「――ヘルファイア・エクスプロードッ!!!!」
魔星クリームヒルトは高速で呪文を唱え、声高らかに魔法の名前を叫んだ。
私のアイス・ブラストやエミリアさんのシルバー・ブレッドとは違い、かなり長文の詠唱をしていたのだが――
……しかし、何も起こらなかった!!
それもそのはず。直前に獣星が放った矢によって、魔星には状態異常の『魔法封印(永続)』が付与されているのだ。
従って、魔星の魔星たる由縁――魔法を、彼女はもう使えない!
「クリームヒルト様!?」
「まさか、魔法封印!?」
魔星の様子を見て、取り巻きの魔法使いたちが慌て始める。
「ちっ、解除だ!!」
「はいっ!!」
取り巻きの一人は魔法を唱え始め、別の一人は腰に下げた鞄からポーション瓶を取り出した。
さすがに魔法が主軸の編成だけあって、魔法が封じられたときの対策もしてあるということか。
そんな中、念のために薬を鑑定してみると――
──────────────────
【魔法封印解除ポーション(A級)】
魔法封印を治癒するポーション
※追加効果:HP回復(小)
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――と、案外良い効果ではあるものの、今回の状態異常である『魔法封印(永続)』は解除できなさそうだ。
先に調べたところによれば、この状態異常を解除するにはこれ専用の薬が必要になる。
しかしそれは、そんじょそこらで手に入る代物ではないのだ。
そのことを知らないまま、魔星たちは手際良く魔法封印の解除を試みるが――なかなか上手くいかない。
しばらくすると、業を煮やした魔星が声を荒げた。
「貴様……ッ! 何を、何をしたああああぁあーッ!!!!」
「ちょっと強めの魔法封印を施させて頂きました。
特殊な薬でなければ、解けないと思いますよ」
「さっきの矢か!?」
「はい。獣星さんの弓矢の扱いもなかなかのものですね。
矢は私の特別製。負けを認めるなら――いえ、あなたは危険ですから。このまま一生、魔法とはさよならですね」
「ふざけるなっ!!
戻せ……! あたしの魔法を戻せーッ!!」
魔星の絶叫が響く。
それに答えたのは私――ではなく、悠々と地面に下りてきた獣星だった。
「それなら俺の仲間たちも戻してもらおうか?
お前が楽しそうに殺した俺の仲間……返してくれよ? なぁ?」
「はぁ? あたしの魔法を、お前の獣風情と一緒に扱うなッ!!」
魔星の発した言葉に釣られて、思わず獣星の顔を見る。
……そこにはいつもの、無駄に元気、無駄に明るい表情はまるで無かった。
「ルーク!! 魔星はもう無力だから、全力で決めよう!!」
「かしこまりました!!」
私の言葉に、ルークは神剣アゼルラディアに力を込めて、魔星たちを護る魔法障壁に全力で叩きつけた。
おそらくは必殺技、『響震剣』――!!
それをまともに受けて、魔星の取り巻きたちはよろめいた。
魔法障壁があるとはいえ、許容量を超える力を受けてしまえば、完全に無効にできるわけでもないだろう。
4人のうち2人がバランスを崩して、その場に倒れ込む。
すると魔法障壁は形を崩しながら、静かに消えていった。
「アイス・ブラスト!!」
「シルバー・ブレッド!!」
そこに間髪入れず、私とエミリアさんの魔法が残りの2人を攻撃する。
残念ながら私の方は避けられてしまったけど――それと同時に、ルークの追撃がその魔法使いを斬り付けた。
本来後衛である魔法使いたちに、前衛であるルークが近付いてしまえば……あとはもう、倒してしまうだけである。
ルークは次々と、取り巻きの4人を倒していった。
そして最後に残ったのは――
「――く、くそっ! 魔法さえ……! 魔法さえ使えれば……ッ!!」
「でも、魔法を封じるのもタダでは無いんですよ?
あの矢には貴重なミスリルが必要だったんですから」
私が煽ると、魔星はこちらを強く睨みつけてきた。
「貴様の……、貴様の仕業か……!!
この反逆者め!! 大人しく国王陛下に従っていれば良いものを……ッ!!」
「あなたがどれだけ王様を信じているのかは分かりませんが、私には無理です。
……残念ですね。価値観が合えば、仲間にもなれたでしょうに」
誰かを仲間にするのであれば、別の誰かは仲間にならない。
そんなこと、ゲームでもよくある話だ。
「――さて、覚悟はできたか?」
声に殺気を伴わせながら、静かに言ったのは獣星だった。
ゆっくりと魔星に歩み寄り、逆に魔星はゆっくりと|後退《あとずさ》る。
「ちっ、貴様なんぞに……!!
分かったよ、降参だ。……謝罪もしてやるから――ぐはッ!?」
言葉の途中で、魔星は苦しそうな声をあげた。
近寄った獣星から、みぞおちにきつい一撃を食らったのだ。
「謝罪なんて、言葉だけじゃ済まないものだろう?」
「うぐ……、ごほっ、ごほっ……。
わ、分かった……。何でも言うことを聞くから――」
「それじゃ、空の散歩に付き合ってもらおうか」
獣星が手を上げると、待機していたポチが獣星の元に駆け寄った。
そして獣星と魔星を背中に乗せて、宙に浮かぶ。
「な、何をするッ!? ちょっと待て――」
魔星の言葉を待たず、ポチは大空に舞い上がった。
そしてかなりの高度まで上がり、上空を何度も何度も、何度も旋回する。
「……あれ、何をしてるのかなぁ……」
「何となく、予想はできてしまいますが……」
「ルークさんもですか? ……わたしもなんですけど、アイナさんはいかがでしょう……」
「えぇー……。
予想って、例えばあそこから――」
……あ、魔星が落ちた。
うわ、イヤな音がした。
……即死、だよね。
その光景を目の当たりにしたあと、私はルークとエミリアさんと顔を見合わせた。
魔星の、何とも無惨な最期だった。
いくら七星の中で最強だとは言っても、魔法を封じられた上であんな高さから落とされたのでは……もう、どうしようもできないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔星が息絶えたことを確認すると、獣星はそのまま戦場を離れていった。
心情的に、そのまま戦うのは難しかったのだろう。
その後聞いた話によれば、離れる許可は軍事参謀のオリヴァーさんにしっかり取っていたらしい。
さすがに真面目というか、しっかりしているというか……。
それはともかくとして、魔星の死亡を皮切りに、王国軍には撤退ムードが広がっていった。
敵と味方、お互い戦力は削り合っているものの……こちらにはまだ神器持ちのルークがいる。
しかし、敵方には特異の強さを持つ者はもう誰もいない。
そもそもで言えば、神器持ちのルークに挑むこと自体が凄いことではあるのだけど。
「一旦、オリヴァーさんの判断を仰ごうか。
ここから収拾をどう付けるかも分からないし」
「そうですね、それでは私が行って参りましょう。
アイナ様とエミリアさんは、怪我人の手当てをお願いします」
……そういえば、周囲には怪我人が大勢いる。
私も魔星との戦いにはしゃしゃり出ていたけど、怪我人の治療をしていた方が私らしいというものだ。
「うん、分かった。
それじゃ戦いの方は任せちゃうね。でも、何かあったら呼んでね」
「はい。今が大詰めなので、私としては一気に攻め上がりたいところですが――
……私が戻ってこなければ、この戦いの総仕上げに行っているものと思ってください」
「このまま終わると良いね。
最後まで油断しないで、みんなで頑張ろう。あとで夕飯、一緒に食べようね」
「分かりました。アイナ様とエミリアさんも、どうかお気を付けて」
「今日はお肉料理が良いですねー」
……肉。
いや、何でもないけど、肉かぁ……。
「それじゃ、最後までがんばろーっ!」
「はい!!」
「おーっ!!」
三人で鼓舞したあと、ルークはオリヴァーさんのいる方向へと走り始めた。
私とエミリアさんは周りの怪我人に声を掛けながら、順次怪我を治していく。
――戦いで勝つのが大前提。
その上で、みんながしっかり生き延びることが大切だからね。
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