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エレン・ヴァーレンターって言うとってもメロい女の話です
産まれた時、誰にも感謝されなかった。
母は何人も男を引っ掛けて、結果私の父、つまりヴァーレンター当主の元へ嫁いだ、所謂悪女だ。父も父馬鹿な人間で、金目的であろうと魅力的な母に、徐々に徐々に蝕まれていった。貢いだ金の量は、その身よりはるかに大きい。返してもらった愛は、自身の指よりはるかに小さい。それでも父は、彼女を愛していたというのだから驚きだ。
そして私が産まれた。私はたいそう母と似ていたそうで、成長した時久しぶりに会う父には、その話題しか話さなかった。私としては、父に会うのも苦痛だった。私は父と母のせいでこの世に産まれたのだ。妾の子でありながら、父の傍に置かれている私が気に食わなかったのだろう。ずっと厳しい言葉を浴びせられてきた。アバズレやら、淫乱やら、体を売ったやら、弱みに漬け込んだやら、私への非難は止むことを知らなかった。そして私の非難が増えたのが、魔法について。
「あんた、魔法弱いの?」
「……そうだね」
「だっさ!出来損ないじゃん。なんでお父様はあんたを傍に置いてると思う?」
「……あはは、分からないな。私頭良くないし」
「あんたが傍にいればね、出来損ないがネズミみたいに縋ってるさまをまじかで見れるでしょ?あははっ!」
私には魔法の才がなかった。魔法が全てのヴァーレンター家は、魔法が不得意な私を嘲り笑った。仕方ないでしょ、近親相姦まがいなことしてるあなた達と違って、こっちは外部の人間なんだから。でも当時の私には言い返す術などなかった。だからずっと耐える日々を続けた。
でも笑顔でいた。負けると思ったから。笑顔じゃなければ、あいつらはやめてくれない。泣いてすがったところで、さらに増すだけ。なら、ニコニコと愛想良くするのが良いことだろう。
ある日、母が屋敷にきた。母は一族から冷ややかな目で見られていても、気にせず私の部屋に歩いてきた。そんな母が羨ましくて、かっこよくて、憧れだった。私は母とよく似ていた。だが似ているのは外見だけで、中身は全く似ていなかった。
「母さ__」
「母様はやめてって言ってるでしょ、要領悪いんだから」
そう言って母は私の頭をピコンと指で弾いた。痛かったけど、同い年の子につけられた傷の方がよっぽど痛かった。
「お母さん、私お母さんみたいになりたいよ。」
「私になんてならないほうがいい。」
「それでも私、なりたいよ。お母さんみたいになって、あいつらを悔しがらせたいよ。」
「そんな事のために人生を棒に振るんじゃないよ。」
母は私の目を見ずそう返していた。母も母で苦労があったということぐらい、分からない人間じゃなかった。馬鹿にされているが、母も守るべきものがあって、悪女にならざるを得なかったのだ。でも、それでも良かった。最終地点が悪女でもいい。だから、お母さんみたいになりたかった。
「……なら、なりふりを構わないこと。自分を貫いて、それで相手も砕けばいいんだよ。」
初めて、大きな紫の瞳が、私を捉えた。まるで閉じ込められてるみたいに、私のことを離さない。母はそれだけ言って父に呼ばれてしまい、私の部屋をあとをした。見つめられた、それだけで母が魔性な理由がわかった。また聞きたいな、お母さんの生き方。
まぁ、その日以来会えなくなったけどね。
母は父に殺された。母の魔性が良くない方向に運んだらしい。心臓を一突きだったそう。私は直接その現場を見ていないが、メイドが血に染ったカーペットを洗っていて、急に実感が湧いた。そうか、母はもう居ないのか。あの瞳が私を捉えることは無いのだ、そして最後にその瞳が捉えたのは父なのだ。それに無性に腹が立った。
その後、父は処刑された。一族全体の公開処刑だった。相変わらず私を虐めている彼女に連れられて、来させられた。だけど彼女もその時は何も言わず、ただ見続けていた。彼女も私と父は同じなのだ。悲しいのだろう。その後は一瞬、ギロチンが落ちて死んだ。正直に言えば、悲しいなんて気持ちはない。父は私から母を奪ったのだ。許されざることでは無い。
何日が経っただろう、虐げられても心が動く事がなくなってしまってから、ひと月程度だっただろうか。私は新当主の元へ引き摺られた。髪を引っ張って、長い廊下を歩かされたが、もうどうでもよかった。皆、いつもならクスクスと笑うところを、混乱の目で見つめている。そんなに私、変?
当主の元へ着き、目の前に行った時に、すぐに右の頬に痛みが走った。私は体幹が強くなかったので、そのまま床へ倒れ込んでしまった。だがそれすら許されず、私は前髪を掴まれて無理やり上を向かされる。そして親指の綺麗な形の爪が、私の右目を潰そうとした。
「あの女のように醜い目だ。反吐がでる。」
「……本当に、顔だけは良いのだな。前のジジイが気に入る訳だ。」
「単刀直入に言えば、君をここから追い出すことにした。荷物をまとめて早急に立ち去れ。」
「……私は、どうなるのでしょうか。」
「知らないな。魔物に食われるか……顔を活かして娼婦でもやればいいんじゃないか?」
「アバズレの子供らしくな」
話は以上と言われ、側近に部屋を追い出された。あの男は、私をアバズレの子と言った。そのことに悲しみはあった。私が望んでこんな産まれをした訳では無い。だがもっと腹が立ったのは、母をアバズレと言ったこと。
あいつ、あいつは。母の気持ち一つわからず、暴言だけで母を片付けた!到底許される所業ではない!腸が煮えくり返るどころか、爆発してしまいそうな私の心の内を、どこかにぶつけてしまいたかった。見返してやる。見返してやる。母と私に暴言をかけ続け、母の命を奪い、奪ったやつを許し、母の弔いもしないあいつらを。私を認めなかったアイツらより強くなって、魔物を倒して、アイツらより活躍するんだ。それで言ってやるんだ。
アバズレの子に守られる気分はどうだって言ってやるんだ!
「……こんな口調じゃ、ナメられちゃうよね。」
もっと強い口調で、母のように。
「私……も違うな。あたし……うん、いいかも」
鏡に映った私の姿は、実に母そっくりだった。
「……あはっ、完璧じゃない。私ったら」
私の名はエレン・ヴァーレンター。
アバズレの子で、討伐屋。
あいつらの守護者で。
「完璧な、魔性の女」
こんな過去があったりなかったり
そして筆が乗ったのでブチ切れも書きました。適当に討伐屋モブくんを作ってキレさせますすみません。
「今、なんて言ったの。」
「あ?だから、ブスな女だなって言ったんだよ!」
「何それ、その冗談笑えないんだけど。」
「実際事実だろ!大体なんだよ、その気持ちの悪い瞳孔!
「……へぇ、そう、あんたそういうこと言うんだ。」
「じゃあ、敵ね」
ここから始まる冷戦はあります。大人気ないってわかってても馬鹿にされてはいそうですかでいられる女じゃないので……。基本フルシカトor冷静淡々でド低音な受け答えしかしないと思ってます。お母さんとお揃いの怒り方だね!
知ってるか、これが普段はメロ女してる褒め褒め保護者なんだぜ。世も末だよ。
コメント
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あちょま、しんどいむりしんどいけどエレンちゃん好きすぎる() お母さんの真似する最後のシーン好きすぎる… とりまエレンちゃんに暴言吐いた討伐屋のモブは魔物の餌にでもしましょうか(