ガチャン……
重い鉄の扉が閉じる音が、薄暗い部屋に響いた。
健と紗羅は、冷たい石の床の上に押し込まれ、背後で村人たちの足音が遠ざかっていく。
『……大丈夫か?』
健が小声で問いかける。
その声は低く、けれどわずかに震えていた。
「うん……でも、どうして……」
呪いが解けてもう何日も経っている。
それなのに、村人たちは健がまだ“化けオオカミ”だと信じ込んでいる。
偶然、見つかった二人は、逃げる間もなく取り押さえられた。
健は鉄格子に両手をかけ、外を睨んだ。
『言うても、信じてもらわれへんやろな……』
悔しさと諦めが混じった関西弁が、牢屋の空気をさらに重くする。
紗羅は健の腕にそっと触れた。
「大丈夫。必ず出られる方法を見つけよう。二人一緒に」
その言葉に、健は少しだけ表情を緩めた。
牢屋の中には小さな窓が一つ。そこから差し込む月明かりが、健の横顔を静かに照らす。
外の自由な空気は、こんなにも近いのに遠い……
健は紗羅を抱き寄せ、小さく呟いた。
『……離れへんで。絶対。』
その瞬間、外から足音が近づいてくる。
村の裁きが、明日行われるのだと告げる声が響いた。
逃げ道は、もうほとんど残されていない。