにも人間じみた面があるのかと思う。
綺麗好きな人ではあったのかもしれない。きちんと掃除はされている。吸い殻はあるものの部屋からタバコのニオイもしない。
綾部が部屋を見渡していると声がかけられる。
「満の家にはあがったことない?」
「あ、まあ、そうすね… 俺そこまで気に入られてなかったんで」
そもそも嫌いな上司の家にわざわざあがり込みたくもない。そう綾部は心底思った。
「あらてっきり仲良しなのかと…だってあなたのことばっかだったんですよー」
「本当、意外っす」
「私こっち片付けてるので、もしよかったら寝室の方やってくれます?ほら…警察の人しか見ちゃいけないものとかあったら困りますし」
それは申し訳ないと断ったが、いいよいいよと押されてしまい結局一番プライベートな空間を片付けることになってしまった。
「にしてもいいとこ住んでんなぁ 俺なんておんぼろアパートだぜ?羨ましいねぇ」
言いながら寝室にある本棚に目を通しながら手を滑らせる。
資格の本や、試験の本や、小説や、分厚い本────。
「重要?」
赤いペンで背に重要と書かれたファイル。仕事のものか、はたまたモグラとしての“仕事”のことか。見てはいけないと思うほどそそられる興味に勝つことができず、恐る恐るファイルを開く。
…見てガッカリした。赤く重要と書かれている割に、中身は大したものではなかった。まあ、外に出てはいけない情報も一応あるが、警官なら知ってて当たり前の物。一般に知られてはいけないというコトでは重要ではある。が、まったく面白くも美味くもない。
これはこっちで厳重に処分しておこう。綾部はため息をつきながら袋に入れる。
途中気になった本は捨てるのも勿体ないしと黒岩の母親に許可を取って、自分がもらうことした。
本棚につまみになるようなものは無し。でもよく考えてみると、あれだけしっかりと証拠も何も残さず殺しをやるような人間が本棚といういかにもな場所に、バレたら困る情報など置くはずがない。
本棚の隣にあったチェストの中身も相変わらず仕事熱心な物ばかりで使えそうな情報は一つも入っていなかった。
少し休憩をしようと本棚から分厚い本を手に取り、ベッドへと腰をかける。
適当にページを開くと栞と一緒になにか別のものがひらひら落ちる。
「なんだ?これ」
綾部が落ちたものを手に取ると背筋が凍った。瞬間、息もできずソレを持った方が肩から指先にかけて攣って、痛いのにも関わらず声が出ない。
息ができないせいで心臓の音がひどくうるさく綾部の耳に響いた。
すると何者かが後ろから首に触れた感覚が走る。
その手は冷たく、どちらかというと触れる、というよりかは冷気が当たっているような感覚に近かった。
ベッドは壁際にあり、もちろん、ベッドに腰をかける綾部に気づかれず後ろに行くなど不可能だ。
「は、ぇ…」
涙の滲む目で何者かがいるであろう後ろを向こうとするが首が動かない。
(か、金縛り…?こんッな時に縁起でもない…)
後ろにいる者は見えないが、雰囲気でなんとなくどんな表情をしているか、何をしようとしているかがわかった。
だから綾部はソレが顔を耳元に近づけてくるのをすぐに察知できた。
「やめ…ろ…!く、そ…っ」
声にならない声で必死の抵抗をする。
ソレが口を開けた瞬間だった。
「綾部さーん!そろそろ三時ですし、お茶でもどうです?…って、汗だくじゃないですか!」
黒岩の母親が部屋の前に来て綾部に声をかけた瞬間、フッとその気配は消え、金縛りも腕の攣りもなくなった。
息もできるようになり、目に涙を浮かべ咳き込みながら深呼吸を繰り返す。
「だ、大丈夫ですか…?」
「えぇ、ちょっと…すみません、お、驚いてしまって」
「あっ!驚かせてしまって申し訳ないです…!」
「お気になさらず、おかげで助かったんで…」
なにか言いたげな黒岩の母親の横を通り抜け、リビングの方へと向かった。
綾部は淹れてもらった紅茶をすすりながら先ほど本から落ちたものを眺めていた。
「なんですかそれ?」
「あぁ、これ?黒岩さんですね 一緒に写ってんのは多分黒岩の当時の先輩だと思います」
(この人が笑ってんの初めて見たな)
「欲しいようでしたらあげますよ 他のものも遠慮なく持ち帰っちゃってください あまり多くても処分に困るので…」
「えっあっ、いや、これは母親が持っておくべきだと思います 黒岩さんの駆け出し時代なんてレアでしょうし」
綾部がそう言い手に渡すと「じゃあ」とその写真を大切そうに財布へと入れる。
(でもなんか申し訳ないな…さっきの俺と同じようなことになるかもしれない…)
だがあれは触った人間が自分だったせいだろうと綾部は思うことに決めた。
それにしてもあの写真は見られたくなかったのだろうか?という疑問が浮かんだ。
(まあどうでもいいか)
ーーーーー
あれからさらに二時間片付けを手伝い気付けば十七時を過ぎていた。
「いけない、もうこんな時間じゃない すみませんこんな遅くまで手伝わせてしまって…時間大丈夫ですか?」
「時間は全然大丈夫ですよ 今日はこのくらいにしますか」
「私はもう少しやってようと思いますので…ありがとうございました、お気をつけて帰ってください」
「そちらも帰りは気を付けてください 都会は変な奴ばっかなんで じゃあ」
そう別れを告げてから黒岩の住んでいたマンションを去る。
結局使えそうな情報は一切出てこなかった。
マットレスの下、本棚の裏、照明の中。ありそうなところはすべて見たが、紙の一枚も見当たらず、さすがの徹底ぶりに思わず褒め言葉が零れそうだった。
黒岩はエリート刑事だったこともあって警察が怪しむような場所は熟知していたはずだ。
ならばその裏をかいてしまえば、一つや二つぼろが見つかるかもしれない。
ぼろが見つかったところで当の本人は死んでしまって、なんのダメージにもならないけれど。
「明日も寄ってみるか 酒のつまみくらいは見つけてぇし」
途中でタクシーを捕まえ家に帰宅する。
ーーーーー
帰宅してすぐ紙袋に入った本を目の前に綾部が頭を抱える。
「しっかしどうするかぁ ノリで貰ってきちまったけど、正気に戻ったらだいぶ気色わりぃな」
あれほど嫌っていて、二度と顔も声も何もかも思い出したくない男の“私物”をなぜ持って帰ってきてしまったのだろう…と肩を落す。
ベッド脇に紙袋を置いて、とりあえずシャワーを浴びようと風呂場に行く。
───風呂から出てビール缶を開けて床に腰を掛けると、昼間の事を振り返る。
「…あ…黒岩だ…アレ」
昼間の背後にいたソレは黒岩だったのだろうと気づく。
一人だけ死ぬには癪に障ると巻き込もうとしたのか、それとも「自分は存在する」と最悪な方法で伝えに来たのか。
どちらにせよなぜ自分なのか?と綾部の頭にはそれだけが不思議だった。
「計画を全て狂わせた八神殺っちまった方が得じゃねぇの よくわからないねアンタって人も」
手に持っている缶ビールを綾部が一気に飲み干すと、突然睡魔が襲ってきて、視界がぐらりとブレながらフェードアウトする。
(あれ…おかしいな…まだ一缶目だってのに…)
目が覚めたのは深夜一時だった。
なぜかつけっぱなしだったはずの部屋の電気が消えていて、寝ぼけながら消した可能性を祈る。
酒を飲み直すか迷ったが、こんな中途半端な時間に飲んで朝死にかけるのもごめんだ。
床に座ったままの体勢で寝るのもあちらこちら痛くなると、ふらふらしながら綾部はベットによじ登る。
ベッドに寝転がり、また眠りに落ちるまで、部屋に響く時計の針の音や、薄い壁を抜けて入ってくる外の音を聞きながら、ぼーっと天井を眺める。
すると、手足が痺れ始める。金縛りか?とも思ったがかろうじて動かすことはできた。
昼間のことが頭をよぎり怖気づく。
今度は何が来るのかと構えていると、枕元、ちょうど紙袋を置いてあるあたりがギシ…と音を立てる。
あまりの恐怖に息が止まりそうになりながら恐る恐るそちらに目を見やった。
そこにはぼんやりと、人のカタチをした霧のようなものが見えた。
ソレはベッドに座っていて、多分、視線はこちらに向けられている。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け…寝ぼけてるだけだ)
ソレが顔に手を伸ばして触れる。最悪なことに昼間の感覚と全く同じ。夢であってほしかったが、夢ではなさそうだ。
まさかまた黒岩なのだろうか。
「アンタ、黒岩さんすか… 」
震える声で問うと氷のように冷たく、風のような透ける手が、その問いのあとスッと顔から離れた。
「はは、図星か なんですか、俺を殺しに来たとか?」
動かなくなったハッキリとは見えないソレに、次々に言葉を投げかける。
「俺…アンタになら殺されてもいいかも 呪ってくれて構わないっすよ…って、あれ…」
綾部は自分でも自分がなにを言っているのかよくわからなかった。
でも、黒岩が死んだと聞かされたあの日から、嬉しさとは反対にどこか穴が空いたような感覚がずっとあった。
大嫌いで大嫌いで仕方がなかった人間がいなくなって、寂しいのではなく、安心でそうなっているだけだと、言い聞かせていた。
それなのに己の口から出た言葉はそんなこととは真反対───言い聞かせて抑えていた感情だった。
実は少し、寂しかったのかもしれない。けどなぜ?嫌いなはずなのに。声も顔も…なくなって気分がいいはずなのに…。
いつしか憎しみという感情が、勘違いを引き起こし、愛に…変わっていたのかもしれない。
意味がわからないのは自分が一番わかっている。
「黒岩さんのこと…本当は好きだったのかもしれないです…あは、ばかげてますよね、本当に、ばかげてる」
なぜか頬を伝う涙を痺れる腕で拭って、そのまま腕で顔を隠す。
「こんな事言っても今のアンタじゃ、ぶってもくれない」
ずっと固まって動かなかった黒岩が頭に触れたのがわかった。
そしてデコ辺りから、後頭部辺りにかけ、冷たい風が動く。
肉体がないせいもあって余計に酷く優しい手に唇を噛んで溢れそうになるナニカを抑える。
「ひどいっすよ 責任もって最後まで最低な黒岩さんでいてくださいよ…」
ふと顔から腕をどかすと、ぼんやりと見える黒岩の顔が綾部の顔に近づき、軽く口付けを落とした。
綾部もそれは不思議と嫌ではなかった。むしろ、ずっとそれが欲しかった気がした。
だから、抵抗はしなかった。
ーーーーー
いつの間にか眠ってしまっていて気が付くと外はすっかり明るくなっていた。
ゆっくりと起き上がり、部屋を見渡しても誰かいるわけもなく、それから口元を触る。
あの冷たさはハッキリと頭に残っていて数時間前のことを思い出す。
夜、この世で一番大嫌いな男と口付けをした。
いつか殴ってやると何度も思った男と。
この世で一番大嫌いなハズだったのに、死んでからも心の底から喜べず、口付けされても抵抗できなかった。
「…夢だったらよかったのに───いや、そっちのほうがキモいな、“夢に見るほど”ってヤツじゃねぇかくそ…」
綾部がベッドから立ち上がるとあることに気が付いた。
机の上の灰皿に見覚えのない吸い殻とライター。
タバコはいつも綾部が吸っている銘柄と違う。
ライターも少し高そうなライター。
「こ、れも、まさか…?」
これが本当の本当に最期と言わんばかりにやりたい放題やる黒岩に綾部は呆れる。
「人ン家で勝手にタバコ吸うなよ!まじで!」
タバコを見ると少ししか吸われておらず、一吸いだけして潰したように見えた。
高そうなタバコなのにもったいないと思い、そのタバコと、灰皿の隣に置かれた高そうなライターを手に取り、朝の一服で窓を開ける。(間接キスだとか、そんなのはもうどうでもいい。)
カチッと音を立て火が出る。
火力が高く綾部は火傷しそうになる。
タバコに火をつけてから、少し吸っただけで咽た。
「キッツまっず!アンタこんな不味いのいつも吸ってたのかよ 」
不味いが黒岩がコレを吸っていたと思うと、自分も同じものを吸いたくなってしまった。
いつもより時間をかけて吸い終わると窓を閉めて背伸びする。
「はぁぁぁっ、仕事がないと気が紛れねぇな…一日中、アンタのこと探しちまいそうだ せっかくいなくなって気分が晴れたと思ったのに、ザンネンったらありゃしない!」
本やらが入った紙袋に目を見やってから少し考えた。
「やっぱ全部捨てるか また出てこられちゃ困るしよ」
支度をして、今日も黒岩の家の整理を手伝いに行く。
ーーーーー
家を出てアパートのゴミ捨て場に紙袋を置いてから出発する。
雲ひとつない晴天。黒岩が死んだ日とは真逆の天気。
モグラが消えてからは大騒ぎされるようなニュースも事件もない。平和が戻ってきたような、それを祝福するような天気。
歩いていると知っているニオイが綾部の鼻を抜けた。
「あっあの、突然すみません そのタバコ、どのこメーカーですか」
黒岩が吸っていたタバコのニオイ。今朝吸った、クソ不味いタバコ。
でも、また吸いたかった。
「え、あぁ☓☓ってとこのだよ」
「すみません、ありがとうございます」
少し行ったコンビニでそのタバコを買ってポケットにねじ込む。
黒岩の家に着き、一応チャイムを鳴らすと、綾部よりも先に黒岩の母親が着いて片付けをしていた。
「あらっ今日も来てくれたんですか 」
「一人で片付けるのも大変でしょうし」
「わざわざありがとうございます」
家に入ると柔らかい花の香りが漂っていた。
母親の趣味なのだろう。
「あ、一本吸ってからでもいいですか」
「どうぞ、ベランダもありますしどこでも」
綾部は礼をしてから先ほど買った黒岩と同じ銘柄のタバコを出す。
「それ満も吸ってたやつですよね?同じやつ買ってたんですね」
「えぇまあ」
そう言う綾部の顔はどこか満足そうだった。