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「決めたわ!」
魔女は突如立ち上がり、私を見て宣言する。
「キジョウコマリ、あなたをこの店の従業員として雇うわね!」
拒否権は与えない。彼女の目からそんな強い意志を感じ取った私は、反射的に頷いてしまった。
「了承してくれるのね!」
魔女は手を叩きながら喜ぶ。
「嬉しい!今すぐ空き部屋を片付けてくるから待っててちょうだい!」
興奮しているのか、一方的に早口でそう述べた彼女はそそくさと部屋を出ていった。その様子を呆然と見ていた私の後ろから、彼女のペットであるブタが喋りかけてくる。
「リルクに気に入られて良かったな」
「あぁ、うん……」
私はどこか気の抜けた返事をしつつ、机上に目を向けた。そこにあるのはちょっと古い感じの紙と、インクを付けて書くタイプのペンと蓋がきちんと閉められているインクの壺、そしてスピログラフセット。どこかお洒落でちょっと古い感じの物が溢れているこの空間で、それだけが異質感を放っている。言い換えれば、スピログラフセットさえ無かったら、この空間は完璧じゃなかろうか。
とはいえ、私はこの異彩を放つ道具に感謝せねばならない。私が魔女に気に入られたのは、なにを隠そうこのスピログラフセットのおかげだから。
そもそもなんでこうなったんだろう。今の状況は私の願いである「元の世界に帰りたい」からかなり遠のいている気がする。
なんで私が?
どうしてこんなことに?
疑問符だけ浮かべても埒が明かない。
私は魔女が戻って来るのを待ちながら、今に至るまでの状況を整理することにした。