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新たなライバル出現みたいな、! 続き楽しみです!
低い声が耳に残って、椿《蒼》さんの息が耳朶に触れて、ゾクゾクする。
一瞬腰が抜けそうになった。
「はっ……!はいっっ」
思わずそう返事をしてしまった。
「じゃあ、桜。カウンターに座って。何飲む?」
いつもの優しい椿さんに戻り、カウンターの席に案内をしてくれる。
「私、カシスオレンジでお願いします」
「わかった。少々お待ちくださいね?」
微笑みを向けてくれる椿さんは天使のようだ。
いや、女神様かな。本当にキレイ。
カウンターに座ると、目の前に蘭子ママさんが来てくれた。
「あの、蘭子ママさん。いろいろお世話になりました」
店内を見ると数人のお客さんが既にいたため、詳しい内容は話せない。
何のお礼かわかってくれるかな?
「遥から聞いたわよ。おめでとう。私は二人が大好きだから、幸せになってくれて嬉しい。それに、お世話になりましたじゃなくて、これからもお世話になりますって言って?ずっと応援するから」
ああ、なんて良い人なんだろう。
蘭子ママさんの言葉に泣きそう。
「ありがとうございます。これからも……。お世話になります」
「はい。これからもよろしくね!」
本当の両親みたい。
ここ数カ月、いろんなことがあったけれど、良い人たちに出会えた。
私の狭い世界を変えてくれた人たち。
「改めていらっしゃいませ。ゆっくりしていってね?」
|椿《蒼》さんがドリンクを持って来てくれた。
「はい。ありがとうございます」
その後、三人でいろんな話をしていた。
それから一時間後――。
お客さんが増えてきた。
椿さんも指名を受けるようになり、いろんなテーブルを回っていた。
さすがナンバーワンだ。すごい人気。
椿さんがいない間は、前に話したことがある桔梗さんや他のスタッフさんが私の相手をしてくれた。
すると
「桜ちゃんに紹介しておくわ。新人の|菫《すみれ》よ?」
紫のドレスに身を包んだ、菫さんというスタッフさんを蘭子ママさんが紹介してくれた。
「初めまして。|菫《すみれ》です。よろしくね?」
蘭子ママさんと比べると華奢に見えるオネエさん。
ストレートロングの黒い髪の毛は、ウイッグかな。
「初めまして。桜と申します。よろしくお願いします」
軽く会釈をした。
「じゃあ、菫。桜ちゃんに失礼のないようにね」
菫さんと二人きりになる。
「桜ちゃんって言うんだ。歳はいくつ?何の仕事してるの?」
隣の席に座ってくれた菫さんは足を組み、肘をつきながら私に質問をしてきた。
「えっと、二十六歳です。仕事は、普通のOLしてます」
なんだろう。|菫《すみれ》さんに違和感を感じた。
「二十六?なんだ、俺と同い年じゃん。あっ、俺じゃなくて私と……。アハハ、今のナシね?ごめんね。まだ仕事に慣れていなくて」
「あっ……。はい」
「桜ちゃんって、変わってる?こんなところによく一人で来れるよね。もしかして、そういう趣味?」
「えっと……」
なんて返事をして良いのかわからなかった。
この人はきっと好きでここで働いているわけでもないし、オネエさんでもない。
「仕事」として働いているだけだ。だからなんか変だと感じるんだ。
ここで働いている人たちはみんな楽しそうで。お作法も綺麗で。お客さんを大切にしてくれて……。
この人は嫌々ながら働いている、私でもわかるくらい。
どうしてこの仕事を選んだんだろう。
「私は……」
菫さんの質問に答えられないでいると
「ごめんごめん。失礼なこと言って?蘭子さんと椿さんと仲が良いみたいだし、私とも仲良くしてね」
そう微笑みかけられた。
どうしよう。
私は菫さんのことが苦手だ。
私がこんな態度だったら、雰囲気も悪くなるし、椿さんや蘭子ママさんも心配するよね。
お客さんも多くなってきたし、帰ろう。
「私、そろそろ帰ります。お会計をお願いできますか?」
菫さんに伝えると
「ええ!!もう帰っちゃうの?満席じゃないし、まだいいよ。桜ちゃん、小さくて小動物みたいで癒されるし……」
それは褒め言葉なのかな。
「いえ。すみません。今日はたくさんお話をさせてもらったので。これ以上はご迷惑になりますし……」
席を立ったその時、接客中の椿《蒼》さんと目が合った。
椿さんはお客さんに軽く頭を下げ、私のところへ来てくれようとした。
接客の邪魔をしてしまったことに罪悪感を覚える。
けれど、菫さんともう二人きりになりたくなかった私はホッとしてしまった。
「椿さん。私、そろそろ……」
そろそろ帰りますと伝えようとした時
「椿さーん。桜ちゃん、帰っちゃうんだって。引き止めてくださいよ!」
そう菫さんが椿さんに話しかけ、私を後ろから引き止めるように抱きしめた。
後ろから抱きしめられた時、菫さんの右手が私の胸に触れた気がした。
「すみませんっ……。離してくださ……」
えっ……。
今、この人さりげなく胸揉んだよねっ?
私の勘違い?
感触が気持ち悪くて
「やめてください」
そう言うも菫さんはなかなか離してくれなかった。