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朝。目覚めは、いつも「終わらなかった夜」の延長だった。
天井の白が、やけに遠く見える。
全身が、じっとりと重い。
──また、朝になってしまった。
そんなふうに思うことすら、もはやルーティンの一部で。
心が動くというより、ただ、確認してるだけだった。
シーツの感触。
少し湿ったような空気。
蓮司の寝息。
隣で眠るその姿を、見ないようにして起き上がる。
動作のすべてに、「これは夢ではない」と刻みつけるような重さがあった。
(昨日……俺、なに笑ってたっけ)
思い出したくないのに、脳裏に焼きついている。
あの時、口角を引きつらせながら出した言葉。
痛みから逃げるように出した、ふざけた声。
でも──
身体は、確かに反応してしまっていた。
望んでなどいなかった。
けれど、確かにそこにあった。
その事実が、何より遥を蝕んだ。
(気持ち悪い……)
自分の皮膚の内側から、じわじわと何かが這い出てくるような感覚。
心と身体が乖離している、というより──
身体の方が、勝手に“蓮司のもの”になっていく感覚。
(誰が好きとか、誰が嫌いとか、もう……関係ねぇのに)
(全部どうでもいいのに)
(……なんで、ちゃんと嫌がれねぇんだよ)
頭の奥で、誰かがずっと呟いている。
「壊れてるんじゃない、お前が悪いんだ」と。
それを否定するほどの意志も、今の遥にはもうない。
蓮司はまだ眠っている。
薄く開いた唇、無防備な寝顔。
触れようと思えば、いつでも触れられる距離にいる。
でも、遥はそのベッドから、そっと足をおろした。
(……行かなきゃ)
学校が待ってる。
日下部がいる。
蓮司が笑う。
女子たちが睨む。
全部わかってるのに、今日もまた“そこ”に行かなきゃならない。
(逃げる場所なんて、最初からなかったんだ)
そう自分に言い聞かせるように、シャツのボタンをひとつひとつかけていく。
胸元の肌が、服に触れるたびに、夜の名残がふと蘇った。
(……気持ち悪ぃ)
心の奥で何かが、またひとつ沈んだ音を立てた。
それでも、今日も笑わなきゃならない。
演じなきゃならない。
「“俺の”遥」と呼ばれる存在を、今日も続けるために。