「アシマリも聞いてたんでしょ、合唱コンクール」
噴水に腰掛け、雪乃と立花は昼食のパンを食べながら話していた。
「マリィ!」
「林田が気を利かせてアシマリを体育館まで連れてきてくれてたらしいよ」
雪乃がそう言うと、「ふーん」と相槌を返す立花。
「普段怠そうなのに、案外優しいのね」
「まぁ、意外と先生やってるっぽいよ。私に依頼してきたのも林田だし」
「え、そうなの!?」
「うん。あ、これ内緒ね」
口の前で人差し指を立てれば、「知らなかった…」と驚いて固まる立花。
「そうそう。五十嵐だって凄い気にしてたし、だから最初から1人じゃなかったんだよ立花さんは」
「………」
「え、何」
じぃっと見られたじろぐ雪乃。
「名前で呼んでってば」
「…あ、そうか」
いっけね忘れてた、と頭を掻く。
「えーと、………美希?」
恥ずかしげにそう呼べば、うんうんと満足する美希。
「マリィ〜マ〜マァリ〜」
「上手になったね、アシマリ」
歌いながら小さな泡を浮かび上がらせるアシマリ。
「前は泡も作れなかったのに、凄い成長よね」
「美希が教えたからでしょ?」
そう言うと、驚いた顔でこちらを見る。
「し、知ってたの?」
「うん。知ってたし、見てたよ」
美希がアシマリに歌を教えていた事を、雪乃は知っていた。
「だからアシマリは美希のことが好きなんだよね」
元々人懐っこいけど、美希だけは特別そうだった。
「マリィ!」
アシマリが美希の近くにいくと、バッと身を引く。
「ほんとに苦手なんだね、ポケモン」
「ご、ごめんなさい…」
「まぁ、いいんじゃない?それでもアシマリはきっと美希のことが好きだよ」
「マリ!!」
楽しげに笑うアシマリ。
美希も申し訳なさそうにしながらも、微笑んだ。
「少しずつ、慣れていきたいとは思ってるから」
「うん。いくらでも手助けするよ」
2人は顔を見合わせ、笑い合う。
「よぉお前ら。こんなとこで飯食ってんの?」
何処からともなく大量のパンを抱えた五十嵐が現れた。
「いいでしょ何処で食べても」
「あ!パン食ってる!美味いよな!?」
間髪入れず雪乃の持っていたパンを指差し声を上げる。
びっくりしながらも雪乃は頷いた。
「凄く美味しい」
「だろ!ほら、いっぱい持ってるからもっと食え!」
嬉しげに持っていたパンを雪乃の膝に乗せていく。
「ちょ、置きすぎでしょ」
「まぁまぁ、友人同士2人で分け合って食えよな!」
じゃあな!と去っていく五十嵐。
嵐のような男だ。
「…食べ切れるの、これ」
「いらなかったら私食べるよ」
「あ、食べれるんだ」
この時雪乃の食欲を思い知った美希だった。
「ね、ねぇ…さっき五十嵐が言ってたけど」
雪乃が突然、自信なさげに話し出す。
「何?」
「その…『友人』って」
チラッと美希を見る雪乃。
「え、っと…と、ともだち?ってこと…で、いいの…?」
恥ずかしげにチラチラ横目で見ながら、ぶつぶつと小声で確認する雪乃。
そんな雪乃を見て、美希はフッと笑った。
「当たり前でしょ」
そう言われ、パァッと表情が晴れる雪乃。
嬉しそうに「初めて友達が出来た」と笑う。
さっきから何この生き物可愛い。
美希は心の中で呟く。
どんどん雪乃のクールなイメージが壊れつつある。
「ほら、早く食べないと授業遅れるわよ」
2人は大量のパンをアシマリにもおすそ分けしながら楽しそうに時間を過ごした。
美希は雪乃を見つめる。
私を暗闇から引っ張り上げてくれた女神は、もしかしたら誰よりも普通の女の子なのかもしれない、と。
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