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雨朱
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えぬた
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【王族用・控え室】
ギィ――。
控え室の扉が開き——そして閉まる。
すると、何もない空間から、突然サラが姿を現した。
「はぁ〜……よかった〜。パパのモジュールが届いて(汗)」
安堵の表情を浮かべるサラの額には、嫌な汗が滲んでいる。
まるで、しつこい相手からようやく逃げ切ったような顔だ——。
「もう、姫姉様。アーレイワークスのモジュールは、ここでは使用禁止ですよ」
サラがグレイスから逃げるために使ったのは、アーレイワークスが開発した軍事用モジュールだった。
ステルス性能が桁外れに高い軍用装備であり、当然ながら学園内での使用は認められていない。
しかし――。
今朝、顔を合わせた際、嫌な予感がしたサラは、グレイスの表情から必ず来ると考え、不測の事態に備えて、アーレイに送ってもらっていたのだ——。
「だって、グレイスが探しに来るって分かりきっているから仕方ないし」
「おぼっちゃま貴族、すっかりストーカー化してますね」
アイラが、さらりと毒を吐く——。
ステイシーのことをよく知る彼女からすれば、あれだけ傲慢なグレイスが、姫姉様に執着している状況など迷惑以外の何物でもない。
「あれで大人しくしてくれたら良いんだけど……」
サラは困ったように頭を抱える――。
手を出したくても出せない状況を作ったつもりだった。
昨日の一件で、さすがに懲りただろうと思っていたのだ。
だが――。
「まさか、ここまで粘着質だとは思わなかったわ……」
「本当に困った人ですね」
二人は揃って、深いため息をついた――。
※※※※※※
【数日後・レイヴン・テクノロジーズ】
レイヴン・テクノロジーズはクローン体、光学迷彩、マッスルスーツ、高性能ライフルなのどの、軍事装備品を中心に開発製造する中堅軍事企業だ――。
その正面玄関にグレイスの姿があった――。
「ここのプログラマーに頼めば、作ってくれるかな」
この企業の役員の息子であるグレイスは、持ち前の頭脳でクローン開発に力を貸している。
なので、他部門との繋がりがあり、とあるプログラムを作って貰う為に、訪れていた。
※※※※※※
【AIプログラム・開発部門】
「このRPGにチートプログラムは使えますか?」
「結論から申し上げますと、バーチャルシステムの上に、ゲームプログラムが走っているので、チートは可能です」
グレイスは、逃げ回るサラとバーチャル上で接触するつもりだった――。
だが、仲間内から、「ソロで誰とも組まないし、直ぐに姿を晦ますので会うのは至難の業」と聞いていた。
そこで、グレイスは閃いた。
チートを使い、対等に渡り合えばば話を聞いてくれる。
そう思ったのだ――。
「おお、それはいいね。それで何が出来るの」
「軍が監視しているので、一番強いプレイヤーに合わせるのが良いでしょう」
あのバーチャルRPGで一番強いプレイヤーは――サラだ。
互角なら、どうにかなる。
淡い期待が心躍らせる。
「プレイヤーの検索も出来たらいいな」
バーチャルRPGの世界はリアルを追求しているので、フィールドは一国の広さ程もある。
当然、ソロのプレイヤーを広大なフィールドで探し出すのは不可能に近い。
グレイスは確実にサラと出会うために、注文をつける。
「それは簡単です。索敵に組み込みます」
「ありがとう。早速使わせてもらうよ」
チートプログラムを受け取ったグレイスは、早く試したいのか、足早に去ってゆくのだった。
※※※※※※
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
「それで、現状は!」
急ぎ足で開発部門を出たグレイスは、緊急連絡を受け、地下のクローン研究所へとやって来ていた。
「人口眼球を先に試したところ、脳との接続に成功しました」
「何だと!」
久しぶりの朗報だった——。
これまで幾度となく実験を繰り返してきたものの、クローン体と脳を完全に接続することはできなかった。
「瞳孔が動く……!」
研究員がライトを当てると、瞳孔がゆっくりと絞られてゆく。
「やったな……成功だな!」
それは、人工眼球と神経が正常に繋がった証拠だった。
グレイスは目を細め、その表情には、妹を想う愛情が滲んでいた――。
※※※※※※
【バーチャルRPG・ダンジョン内】
「やっ!」
「グェェェ!」
チャリーン!
「まあまあかな」
ダンジョンボスを倒したサラは、地面に湧き出した金貨を数えて満足そうに頷く。
暇さえあればログインして、地道に学費を稼ぐ——。
「さてと……面倒なクエストやるか」
少し前、学校から発表があった。
このバーチャルRPGで一定数の「クエストクリア」をしなければ、単位が貰えないとの通告だった。
「面倒だけど、必修科目なら仕方ないか」
――もっとも。
この仕様変更の原因を作ったのは、他ならぬサラ自身だった——。
※※※※※※
【RPG内・魔界の村】
村の名前の通り、魔物がよく湧き出るスポットだ。
「うふふ、長剣を買ったから、ここのクエストで使ってみよう」
サラは剣を新調して、クエスト受注をする事にした——。
「森に魔物が出て、薪が足りないのじゃ」
NPCのお婆さんに声をかけると、クエスト開始だ——。
「任せて! 速攻で取ってくるわ!」
一見すると簡単そうなクエスト。
だが、このクエストはプレイヤーの間で「怠け者殺し」として有名だった。
そんなこととは露知らず、サラは意気揚々と森へ向かう——。
「ふんふんふーん♪ あー、楽勝楽勝!」
しばらくして、背負子には、単位取得に必要な薪が山のように積まれていた。
「ギャオーン!」
そして帰り道——定番の魔物が出現する。
これこそが、このクエストが「怠け者殺し」と呼ばれる所以だった。
背負っている薪の量に応じて、帰り道に出現する魔物が強くなる。
「ふっふーん、現れたわね!」
ならば薪を置いて戦えばいい——。
普通なら、そう考えるだろう。
だが――。
薪を地面に置いた瞬間、今度は盗み猿が現れ、薪を持ち去ってしまうのだ。
「なーんだ。キラクマちゃんじゃない!」
「ギャオーン!」
薪の重さで素早さが落ちているにもかかわらず――
「えいっ!」
ドゴォッ!
一撃。
「……」
脳筋姫には、あまり関係のない話だった——。
「よーし、村まであと少し!」
魔物を軽々と撃破し、サラは意気揚々と村へ向かう。
その時だった――。
『デュエルを申し込む』
「……は?」
突然、現れたプレイヤーからデュエルを申し込まれた。
しかも、このゲームには妙な仕様がある。
自分よりレベルの低いプレイヤーからのデュエルを拒否すると、単位が減ってしまう。
「はぁ~~~~……」
サラの顔が、一瞬で嫌そうに歪む。
否応なしに、戦うしかない。
だが――
これもまた、そもそもの原因はサラ自身だった……。
「あんたねぇ、この状態で戦えっていうの?」
「あんた狂剣だろ? ハンデって言葉の意味、分かる?」
プレイヤーの名前は――アーク。
見知らぬプレイヤーだった。
「……」
傲慢な物言いと、不敵な笑み。
この状態のサラに決闘を申し込んでくる性悪など、聞かずともグレイスだと分かる。
(ああもう……あのことの探りを入れに来たのね)
もう、こうなれば――叩き伏せるしかない。
サラは無言でウィンドウを開き、決闘のアイコンを押す。
3――。
2――。
1――。
そして、戦いが始まる。
「はっ?」
あろうことか、サラは背負っていた大量の薪を、背負子ごと頭上へ放り投げた!
「ウキィィィ!」
当然、盗み猿が湧き出てくる。
だが――
サラはそれを待っていたかのように、冷ややかな表情で柄に手を掛ける。
「えいっ!」
バキャーン!
神速の横薙ぎが炸裂する。
「グフォ――!」
「ピギャァァ――!」
盗み猿も、グレイスも同時に叩き切った!
<勝者:サラ>
「……よっと」
空中から落ちてきた背負子をひょいと掴み、そのまま背中に回す。
「……」
そして、アークには一瞥すらくれず、サラはそのまま村へと入っていった――。
コメント
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第16話、読み終わりました!サラが薪を背負ったままの脳筋プレイ、最高でしたね。グレイスのチートプログラムとかクローン研究の進展とか、いろんな伏線が同時に動き出しててワクワクします。そして何より「薪ごと投げて敵もグレイスもまとめて切る」って発想、RPGの仕様を逆手に取った潔さが気持ちよかったです。あの一瞥すらくれない去り際もサラらしくて好きです。設定のきっかけがサラ自身にあるってオチもニヤリとさせられました!