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味方の後ろを移動しながら、私たちは魔星クリームヒルトのいる場所に向かっていく。
幸か不幸か、彼女は常に前線に出続けている。
強力な火力で味方を攻撃されているのは心配だが、敵陣の奥深くにいられるよりは接触が簡単だ。
私たちの目指す先では、断続的に大きな爆音や火柱が上がっている。
彼女の居場所は何と分かりやすいことか。
ちなみに獣星は、魔星の不意を突くために私たちとは別行動をしている。
ポチと一緒に空から奇襲を仕掛けて、私特製の矢を撃ち込む手はずになっているのだ。
「……それにしても、魔星ってずっと戦い続けてない?
ルークが私たちと合流する前も、戦っていたんだよね?」
「はい、あんな感じでずっと魔法を使っていました」
「……うーん?
魔力はどうにか補給できるとしても、疲労は残らないのかなぁ……」
この世界では怪我や病気は比較的あっさりと治るものの、こと疲労に関しては回復し難いという特性を持っている。
私の知る限り、疲労を回復できるのは神剣アゼルラディアやエリクサーくらいのものだ。
神剣アゼルラディアの効果については『生命の実』を由来としているから、これを素材にすれば同じ効果のアイテムを作れるかもしれない。
今度、時間があるときにでも調べてみようかな。
「もしかして、魔星の体力が凄いだけかもしれませんよ。
ムキムキの人だったりして!」
エミリアさんは興奮気味に、そんなことを言った。
なるほど……? 魔法使いって聞くとスマートなイメージだったけど、もしかしたらムキムキのパターンもあるのか。
……うーん? ある? あるのかなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
移動を続け、先ほどまで火柱が上がっていた場所にようやく着くことができた。
ところどころ地面が黒く焦げていて、その周囲には味方が何人も倒されている。
――……酷い光景だ。
念のため高級ポーションを掛けてみると、何人かの傷は癒すことができた。
ただ、息絶えた人には残念ながら効果は現れなかった。
「……魔星、さっさと倒しちゃおうか。
これ以上、命を無駄になんてさせられないから」
「賛成です! でも、魔星はどこに……?」
「……いました、あそこです!」
ルークが示す先、少し離れたところには――こちらの軍勢に囲まれた、敵方の魔法使いたちがちらりと見えた。
1人の魔法使いを中心にして、そのまわりを4人が囲む陣形を組んでいる。
「いくら魔法障壁があるとは言っても、さすがにあれは多勢に無勢じゃない?
護りの魔法なんて、完璧なわけでもないんだから――」
例えばエミリアさんの魔法だって、攻撃を受けるたびに彼女の魔力がどんどん削られてしまう。
そういったデメリットの無い、完全無欠の防御魔法があるのであれば――それだけで戦いが完結してしまうだろう。
「アイナさん、護りの魔法にはいろいろな種類があるんです。
複数人で使うような魔法は、一人のものよりも堅くて、それに弱点も少ないんですよ」
「そ、そうなんだ……。ひとつ賢くなりました……!」
「中心の魔法使いが魔星クリームヒルトです。
まわりの4人は、援護に特化しているようですね」
ルークがそう言った瞬間、中心の魔法使い……魔星が両手を宙に掲げた。
そして、直上に巨大な火球が現れる。
「ちょ、ちょっと!? あんなものが爆発したら――」
――周囲の味方が、全員やられてしまう!!
しかしこの距離、間に合うか!?
「ルーク! 魔星の注意を引いて!!」
「え? 分かりました!!」
とりあえずルークに無茶振りをしたあと、私は思い切り魔星クリームヒルトの方に向かって走り始めた。
宙に浮かぶ火球は少しずつ膨れ上がり、その力を徐々に溜めていく。
……必殺の威力になるまで溜めている?
それならそれで、今回はそれで良し――
私が全力疾走をしている間、地面に大きな衝撃が走った。まるで地震のような揺れが私の後ろから伝わってくる。
おそらく、ルークが必殺技を地面に叩き込みでもしたのだろう。
そしてその突然の揺れは、敵と味方を巻き込んで、全員の注意を戦いから逸らした。
もちろん、魔星クリームヒルトも然り――
「――バニッシュ・フェイトッ!!」
「何っ!?」
射程に入って唱えるや否や、私の魔法が魔星の巨大な火球を掻き消した。
その突然の出来事に、魔星は驚きの声を上げる。
「お、お前!? 何をしやがった!!」
雄々しい言葉を投げ掛けられるも、それは一旦置いておいて――
「みなさん、ここは私たちに任せてください!
距離を取って、可能であれば援護をお願いします!!」
「わ、分かった!! 恩に着る……!!」
私は魔星と対峙しながら、周囲の味方にこの場所から離れるように告げた。
その間に、ルークとエミリアさんも私の側に来てくれる。
「アイナさん!? 無茶しすぎですよっ!?」
「でも、おかげで何人も助かったと思いますよ!!」
「そ、そうかもしれませんけど! で、でも~っ!!」
そんな言葉を交わす私たちを眺めながら、魔星は声の調子をひとつ落として話し掛けてきた。
「……ふん、あんたがアイナか。
情報では聞いていたけど……、そういえばバニッシュ・フェイトなんて魔法を使えるんだったね」
改めて見れば、魔星クリームヒルトは――何と言うか、露出の高い魔導衣を着ていた。
周囲の4人の露出は控えめだが、逆にそれが主従関係を際立たせているというか……?
「初めまして。あなたがクリームヒルトさん?
お会いできて嬉しいです。あなたを倒せば、この戦いが終わるのだから」
「はははっ、言ってくれるじゃないか! どうやったかは知らないが、あんたは呪星を退けたらしいな。
仇討ちのため、国王陛下のため、そしてあたしの栄光のため――あんたにはここで死んでもらうよッ!!」
そう言うと、魔星は改めて火球を生み出した。
しかし、そんなものは私の魔法で――
「バニッシュ・フェイトッ!!」
――消える、はず。
消えるはず、だった。
……しかし、消えなかった。
「……あれ?」
「はははっ! これだから素人は!! はーっはっは!」
「あ、もしかして……」
「え?」
エミリアさんは思わず、といった感じで声を出した。
今の状況に、何か思い当たるものがあるようだ。
「アイナさん。魔法というものはどんなものでも、あらかじめ対策を取ることができるんです。
魔法の構築を妨害する魔法……。魔星たちの足元で光る魔法陣が、おそらくは――」
「あら、そっちの司祭サンは分かっているようね。
あはは、それじゃこれでオシマイ! この至近距離じゃ、身を護る術は無いだろう!? 食らえ、獄炎炸裂――」
「はああああああああっ!!!!」
「シルバー・ブレッド!!」
「――ッ!!?」
魔星クリームヒルトが魔法を放とうとした瞬間、ルークの斬撃とエミリアさんの魔法が彼女たちを襲った。
しかしそれぞれ、まわりの4人によって攻撃は無効化されてしまう。
ただ、4人の手はそれで手一杯のようなので――
「さらに! アイス・ブラスト!!」
「くっ!!?」
私が魔法を追加でお見舞いすると、魔星を囲む魔法使いの1人がようやく傷を負ってくれた。
しかしその直後、他の魔法使いが癒しの魔法を掛けてしまう。……敵ながら、何ともバランスの良い構成だ。
「――ははは! 良い連携だったが、もはやこれまでだな!!
面白い、気が変わったぞ! 降伏するなら、ひとまず命は助けてやろう。だが、国王陛下の前でその罪を償ってもらうぞッ!!」
「分かりました」
「そうだ、そうだろう!? 降伏なんて、するものじゃないよなぁ――
……って、え?」
おそらく魔星は違う返事を期待していたのだろう。私の即答に、彼女は変な声を上げた。
突然の降伏宣言――
私はそのまま杖を地面に落として、抵抗を諦めるように両手を上げた。
「くっ、はははっ!!
今さら、そんな話が通ると思ったか!? バーカ! 嘘に決まっているだろうッ!!」
「そ、そんな! 酷い……っ」
「ははは! 何を狙っていたのかは知らないが、このまま炎に焼かれて死ね!!!!」
そしてそのまま、無抵抗の私に火球を炸裂させようとした瞬間――
ストンッ
「……ッ!?」
突然、魔星の背中に矢が突き立った。
それと同時に、魔星が作り出した巨大な火球も消えてしまった。
後ろの上空では、ポチに乗った獣星がガッツポーズを取っている。
……私も、魔星の注意を引くために嘘の降伏宣言をしたんだけど――しっかり上手く、ハメることができたようだ。
「――獣星の仕業か! 舐めた真似をしやがって……!!
あたしを怒らせたこと、後悔させてやる!! あたしの究極魔法ッ!! ここにいるやつ、全員死ね!!」
そう言うと、魔星は高速で呪文を唱え始めた。
しかし――
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【状態異常】
魔法封印(永続)
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――魔法はもう、使うことができないんだけどね!!