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「志摩〜しま〜し〜ま〜」「うるせぇな。ここ裏路地だぞ。静かにしてろ」
「俺たちさぁ…なんでこんなとこに居るの?」
「なんでって…そりゃ…」
違法な営業をしている疑いがある風俗店を調査のため第2機捜が動いていたが、
伊吹と志摩たち所属する第4機捜が引っ張り出されていた。
「どうせ人手不足とかだろ」
作戦は第4機捜メンバーで、客のふりをする班と路地裏で張り込みをする班に分かれて
証拠が見つかり次第確保する…と言うものだ。
ちなみに中心で動くはずの第2機捜は、警視庁内で風俗店で働くスタッフなどの周辺を調査している。
「完全に便利屋扱いだな」
「いやっ!それは分かってるんだけどさぁ!俺が聞きたいのはなんで九ちゃんと陣馬さんが客のふり班なのかってこと!」
「急に大きい声出すなよ」
「俺だってきゅるっとした女の子と話したかったー!」
「そういうところだろ」
「へ?俺以外に適役はいないっしょ?」
「そうやって女の子に口説こうとするから外されたんだろ」
「ええ〜」
「俺はこの班で良かったけどな。風俗店はあまり好きじゃない」
「うー。九ちゃん、陣馬さんずるいよー」
隣で文句を言い続ける相棒を無視して、風俗店の裏口を眺める。
こんな時間でも表通りはまだうるさいってのに、裏路地は光すらもなく静かだった。
その静かすぎる空間でも、不思議と寂しくはならない。
「あ!」
ぼんやりしてたら、後ろから声が飛んできた。
その声に肩をぴくっと跳ねさせる。
「うぉっ、びっくりした。なんだよ?」
「メロンパン買ってたんだった!」
さっきまで嘆いていた伊吹は嬉々とした顔でカバンを漁っている。
「さっき寄ったスーパーにさ、面白そうなメロンパンあってさー」
「へぇ…」
「カレー味とか、梅味…たくあん味…唐揚げ味…コーヒー味…」
「…はぁ?」
絶対メロンパンに合わないであろう味が並べられ、志摩の眉間にシワが寄る。
「あ、志摩ちゃんも食べる?」
志摩は無言で並べられたメロンパンの中で唯一まともそうなコーヒー味をひったくる。
「あ!それ俺狙ってたのにぃー」
好物を取られた犬のようにしょんぼりとする伊吹を見てつい口元が緩み、
コーヒー味のメロンパンを一口食べる。
「ん、案外悪くない」
「志摩ぁ!やばい!」
「だから大きい声出すなって…」
再びかけられた大きい声で咳き込みそうになりながらも伊吹の方に目を見やる。
伊吹は梅味のメロンパンを大きくかじっていたところだった。
「これ…全然美味しくない…」
「だろうな。なんでそんなもの買ったんだよ」
「だってぇ…面白そうじゃん…」
次は嫌いなものをうっかり食べてしまった犬のような顔をする。
「感情が忙しい奴だな」
「ゔー」
「残すなよ」
「ゔぅー」
梅味のメロンパンを持ったまま固まっている伊吹を見て、つい口元が緩む。
視線を戻すと、さっきの顔と打って変わって伊吹は訝しげに窓の外を見ている。
「どうした?」
「ねえ、志摩。あれさぁなーんか怪しい匂いする!」
伊吹が見ている方向を見る。そこには全身黒い服の男性らしき人がいた。
「ん?足取りが早くて何度も後ろを振り返ってる。怪しいな。追うぞ」
「了解」
伊吹は梅味のメロンパンを志摩に押し付け、メロンパン号のドアを開けて怪しい人物を追うために走る。
「あ!メロンパン食べないでよね!あとで食べるから!」
「こんなもん食うわけねぇだろ。分かったから早く行け」
___________________________
人が全くいない路地裏。その中で伊吹と志摩は走っていた。
『ん〜?』
『どうした?』
イヤホン越しに伊吹の悩むような声がする。
『いやね、いま怪しい人追ってるんだけどさ、なーんかおかしいんだよねぇ』
『…まさか』
『へ?』
『伊吹!今すぐUターンしろ!いま追ってる奴とは別の人が反対方向にいる!おとりかもしれねぇ!そいつは俺が追う!だからお前は反対方向に行った奴を追え!』
『了解!』
伊吹はその声を聞いた瞬間、Uターンして、俺とハイタッチしようとし(拒否したが)、
そのままものすごいスピードで駆けて行った。
本当に運動神経良いな、あいつは。
『へへっ、楽しくなって来たじゃーん!』
『チッ。伊吹!応援は見込めなさそうだ!あっちでも動きがあったらしい!』
『おー、一斉に動いたねぇ』
『…ねぇ』
『なんだ?』
前の男が入り組んだ路地裏を巧みに進んでいてうっとおしいと感じていた時だった。
イヤホンに入る声は、珍しく声色が真剣な伊吹。
その声に困惑しながらも話を聞きつつ前にいる男を追う。
『多分、あいつナイフ持ってる』
『は?嘘だろ…』
まさかの凶器持ち。伊吹のことだからやられはしないだろうが、捕まえるのは厳しそうだ。
『しかもこのままだと大通りに出ちゃうよ?』
『…俺の方も大通り方向に向かってる』
『へ?…もしかして?』
『…ああ。もしかしたら集合場所を指定していたのかもしれないな』
『だよね!え、じゃあ俺はそのまま追ってるね!』
『ああ。まだ確信は持てないが、車に戻ってもう一回応援要請する』
『ウィー!』
こんなに走った日は久しぶりだ。
息が上がりながらも進んだ道を戻る。
『犯人ちゃーん。待て待てー』
『チッ!クソがっ!』
『 おい!あまり刺激するなよ!』
犯人候補は俺たちが追っているのに気づいたようだ。
もうすぐメロンパン号が見える。足のスピードを一段上げた。
『こちら機捜404!怪しい人物を発見!大通り方面に逃走中!ただいま伊吹が追っており、至急応援願いたい!』
無線を乱暴において、ハンドルを大きく切る。
路地裏は走りにくいが、抜けてしまえばこっちのものだ。
パトランプを取り付け、大通り方向へ向かう。
『志摩!志摩ー!やっぱりあいつナイフ持ってた!大通りで振り回してる!』
『はぁ?くそっ!お前は無理するなよ!あと少しで着く!』
『合点承知の助!』
本当に分かったのだろうか?あいつがこう言う時は大体分かっていない。
アクセルをさらに踏む、道路交通法ギリギリの速度だ。パトランプが夜の街に響いている。
『犯人ちゃーん!大丈夫だからねー。話なら俺たちが聞くからさ!』
『クソッ!お前サツかよ!』
『うぉっ。危ないなー。民間人が怪我しちゃったらどうすんのよー!』
『んなもん知らねぇよ!』
『もぉー』
イヤホン越しに聞こえる伊吹と男の声は志摩を焦らせるには十分すぎる材料だった。
伊吹の荒い息が今の状況を物語っていた。
「伊吹!」
「お!志摩ちゃーん。遅いよー」
「これでも急いだ」
急いで車から降りて伊吹の方を見る。
伊吹は男と対峙していた。
伊吹はちらりとこちらを向いてすぐに男の方に視線を戻す。
そしてニヤリと笑って男に飛びかかる。
「そーらよっ」
「チッ!」
「あ、皆さんはこちらへ…」
志摩は逃げ遅れた人たちを誘導する。
伊吹は巧みに凶器を持った男の攻撃を避け、制圧しようとしている。
たが、あれは勘頼りに避けているであろうので、こちらまでヒヤヒヤさせてくる。
「おにごっこは続くよー?」
伊吹の声に男は一瞬たじろぐ。
その隙に伊吹は斜め横に飛び、男の攻撃をすり抜ける。
誘導し終えたので伊吹をカバーしに行く志摩。
バカだけど上手いな…
「志摩ー志摩ぁーしーまー」
「ああくそっ。分かってるよ!」
予測不能の動きをする伊吹を何とかカバーしていた時、かけられる伊吹の声。
その伊吹の意図を理解し、即座に警棒を取り出す。
「はーい交代!」
伊吹の合図と同時に志摩の位置と伊吹の位置が入れ替わる。
男は混乱していた。
「次は俺が相手だ」
「急に出てきてお前誰なんだよっ!」
「残念。俺も警察です」
「あと俺の相棒ね!」
この男は凶器を扱い慣れていないようだ。
手が震えている。
「余裕だな」
「ナメんなよ!」
「ナメない方が無理だと言う話だ。なぁ?伊吹」
志摩から合図をくれた伊吹はこちらに向かう。
その様は餌を見せられた犬のようで、つい笑みが漏れてしまう。
志摩が避けたのを確認した伊吹は男に飛び乗る。
「クソがっ」
「俺の勝ちー」
「はぁ…」
「…!志摩!後ろ!」
確保できて安堵していたら伊吹の切羽詰まった声がした。
ハッとして即座に後ろを向く。もう1人の男のことをすっかり忘れていた。
間に合わず、ナイフが志摩の顔をかすめる。
__________________________________
「…おい。くっつきすぎだ。邪魔」
「だってぇ…」
えぐえぐと子供のように泣きじゃくって志摩の腰あたりに手を回している伊吹。
事件の事後処理は陣馬さんたちがやってくれているが、このままだと俺の服が汚れる。
だから早く離れて欲しいのだが。
「俺のせいで…」
「だから別にお前だけのせいじゃない。俺も、もう1人のことを忘れていたしな」
「でもぉ…志摩ちゃんの顔に…」
「別にかすり傷だ」
「うぅう…」
あのあと陣馬さんと九重が来てくれたことで、事なきを得たが、いま問題なのはコイツだ。
さっきからずっと謝ってきて本当にうっとおしい。
「…ごめん」
「だからお前だけのせいじゃねぇって言ってんだろうが」
「ごめん…ごめんね、志摩ちゃん」
「…はぁ。おい伊吹」
志摩は伊吹を離そうとする。
伊吹の力は想像以上に強くて一ミリも動かない。
「伊吹。こっち見ろ」
「んえ?」
腰には手を回したままだが、ひとまずこっちを見たので良しとしよう。
志摩はポケットから何かを取り出す。
梅味のメロンパンだった。
「あ!それ…」
「お前が食ってくれねぇと困るんだが」
梅味のメロンパンを伊吹に手渡す。
「うぅー」
伊吹はそのメロンパンをかじるが、やはりまずいようで、眉間にシワがよっている。
その様子を見て志摩は小さくため息をついてそのメロンパンを半分もぎ取る。
「え?」
「俺も食ってやるから残すなよ」
「…!うん!」
伊吹は笑顔になり、手をこちらの方に出す。
「?」
「ほら!ハイタッチ!さっき拒否されたもん!」
「あぁ…」
確かにそんなこともあったっけなと思いつつ、渋々その手に応える。
夜の緊張が徐々に溶けていく中、俺たちは静かに夜を終えた。