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#僕のヒーローアカデミア夢小説
ある日、アリアが泊まっている宿屋に手紙が届いた。
中身を見れば招待状のようで、アリアとの交流を持ちたい……という内容だった。
「……なるほど。こういうのも、悪くはないかな?」
アリアはまんざらでもない笑みを浮かべて、返事を書くことにした。
――後日。
招待された場所は、郊外にある大きな邸宅だった。
庭は荒れていたが、元々は美しく整えられていた……そんな印象を受ける。
「初めまして、ノクス嬢。ようこそいらっしゃいました」
「お招き頂きまして、ありがとうございます。
……『ヴォルフガング様』、とお呼びすれば良いですか?」
「ははは。もっと気楽に、ヴォルフとお呼びください。私は貴族でもないのですから」
「それではお言葉に甘えまして、ヴォルフさん……と。
あたしのことも、気楽にアリアと呼んでください」
「承知しました、アリアさん。まずはお茶など、いかがですか?」
アリアはヴォルフの案内に従って、邸宅の中へ入っていった。
「……使用人はいないのですか?」
「ええ。以前はいたのですがね、数年前から徐々に数を減らしておりまして。
ここ1年は、もう私ひとりですよ」
「へぇ……」
広い邸宅で、ここに住んでいるのはヴォルフがひとり。
何か理由があるのか、ただの変わり者なのか。
「ははは、不思議がるのも仕方がないですね。
実は秘密の研究をしておりましてね。可能な限り、自分以外の人間を入れたくなかったのです」
「なるほど。誰かいるのと、誰もいないのとでは、随分と違いますからね」
信用している人間だったとしても、信用している筋からの紹介だったとしても。
結局のところ、裏切られるときは裏切られるのだ。
だから、身の安全が確保できているのであれば、ひとりで暮らすというのも良い選択だろう。
「――ただ、建物が広いので。
そろそろ手狭なところに引っ越そうと思うんですよ」
「おー、それは良いと思います。家の管理で、時間が取られちゃいますからね」
実際、庭は荒れていた。
邸宅の内部はそうでもないが、多少、掃除が行き届いていない感はある。
そんなことを考えていると、ヴォルフが紅茶を淹れて、アリアに出してきた。
「さて。それでは本日、アリアさんをお呼びした理由ですが――
……実は、私の研究について相談をさせて頂こうと思いまして」
「ああ、手紙に書いてあったやつですね」
「はい。ご承知の通り、私の研究対象は……オルビス神の加護である、異能についてになります」
異能という存在は、人智を越えたものとして、広く認識されている。
しかし、これを持つ者もいれば、持たない者もいる。
そのため、異能は『オルビス神から特に愛された証』とされていた。
「その研究は興味深いですね。でも、何であたしをご指名で?」
「ふふふ、ご謙遜を。アリアさんは、教団内でも優れた立場を築かれているではないですか。
そんな方と神の加護について語らうのは……素晴らしいとは思いませんか?」
アリアはその言葉を聞いて、まぁ確かに、とは思った。
少し手元が落ち着かず、出してもらった紅茶に口をつける。
……毒や薬の類は、入ってはいなさそうだった。
「あたしから何か言えることは無いかもしれませんが、分かりました。
それでは何なりと、何でもお聞きください」
「――いえいえ、まずはこれをご覧ください」
「え?」
ヴォルフはアリアを制すると、ソファの後ろからバインダーの山を取り出した。
そこにはかなりの量の紙が挟まれている。
「さぁさぁ、まずはこれです!
私がまとめた、異能の一覧なんですよ!」
「ほぅ!?」
アリアの目が輝いた。
多くの異能を目にしてきた彼女ではあるが、体系的にまとめられた資料というのは、あまり見たことがない。
もしかしたら、自分の知らないものが書かれているのでは――
……そう思ったが、期待を裏切るかのように、なかなか充実した内容が書かれていた。
「うーん、凄いですね!
しかも細かいところまでまとめられていて……。
これ、どうやって調べたんですか?」
「ふふふ、企業秘密です――と言いたいところですが、私はそれなりの情報網を持っておりましてね。
本人へのヒアリングや、目撃情報からの調査などを行って調べたのです」
「なるほど、なるほど……」
異能というのは、正しく使用できる人間であれば、特に制限の対象にならない。
従って、ヴォルフが言ったような形で調査をすること自体は、何の問題も無いのだ。
反面、誤って使用する人間の場合は――
……教団の異端諮問局に見解を求められ、問題があるとされた場合は処分が執行される。
そのため、アリアが所属する異端諮問局には、基本的に『諮問官』と『執行官』という職位が存在しているのだ。
「――まぁ、この辺りは刺激が弱いでしょう。
もう少し、刺激的なものをご覧になりますか?」
「ほうほう……!」
アリアの目は、引き続き輝いた。
大半は知っているものだったが、たまに変な異能も混ざっていた。
これはどうやって使うのか……とか、自分だったらこう使うだろう……とか、そういった類の想像が実に楽しい。
……そもそも、アリアが誰かと異能の話をすること自体、かなり珍しいことだった。
紅茶を何度かおかわりして、日もとっぷりと暮れた頃――
……ヴォルフは少し疲れているようだった。
というのも、ほとんどはヴォルフが熱心に語っていたというのが理由だった。
「あ……、もう遅い時間ですね。
あたし、そろそろ帰ろうかと思うのですが」
「そうですか? それは残念です……。
……本当に、残念で――」
言葉の途中で突然、ヴォルフは大粒の涙を流してきた。
「え、えぇ!? ど、どうしたんですか!?」
「い、いえ……。とても、とても楽しい時間だったな……と。
私はずっと孤独に研究を続けていたので、誰かに……然るべき人に、ずっと聞いてもらいたかったんです。
しかし、実際に聞いてもらったら、次はいつ、こんな機会がやって来るのかと――」
……孤独というのはつらいものだ。
例えまわりに人がいても、社会的な孤独というものがある。価値観的な孤独というものもある。
教団に所属もしていないのに異能を研究する……などというのは、なかなか奇異の目で見られてしまうかもしれない。
「――私には、才能がありません。
だから、地道に、愚直に、研究を続けるしかありません。
しかしもう、私の心は……折れてしまうかも、しれない……」
ふむ……、と、アリアはヴォルフを見た。目線は合わせてくれない。
必死に、涙を拭う姿を見せている。
「才能があれば全ての悩みが解決する……というわけではありません。
が、ヴォルフさんは、才能が欲しいですか?」
「……はい。私はもっと、異能について理解したい。触れていたい。
もっといろいろなことが分かれば、アリアさんに……いえ、教団にも何かお伝えできるかもしれない――」
ヴォルフとアリアの目が合った。
彼の瞳は、アリアに強く訴えかけている。
「……ふぅ。あたしは、普通とは違う祝福を与えることができます。
もしかしたら、それをきっかけに、何かしらの才能の芽が出るかもしれません。
そういうことは、興味がありますか?」
「それは……そんな、ことが? もしそんなことがあれば、私は何と幸せでしょう……。
もしかして、アリアさんは――」
アリアは少し間を取って、自身の指を何度か眺めた。
最終的に、軽く息をついて、ヴォルフの額を指で触れる。
「――ならば祝福を与えよう。
汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」
詠唱が始まると、ヴォルフは静かに目を閉じた。
ようやくゴールにたどり着いたような……、そんな安らぎのようなものが伝わってくる。
「――神の祝福はここに在り。
望みと共に、その魂から発芽せよ――」
ヴォルフは額に一瞬の熱さを感じたあと、全身に稲妻のようなものが走るのを感じた。
それは自身が外部に広がり、外部が自身に流れ込むような……不思議な感覚。
「あなたが手に入れたギフト――異能は、『無限魔力』――
……え? な、何で? 何で急に、そんなものが!?」
アリアは驚愕した。知識としては持っていたが、これは教団としては容認できない異能だった。
彼らの神が、異端とする存在のひとつ。
全ての制約から解き放たれ、人智を超えた量の魔力を供給するという――
「――さらに? こ、これは――」
「魂の変質が止まらない……!? もしかして、『開花』まで進む……ッ!?」
異能や才能を芽吹かせる『発芽』に対して、その先に存在する――『開花』。
新しい芽が大きな樹木へ育つように、異能や才能も大きな成長を見せる。
しかしそれには、膨大な量の経験や知識が必要なはず――
……いや、ヴォルフは既に、それをこなしていたのか。
アリアは思い至った。今までは、芽吹く機会が無かっただけなのだ、と。
「ふふふ……っ。 はははっ! あーっはっはっはっ!!
こ、これは……予想以上だ!! 狙い通りの異能と共に、その檻も破壊するとは――」
「……狙い通り?」
ヴォルフの言葉に、アリアは反応した。
「ああ、そうだよ。
貴様が異能を与えているのは、監視魔法で把握していたッ!!」
「監視魔法……。そんなものまで、使えたの!?」
「……ふふふ。貴様のことは、ずっと見ていたよ。
その力、確証を得るために……幾度か、干渉させて頂いたがね」
それを聞いて、アリアには思い当たることがあった。
不自然な爆発事故や、通り魔による傷害行為など――
「……なるほど。計算ずくめだった、ってわけね」
「ああ、そうだよ。……私の本職は、魔法使いなのだ。
だから貴様には、礼として――我が『無限魔力』による、最高の魔法で無に還してやろう」
ヴォルフは胸元から1枚の紙を取り出した。
その紙を勢いよく破ると、周囲の景色が歪んでいき――巨大なホールに変わっていった。
遮るものが無い地平線。地面を埋め尽くす石畳。柱など無いのに、高く高く張られている天井。
……何とも、不思議な空間だった。
「最初から、ここで戦うことを想定していた……、ってわけね?」
「その通りだ。私の演技力も、なかなかのものだっただろう?」
「劇団をお探しなら、紹介しましょうか?」
「くくくっ、戯言を。
……さて。それではまずは、この魔法で――」
ヴォルフはアリアに手をかざした。
しかし一瞬後、ヴォルフは不思議そうに自身の手を眺める。
「……? ……いや、そうか。
私が異能を持つように、貴様も異能を持っているのだな……?」
ヴォルフはにやりと笑った。
「有能になった研究者さんに、あたしの異能が分かるかしら?」
「……これは、アレだな……。なかなかに珍しく、私も話でしか聞いたことはないが――
貴様が持っているのは……数多の異能を、数多の攻撃を無力化する、『対象化拒否』の異能だろう?」
「へぇ? これを知っているんだ? さっきの資料には無かったのに」
『対象化拒否』の異能を持つ人間は、攻撃や異能の対象として選べない。
そのため、一見すれば無敵の異能にも見えてしまう。しかし――
「だが、それも無敵ではない。貴様を対象にしなければ良いだけ。
例えば、貴様の後ろの柱を――……なッ!」
ヴォルフは手の先に魔方陣を作り出し、そこから巨大な火球を生み出した。
そしてそれを、アリアの――いや、アリアの後ろの柱に投げ付けた。
火球の軌道上にいたアリアは、一瞬力を溜めてから、華麗に飛んでかわす。
「博識なのね。さすが、開花に進むだけはあるわ」
「私は全ての魔法、全ての異能の知識を、あらゆる手段で得てきた。
その中で今、私は最強の『無限魔力』を手に入れたのだ……。貴様の異能なんぞ、敵ではないッ!! フハハハハーッ!!」
「……全ての、魔法? 全ての、異能?」
アリアはヴォルフを真っすぐに見つめながら、言葉を続けた。
「――それなら。
『|簒奪《さんだつ》の|五指《ごし》』のことは、知ってる?」
「ほう? 貴様ら異端諮問局が探していた異能のことだろう? それがどうした!?」
「へぇ……。まさか、知っているんだ。極秘情報なのに、どこで聞いたのやら」
「ふふふ。私には有能な『草』がたくさんいるのでな。
……まぁ、これはこの街の、脇の甘い情報屋から聞いた話だが」
脇の甘い情報屋――
そう言われても、アリアの頭にはひとりしか浮かんでこない。
同時に、『あいつかー!!』という言葉が、アリアの中で響き渡った。
「……それで? 知っているのは、それだけ?」
「ふん、既に存在しない異能なんぞに興味は無い。
あれを持つ者は、異端諮問局によって殺されたのだからな」
その言葉に、アリアは冷笑した。
「何だ、期待外れね……。随分と、浅い知識だこと」
「ふっ、……ならばどうする? この強大な力を手に入れた私を、止められるとでも言うのか!?」
「止めるよ。この力は、一線を越えている」
「――何だと?
いや……な、何だ!? こ、この光は――……ッ」
ヴォルフの視界は白に焼かれ、次の瞬間、闇が落ちた。
どうにか目が慣れてくると……そこに立っていたのは、先ほどまでとは明らかに雰囲気の違う少女だった。
黒いローブに黒い帽子、黒い靴。金色と赤色の刺繡や装飾が沈むように施されたデザイン――
「――異端諮問局、特務裁定官。
アストリア・S・ノクスの名において、私がお前に終わりを告げる」
……明らかな特別感。明らかな異質感。
全てを敵にまわすような、全てを味方に付けるような。
たかがひとつ、異能を開花したにすぎない自分とは、比べるべくもない――
「……くかかっ、私を異端と認めるか!
それでは、諮問を飛ばした執行を――貴様の裁定とやらを、やってみてはどうかね!?」
ヴォルフは見下すように、軽蔑するように、黒の少女に言い放った。
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