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「そんで? ひたすらやり込んだ結果、俺と顔を合わせる間も惜しんでゲームに没頭していた、と」
「ご、ごめんなさい……」
会社から帰って来たお兄ちゃんに対して、思いっきり頭を下げていた。
ちなみに言うと、ちゃんと顔を合わせるのは数日ぶり……下手したら一週間くらい会っていなかったかも。
私がずっとVRゴーグル付けていたら、基本的に兄は声を掛けないし。
そもそも忙しい時期だと、物凄く遅くにならないと帰って来ないくらいなのだ。
朝出るのも早い、もしくは私が学校に出る時間は寝ていたりするので。
此方としては色々と心配になってしまうのだが。
それでも私は、兄の家に転がり込んでいる身の上。
だからこそ、この調子では不味いと分かってはいたのだけれど……夢中になり過ぎた。
なんとかギリギリ家事だけはこなしていたけど、それだけで良いって訳じゃないよねぇ……。
「それで?」
「今回のテストプレイの報告書です……」
お手伝い程度とはいえ、アルバイトとして仕事も貰っているのだ。
だからこそ、余計に不味い。
確かに出来高制ではあるけど、結果だけ提出すればお仕事完了かと言われれば、絶対違う。
せめて関わる人とくらい、ちゃんとコミュニケーションを取りなさいよ。
もはや、ひぃん……と泣きそうになりながらも、今回渡されたゲームで気付いた事をまとめ、その報告書を提出してみたのだが。
「相変わらず、VRの方だと“適応力”がすげぇな……」
私が出した書類に眼を通しながら、兄はフム……と声を上げつつキッチンのテーブルに着いた。
居候の身の上としては、この状態で待機など出来る筈も無く。
慌てて兄の前に今日の夕飯を並べ始めてみると。
「いや、ホントにすげぇな……あ、ご飯ありがと。なぁ夢月、今回も映像記録撮ってあるか?」
「え? あ、うん。テストプレイの時は録画してくれって言ってるもんね。でも最初の方とか、凄くグダグダだよ? 多分見る価値無いと思う……」
料理を並べ終えてから、私のプレイ記録を録画したデータを兄のPCへと転送。
それを小分けにしながら、キッチンに置いてあるタブレットで操作可能にしてみると。
お兄ちゃんは夕飯を食べながら、プレイ記録を確認し始め。
「なぁ夢月、なんでずっとハンドガンばっかり使ってるんだ? 他にもいっぱい用意してあっただろうに」
「えっと……大きいの、というか。その銃とかじゃないと、他は弾が出なかったから……これってバグ? それとも私が知らないだけで、操作が違ったのかな?」
こういう所も、ちゃんと聞いてから始めれば良かったのに。
夢中になった影響で、兄と顔を合わせる間も無くずっとゲームしてしまったのだ。
結果、最初の方で使える事が分かった武器を、最後まで使ってしまった。
「まぁチュートリアルも無しじゃ、分かんない人には分かんないよな……この辺は、リアルな操作感を求めすぎた弊害かな。夢月みたいなプレイヤーが居た場合でも分かる様に、しつこいくらいに説明文を入れた方が良いかも」
「うっ!? ご、ごめん……鉄砲とか、よく分かんなくて。映画とかで見た事あるヤツを、見様見真似で弄ったら撃てた。だからソレで良いやって……本当にごめんね? これじゃテストプレイにならなかった?」
ここ数日、ひたすらやり込んだのは確かだったのだが。
兄が、というか会社が求めている内容がコレではなかった場合。
私のプレイスタイルが意に反したモノだった場合は、この時間は全て無駄になってしまうのだ。
だからこそ、翌日兄が帰って来たタイミングで詳しく話を聞けば良かったものを……と、今更ながら後悔してしまったけども。
「いや、これはこれで面白い結果だわ……やっぱすげぇよ、夢月。何よりのめり込んだ時の集中力が半端じゃない」
「う、うんと? ありがとう?」
よく分からないけど、一応役には立ったらしい?
自分でも単純だと思ってしまうけど、褒められた事が嬉しくて。
映像を見ながら夕食を続けている兄に対して、お酒なんかを準備し始めていると。
「なぁ夢月、お前さ……もっと給料欲しいか?」
「え?」
不思議な質問をされてしまい、兄のお酒を冷蔵庫から取り出した時点で固まってしまった。
お金は……まぁ、欲しいけど。
というか、あるに越した事は無い。
私の場合はあんまり使う所が無いというか、趣味のゲームだってお兄ちゃんに用意してもらっているし。
友達も居ないので、同級生みたいに“あっちもこっちも欲しいから、ソレを買う為にアルバイト~”という雰囲気ではないのは確か。
でもお金その物なら、貯めておけば無駄になる事は無いし。
というのと。
「えっと……欲しい、けど。お給料変わらなくても、お兄ちゃんの助けになるなら……何でもやるよ? 何すれば良いの?」
私にとっては、何よりこれが大事なのだ。
実家を飛び出したお子様を保護してくれたし、両親とも話をつけてくれた。
その後普通に生活を送れているのは、全て兄のお陰。
だからこそ、その人から何かを頼まれたのなら断るという選択肢は無い。
などと、勝手に思っていたのだが。
「そういうの、俺以外に絶対言うなよ? 特に男には、絶対言うな。分かったな?」
「う、うん……?」
「ついでに言うと、新しい仕事が来たらまず報酬を貰う事を考えろ。これも社会人として生きる為の鉄則、いいな?」
「わ、分かった……」
ちょっと自信無いけど、とにかくお兄ちゃんの教えに頷いて見せると。
相手は満足そうな笑みを浮かべてから、「わり、頼む」と言ってグラスを差し出して来た。
それに対し、手に持ったお酒をトクトクトクっと注いでみると、また「ありがとう」って言ってくれる兄。
こんな事でもお礼を言ってくれるんだから、私のお兄ちゃんは凄く優しいと思うんだ。
実家でお父さんにこういう事をするのは毎日の事だったけど、何か声を掛けてくれる事なんか一度も無かったし。
「夢月にやる気があるのなら……今回のゲーム。あ、オンラインな? そっちの運営チームのプレイヤーとして、俺の方から推薦しようかなって。当然普通のプレイヤーとは目的が違うし、こっちの指示には従ってもらう事になる。内容だって口外禁止だ」
「ん、わかった。やる」
「早ぇなオイ」
ちょっと呆れた顔をされてしまったが、ハハッと笑う兄は通勤鞄から分厚い書類を取り出した。
それをそのまま此方に差し出されたので、受け取って一枚目を捲ってみると。
「……“ガンサバイブオンライン”?」
「おう、飾り気も何も無い地味なタイトルだろう? けど、内容はかなり凝ってる。他のゲームみたいに、とにかく派手! っていう雰囲気ではないけど。ひたすら地道に、けど自分自身をちゃんと使って、頭と身体をフルに使ったガンシューティングゲーム。知識と経験がないと、勝ち残れない様な結構ハード系だ」
ペラペラとページを捲って内容を見てみた結果、多分私がテストプレイしたゲームなんだろうけど……これ、アルバイトのテストプレイヤーが見て良い資料なんだろうか?
「あ、あの……それで? 私は何をすれば良いの? 普通にオンラインゲームをやれって言われても……ちょっと自信無いっていうか。一人プレイでも良いなら、何とかなると思うけど……」
求められたのなら、応えたい。
けどオンラインでコミュニケーションを取れ、みたいな内容だった場合……ちょっと、人選ミスかなぁって。
などと思いつつ、困った様な微笑を浮かべて兄を見つめていると。
相手は。
「夢月、お前……運営が用意する“エネミー”になってみないか? もちろん、ソロで」
「……はぃ? エネミー? 私、敵役をやるの?」
なんか、凄い事言いだしたんだけど。
そんな事って、出来るの?
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