テラーノベル
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六月。長雨がアスファルトを叩く音だけが響く放課後。
図書委員の綾瀬ういは、湿り気を帯びた図書室の空気が好きだった。クラスの誰もが、部活や色めき立つ放課後の街へと消えていく中、ここだけが世界から切り離されたシェルターのようになるから。
しかし、その静寂は、乱暴に開けられた扉の音によって粉砕された。
「あー! 終わった! 終わったわ俺の人生!」
現れたのは、学年のスター、三山さとみだ。泥だらけの練習着のまま、彼はういの目の前の席に突っ伏した。
「……三山くん。ここは図書室です」
「わかってる、わかってるけどさ。赤点取ったら県大会出さないって監督に言われて……。綾瀬、頼む! 生き返らせてくれ!」
それが、二人の奇妙な契約の始まりだった。毎日一時間、練習後の陽向に勉強を教えること。
陽の光をそのまま形にしたような彼と、文字の羅列の中にしか居場所がない私。交わるはずのなかった二人の線が、古い木製机の上で、初めて重なった。
夏休みが始まり、図書室は「二人だけの特別教室」になった。
セミの声が遠くで鳴り響く中、ページをめくる音と、さとみがシャーペンを走らせる音だけが響く。
「綾瀬さ、なんでいつもそんな難しい本読んでるの?」
「……難しいからじゃなくて、ここなら誰にも邪魔されずに、別の世界に行けるから」
ういが小さく答えると、さとみは少しだけ寂しそうな顔をして笑った。
「そっか。俺は、みんなが『三山さとみ』に期待する世界にしかいられないからさ。……ここでの綾瀬との時間は、なんか、現実じゃないみたいで楽なんだ」
さとみは時折、教科書を枕にして眠ってしまうことがあった。
ういは、その寝顔を盗み見る。長いまつ毛、日に焼けた肌。触れてみたいけれど、触れてしまえばこの魔法のような時間は解けてしまう気がした。
彼が望んでいるのは「何者でもなくていい時間」であって、私ではない。そう自分に言い聞かせながら、ういは彼に聞こえないくらいの声で、英単語を呟き続けた。
九月。文化祭のシーズン。
さとみはサッカー部の中心として、クラスの出し物でも常に輪の中心にいた。図書室に来る回数は目に見えて減り、廊下ですれ違っても、彼は仲間たちと笑いながら通り過ぎていく。
「……やっぱり、私はただの『教師』だったんだ」
ういは、胸の奥がキリリと痛むのを、重い画集の角で抑え込んだ。
後夜祭の夜。校庭からは大きな歓声と、キャンプファイヤーの爆ぜる音が聞こえてくる。
ういは、暗い図書室にいた。もうさとみは来ない。そう分かっていても、あの「一番端の席」を離れることができなかった。
その時、静まり返った廊下を、誰かが駆けてくる足音が響いた。
扉が勢いよく開き、月明かりを背負って立っていたのは、汗だくの陽向だった。
「……綾瀬! 探したぞ!」
「三山、くん……。どうして。今は、みんなと一緒にいる時間でしょ」
「いねぇよ! お前に言わなきゃいけないことがあって、抜け出してきたんだ」
さとみは、ういの肩を掴んだ。その掌の熱さが、制服越しに伝わってくる。
「俺、お前が教えてくれた数式は忘れてもいいけど、お前といた時間は一秒も忘れたくない。……本の中の誰かじゃなくて、俺を選んでくれよ。俺は、綾瀬がいいんだ」
ういの瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。
「……私、地味だし、面白くないし、三山くんとは全然違う世界の人だよ?」
「世界が違うなら、俺がそっちに行くよ。……好きだ、うい。世界で一番、お前が好きだ」
窓の外で、打ち上げ花火が弾けた___
こういうの憧れるよね〜
男の子の方、蓮くんにしようか迷ったけど、、、
主の希望で、、、ww
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コメント
2件
あるとくん)面白かったよ!小説上手いね!