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#恋愛
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ハッキリと言い切ると、母は表情を歪めて訴えてくる。
「でも……っ、私は悪くない……っ! 悪いのはあの女で……っ!」
母は肩を震わせ、涙を流す。
今も母は自分は間違えていないと主張しているが、以前ほどの気迫はなかった。
「『自分は』と主観で考えるから、自分のした事を客観視できないんだと思います。ニュースでこう報じていたらどう思いますか? 『女性Aが、夫の浮気相手に嫉妬し、実行犯Bの借金を肩代わりする代わりに、浮気相手Cと、何の罪もないその子供Dをひき殺すように依頼した』。……悪くない事はないでしょう? 女性AはCとDの命を奪っただけでなく、金がなくて困っていただけのBの人生も滅茶苦茶にしたんです」
母はグスッと洟を慣らし、手の甲で涙を拭う。
「生き残ったCの息子Eが、女性Aを憎み、復讐したいと思うのは当然です」
「風磨は……っ、私の味方じゃないの!?」
母は悲痛な声を上げ、俺を睨んでくる。
「俺とお母さんは血の繋がった家族です。だからこうやって面会に来ていますし、あなたが罪を償ったあとも、母親として接したいと思っています。……家族ですから」
「うぅ……っ」
母は力なくうめき、また新たに涙を零す。
「俺はお母さんを見放しません。でも、尊の味方でありたいんです。……尊は母と妹を奪われました。それに尊は継母と継兄のいる家で同居し、耐えがたい苦痛を味わっていたでしょう。……あなたは事あるごとに尊につらく当たり、自分の身に何が起こったのか理解していない子供に『死ねばいいのに』と罵声を浴びせた。……父さんは負い目があるからお母さんを責めなかった。……でも俺は、優しかったお母さんが尊に鬼のような態度をとっているのを見て、とてもつらかった。……お母さんは『憎い女の子供を見るのがつらい』と思ったでしょうけど、俺の気持ちを考えた事はありましたか? 母親がいつも継弟に怒鳴り散らし、虐待しているのを見せられるほうだって、苦しいんです」
少し強い口調で言うと、母は視線を落とした。
「子供の頃はお母さんの事が大好きでした。美人で優しくて何でもできて、手作りのお菓子がとても美味しかった。みんなに自慢したくなる理想の母でした。……でも、あなたは変わってしまった。常に憎い相手に心を囚われ、如何に小さな尊を苦しめるかだけを考えるようになった。……あなたがしていた事は鬼畜の所業ですよ」
「だって……っ」
母が反論する前に、俺は言い返す。
「母親と妹を喪った小さな尊が、あなたに何をしましたか? あの子は慣れない環境で俺たちに気を遣い、常に邪魔にならないように細心の注意を払っていた。なのにあなたがした事は、傍から見れば無抵抗な仔猫や仔犬を蹴るようなものだったんですよ……っ」
そこまで言い、感情を昂ぶらせた俺は声を震わせる。
「情けない……っ!」
その言葉を聞き、母はショックを受けたように目を見開いた。
「俺が尊の味方でいようと思ったのは、あの子に誰一人として味方がいなかったからです。母親と妹を殺され、引き取られた実父の家には自分を毛嫌いする継母がいる。なのに父さんは、あなたが尊に何をしても止めなかった。中途半端な罪悪感があるから、お母さんの気持ちも分かると思って、父親なのに子供を守らなかったんです!」
話しながら、俺はいつの間にか涙を流していた。
「学校でも尊は孤独だったようで、友達と親しくしている話なんて一度も聞かなかった。父さんはさゆりさんのピアノが好きだったから、尊にピアノをやらせた。尊がピアノを好きかではなく、側にさゆりさんの忘れ形見がいると感じたかったから習わせたんです。…………っ、そんな利己的な理由で、多感な時期の子供の時間を奪い、すべてをピアノに捧げさせた!」
あの頃の尊は、きちんと食事をとっているのに常に顔色が悪く、生気を感じられなかった。
時間があれば練習場に足を向け、遅くなるまで家に帰ってこなかった。
本来、小学生、中学生と言えば友人と交流して思い出を作っていくべき時期だ。
なのに尊はろくに友達を作らず、自分の価値を示すにはそれしかないと言わんばかりに、ピアノや勉強に打ち込んだ。
常に成績優秀でなければ母に叱責されるから、自分の身を守るために人生を削っていたのだ。
その証拠に、数え切れないほどの賞やトロフィーをもらっても、尊はまったく嬉しそうな顔をしなかった。
「……当時の俺は尊の力になれませんでした。仲良くたいと思っても、お母さんが止めたでしょうし、少しでも尊に憎悪が向くのを避けたかった。……だから〝空気〟でいる事に徹したんです」
俺は自分の罪を自覚し、今こそ償うべき時だと覚悟して告げる。
「俺はお母さんの家族ですが、尊の家族でもあります。誰も頼る人がおらず、心を殺して生きてきた尊が、今やっと人間らしく生きようとしています。たとえお母さんが逮捕され、起訴されるとしても、俺は兄として尊に人間らしい幸せを味わってほしいと思い、その背中を押したいと思っています。どちらをとるか、ではありません。悪い事をした人は罰を受ける。それは法律の問題であり、家族としての情があるかどうかではないんです。……むしろ家族の情があるから、時として耳に痛い事を言うものだと思いませんか? どうでもいい人にわざわざ時間を使って、こんな事を言いません」
母はしばらく黙ったあと、項垂れて「……そうね」と同意した。
コメント
1件
うわ……第916話、めちゃくちゃ重かったけど、すごく丁寧に描かれてるなって思いました。主人公が「家族だから」って言葉をちゃんと自分の責任として受け止めて、母に真実を突きつけるシーン、胸が締め付けられました。特に「尊には誰も味方がいなかった」って気づいて、今度は自分がその味方になるって決意するところ、すごく響いた。母の間違いを認めさせつつ、見放さないというスタンスが、本当の家族の形なのかもって考えさせられました。臣桜さんの書く人間の複雑さ、いつもながらすごいです……🥀