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「いぶき、あそぼ!」
「いいよ!何する⁉︎鬼ごっこ?」
「シマ先生…あのね…」
「ん、どうかしたのかな?」
「これ、あげる!」
子供達の元気いっぱいな声が響く。
伊吹と志摩は幼稚園にいた。
なぜここにいるかというと…
「で、なんで幼稚園なんですか」
志摩が資料から目を上げる。
伊吹は写真を見て「かわい〜」と笑っていた。
「対象はこの保護者、中田孝一、37歳。娘は、中田結衣」
桔梗の持つ端末の画面に映るのは、スーツ姿の男と隣で笑う女の子。
「一見は普通の父親。でも別件の詐欺グループでこの男が容疑者に上がった」
「へぇ、パパが悪いことしてんのか」
「断定はまだ、だから潜るの」
志摩が資料をめくる。
「接点は…幼稚園の行事と送迎時のみ。それ以外はなし」
「そう。しかも最近、被害者の1人が子供経由で安心させられたって証言してる」
「子供けーゆ?」
伊吹が首をかしげる。
「うちの子と同じ園ですよね。と、安心させるための材料に使われた可能性があるってこと」
「えぇ!」
「なるほど、だから園の中でどう振る舞っているのかを見ると」
「ええ。園長に許可はとってある」
「潜入ってことは、せんせー役?」
「いいえ、資格を持っていないからダメね。だから2人とも保育補助。わかった?」
「あぁ、はい」
「え〜残念」
「このことを知っているのは園長だけ、だからくれぐれもバレないように。それと…」
「それと?」
「いい?相手はあくまでも保護者。子供もいる、慎重に。何より優先は園児の安全。絶対に巻き込まないこと」
「「了解!」」
_________________________
1日目
「皆さーん!おはようございます!」
「おはよぉございまぁす!」
「今日は、新しい先生が来ています!」
「え!」「だれだろー?」「たのしみだねー」
「はい!みんなおはよー!伊吹っていうよ。よろしくね!」
「いぶき?」「あそぼー!」「せぇたかーい」
「志摩です。よろしく」
「シマ?」「かっこいい…」「いぶきのおともだち?」
「はい、ありがとうございます!じゃあみんな…」
「よろしくおねがいしまぁす!」
「いやーかわいいね!子供たち!」
「そうだな」
「ん?それどうしたの?」
「あぁ、女の子から貰った。結衣ちゃんだ」
志摩の手にはタンポポが一輪あった。
「結衣ちゃんって、確か」
「対象の娘」
「やっぱり?モテモテだね志摩ちゃん」
「そういうわけじゃないと思うが…まぁラッキーだな」
「ライバル出現?」
「バカ」
「あ、今バカって言った!バカって言ったほうがバカなんだぞ!」
「はいはいそうですね」
「あのー…」
2人ともハッとして声がした方を振り返る。
そこには小柄な女性の先生がいた。
「あ、すみません」
「いえいえ。お二人とも仲がよろしいんですね」
「そういうわけでは」
「え、違うの?」
「違うんですか?」
「…ッ、あー…えー、まぁそう、ですね」
嬉しそうな伊吹とクスクス笑っている先生が楽しそうに会話をしている。
その様子を見ていると思わず笑みがもれる。
「あの、何か用事があったのでは?」
「あ!そうでした。これから自由時間なので、ぜひご一緒に」
「お!じゃあ鬼ごっこしようっと」
「ちゃんと子供に合わせろよ?」
「だいじょーぶだって!」
[自由時間]
新しい先生が入ったことで、どうやら子供たちは興味津々のようだ。
そして予想通り、伊吹は子供達に囲まれていた。
「あいつは子供受けがいいからなぁ」
「そうですね。ああいう先生は保育士向きです」
急に後ろから声をかけられたので驚く。
園長先生だった。
「園長先生」
「驚きましたよ。最初警察だと言われてどういう人が来るんだろうと」
「あぁ…身構えますよね」
「ええ、そして不安もあったんです。」
「不安?」
「偏見ですけど、警察って怖いイメージがあるので…子供達に危害与えないかなぁと」
「偏見ですねぇ」
「志摩さんも伊吹さんもいい人で良かった」
「俺も?」
「貴方みたいな先生も人気が出るんですよ。特に女児」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「ふふ、頑張ってください」
励まされた、のか?
別に落ち込んでいるわけではないが…
[降園の時間]
「来た」
「あれが?」
「あぁ、中田孝一だ」
画像と同じスーツ姿の孝一が娘を迎えに来た。
そのまま帰ると思いきゃ、他の保護者たちと話し始める。
「…?」
「どうした?」
「いや、なんか、う〜ん?」
「…他の保護者との関係は良さそうだな」
「気持ち悪い」
「え?」
「結衣ちゃんパパさ、なんかずっと笑ってないんだよ」
「は?あぁ、作り笑いってことか?」
確かに言われてみれば、ずっと口角は上げているが目は笑っていないように見える。
「これってフツー?」
「どうだろうな、案外普通かもしれないな」
「ふーん…」
すると、孝一がこちらを向いて近づいてくる。
「あなたたちが新しく入ってきた先生でしょうか?」
「あ、はいそうです」
「うん」
「あぁ、結衣をよろしくお願いします」
「…」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
「はい。結衣お待たせ帰ろうか」
「うん!」
親子関係は良好なようで、その親子は手を繋いで帰っていった。
___________________________
2日目
[自由時間]
「シマ先生って、パパみたい」
「え?」
「お話しするの上手だもん!」
「へぇ…パパのこともっと教えてくれる?」
これを機に有力な情報が手に入るかもしれない。
「うん!いいよ。あのね、私ねパパのお手伝いしてるんだよ!」
「お手伝い?」
「パパがね結衣が『パパ優しいよ』って言ってくれると助かるんだって言ってたから、 言ってあげたの!」
「…そっか」
「ふぃ〜。走った走った」
「伊吹さん!ちょうど良かった」
「え?」
休憩しているところに声をかけられる。
若い女性の先生たちだ。面倒くさいなぁ…
昨日もそうだったが、この人たちは隙あらば伊吹に話しかけてくる。
「なんですか?今休憩中ですけど」
「そう言わず〜少しでも、ね?」
「ん〜」
猫撫で声でそう言われ、どうしようか迷う。
そういえば、志摩ができるだけ先生たちとは話せって言ってたっけな…
情報が入るかもしれない。
「少しだけなら」
「やった!」
「優希くんってイケメンですよねぇ〜」
「うんうん。大きくなったら絶対モテますよね」
「いい仕事にも就けるでしょうねぇ」
「いい仕事といえば…結衣ちゃんパパのとこも仕事すごいんですよね」
「結衣ちゃんパパ?」
「うん。ほらここって、結構いいとこの子が多いから」
「そうなの?」
「うん。だからみんな着る服もいいやつ」
「羨ましいよね〜」
「ね〜」
「ふーん…」
そのあとは大して良さそうな情報もなく、みんな自分のことばかりで飽きてきた。
しかも距離もだんだん近づいてきてるし…どうやって抜け出そうか。
「伊吹」
「!志摩」
「ちょっと来い」
「ちょっと、今話している途中で…」
「わかった!今から行くね」
「はぁ?」
「じゃ、お姉さんたちごめんね〜」
「はぁ⁉︎」
ドアの向こうから人差し指で手招きしている志摩に向かう。
後ろの方で小さな怒号が聞こえたような気がしたが知らないふりだ。
「お前何したんだよ、先生方怒ってるじゃねぇか」
「んーん、なんにも!そういえば先生たちから聞いたよ」
「?」
「ここに通う子どもたちっていいとこ?が多いんだって」
「なるほどな、カモか。俺も結衣ちゃんからお父さんのことを聞いた」
「ってことは…」
「だいぶ怪しい」
「そ、」
[降園の時間]
「いぶき!じゃあな、また明日!」
「また明日〜!」
「結衣ちゃんの保護者さんまだ来ないですね」
他の子はもう皆帰ってしまい、園には結衣と先生だけになってしまった。
結衣はどこか慣れているようで、1人で遊んでいる。
「あぁ、結衣ちゃんパパはたまにギリギリです。仕事が忙しいとかで」
「へぇ〜」
「母親は?」
「シングルファーザーみたいです」
「あぁ…」
「そういえば、この前変なこと言ってましたね。今日は大口だから遅れるとか」
「……大口」
「大口?」
「あ!パパ!」
「結衣!遅くなってごめんな。帰ろう、すぐにご飯作るから」
「うん!ねえねえ今日ねシマ先生といっぱいお話し、したんだよ!」
「志摩先生と?良かったね」
「うん!」
「あ、」
孝一と目が合ったので、軽くお辞儀をしておく。
「ねぇ志摩。なーんかさ、結衣ちゃんパパって」
「?」
「いいパパやってる感じが強すぎるんだよなぁ」
「…」
__________________________
3日目
[自由時間]
元気に走り回る子供達を見ていると、こちらまで楽しくなるのはなぜだろうか。
志摩はそんなことを考えながら窓際に座る。
「ん〜ッ。意外と疲れるな…」
「シマ先生?」
「結衣ちゃん」
「あ…えっとね…一緒に折り紙したい…」
「折り紙?いいよ。何作ろうか」
志摩と結衣が折り紙作りに取り掛かる。
そんな様子を見る伊吹。
「むー」
「いぶき!何見てんだよ?」
「ん?あーあれ」
「あれ?あ、結衣とシマ先生?」
「うん」
「シマ先生ずるいよなぁ」
「そうだねぇ、結衣ちゃんずるいよねぇ」
「え?」「へ?」
「あーもしかして優希って結衣ちゃんのこと好き?」
「…バッ!ちっげぇよ!」
「図星じゃ〜ん!顔赤いよ」
「そういうお前はどうなんだよ!シマ先生のこと…」
「ん?ん〜どうでしょう?」
「教えろよ!俺だけズリぃだろ!」
「え〜?どうしよっかな〜?あ!俺を捕まえられたら教えたげるよ!」
「あ、おい!まてー!」
[降園の時間]
「あの、少し話をしたいのですが…いいでしょうか?」
孝一への接触を図る。
「あぁ、はい少しなら」
「ありがとうございます」
「あの…結衣。うまくやれていますか?」
「?」
「あ…お恥ずかしい話、僕はシングルファザーなので」
「あぁ」
「それに、娘を養うためにもお金が必要なので仕事も忙しくて。あまり結衣に構ってやれていないんです」
「…」
「大丈夫ですよ!結衣ちゃん、楽しそうに友達と遊んでます」
「そうですか。良かったです」
「結衣。お待たせ帰ろうか」
「ねえ、志摩」
「なんだ」
「あの結衣ちゃんパパさぁ、本当に悪い人なのかな」
「…」
「結衣ちゃんと楽しそうに笑ってたよ。いいパパじゃん」
「俺たち警察は、罪を犯した者を逮捕する。それだけだ」
「それはわかってるけどさぁ…」
「…お前は信じるんだろ」
「……信じたいけど、いいのかな」
「…」
志摩は伊吹の頭を軽くわしゃわしゃと撫でてやる。
「少しは刑事らしい顔できるようになったじゃねぇか」
「…うん」
_________________________
4日目
[自由時間]
「なんなの⁉︎これ⁉︎」
「「!」」
園の外から大きい声がした。
子供たちはその声に驚いてしまって泣き出す子もいれば怯えている子もいた。
先生たちが必死であやしている。
確か今、誰かの保護者さんが来ていた。おそらくその保護者の声だろう。
今は若い女性の先生が対応していたはずだ。
「志摩」
「ああ」
急いで園の外に行く。
そこには何を言っているのかわからないほどの早口で捲し立てる保護者らしき人と
それに涙目で頭を下げている先生がいた。
その保護者が先生に向かって手を振り上げる。
「ストップ〜。なになに、どうしたの〜」
その手をパシッと止める伊吹。
その隙に志摩は先生を退避させる。
「うちの子がっ!怪我したのよ!」
「怪我ぁ?君、だれの親なの?」
「〇〇よ!覚えて常識でしょ⁉︎」
「〇〇ちゃんママでしたか、ですが〇〇ちゃんはどちらに?」
「今日は確かお休みだったよな?」
伊吹に応戦する志摩。
「うちにいるのよ!うちの子に怪我させるような園に行かせるわけないでしょ⁉︎」
「失礼ですが、怪我をされたのっていつ頃ですかね?」
「昨日よ。怪我をさせたことも覚えていないなんて最低ね」
「昨日?」
「え、昨日って…むぐ」
志摩は伊吹の口を押さえる。
「〇〇ちゃんママ。一つ聞きますが、〇〇ちゃんって最後にここに来たのいつでしたっけ?」
「あーあ〇〇ちゃんママ、一番怒らせちゃいけない人怒らせちゃったねぇ」
「はぁ?」
「お前は静かにしてろ」
「わん」
「で、いつでした?」
「だからそれは昨日…」
「あれぇ?昨日って…年少さんお休みの日でしたよね」
「…あ」
「いつ、どこで怪我したのか正確に把握もせずに勝手にこっちのせいにされても…ね?困っちゃいます」
「…ッ」
〇〇ちゃんママは顔を真っ赤にしながら悪態をついて出て行った。
「志摩ちゃん…やりすぎじゃないですか?」
「そうですか?普通だと思います」
「あ…ありがとうございます!本当に…」
「あぁ、いえこれぐらいは」
「大変だね〜こんなこともしないといけないなんて」
「…はい」
「あの、〇〇ちゃんママってこういうトラブルとかよくあるんですか?」
「…はい。いろんなものにいちゃもんをつけてきて…」
「ふーん」
志摩の携帯電話が鳴る。
「あ、すみません電話です」
「はい、もしもし…あ、隊長。…はいわかりました。すぐに伊吹と行きます」
「志摩?」
「隊長から呼び出しだ」
「え、」
「すみません先生。俺たち、ちょっと行かなければならないところがあって…詳しくは園長に聞いてください」
「え、あはい」
第四機捜室に向かう。
「隊長」
「来たわね。これから作戦を説明する」
「作戦って…悪い人誰かわかったの?」
「やはり中田孝一がクロだったわ」
「「!」」
「しかも娘を利用していた」
「…は?」
「へぇ」
「娘が病気で、その治療代が必要だからとお金を巻き上げていたりしていた」
「あ〜」
「なので周りの親との関係を良くして信用させていたようです」
「あぁだから」
「今回の件は第四機捜も協力することになっている。だから九重も陣馬さんも参加」
「はい」
「…」
「だから明日、降園の時間に逮捕する」
「降園の時間?」
「ええ。中田孝一は時々迎えが遅れていると報告があった」
「あぁ」
「そのタイミングが、詐欺グループで大きい仕事をしている時と重なる」
「それが明日?」
「そう。明日、他の児童たちがみんな帰ってから逮捕する」
「え、ちょ、待ってよ!本当に中田孝一が犯人だったの?」
「ええ」
「いや、ほら…あ、〇〇ちゃんママとか怪しいんじゃない⁉︎」
「伊吹、ここまで証拠が揃っている。確定だと考えた方がいい」
「でも!………ッあんなに良いパパなのに、」
「だからって見逃すのか?そいつに騙されたやつはどうするんだ」
「…ッ」
「…どんなにいい父親だろうが、なんだろうが犯罪者であることには変わらない。やってしまったことは無くならないからな」
_________________________
5日目
作戦決行。
迎えに来た中田孝一を囲む。
中田孝一は一瞬目を見開いたが、すぐに諦めたような表情になる。
「…どうしてやったんだ」
「…」
「娘を利用してまで、やることがそれか⁉︎」
「…仕方なかったんだ」
「伊吹」
「ッ」
「警察です。詐欺の容疑で逮捕します」
「…はい」
カチャリと音を立てて手錠をかける。
すると、園の中から少女が飛び出す。
「結衣ちゃん!」
「パパ!どこに行くの⁉︎置いて行かないでよ!」
伊吹は苦虫を噛み潰したような顔で目を伏せる。
「…クソ」
「……置いていかれる側も辛いな」
中田孝一は…抵抗もせず連行されていく。
一度だけ中田結衣の方を振り返り、「ごめんな」とだけ残した。
「…っパパ…」
「おい!ちゃんとさよならって言わなきゃだぞ」
その場に立ち尽くす少女に警察の人ごみをすり抜けて少年が駆け寄る。
「!」
「…!優希くんだ」
「帰ったはずじゃ…」
優希は結衣の手を握る。
「…ほらよ」
「……うん、バイバイ、パパ!またね!」
中田孝一は後ろを向けたままだったが、「…結衣」と掠れる声で名前を呼んだ。
そしてパトカーに乗り込んでいく。孝一の目には一筋の涙が流れる。
結衣はそのパトカーが見えなくなるまで、涙しながら大きく手を振っていた。
子供ながらに何か感じ取っているようだ。
優希はどうやら何か起きると思い、
親に忘れ物をした、と言って無理やり戻ってきたらしい。子供の直感は末恐ろしいな。
「…いぶきとシマって警察だったんだな」
「うん。黙っててごめんね」
「……なぁ、答え教えろよ」
「え?」
「前、シマのことどう思ってるかって聞いただろ」
「あぁ…」
伊吹はチラリと園長と話している志摩を見る。
そして寂しそうに笑って。
「俺の、大切な相棒だよ」
コメント
2件
本当に、ゼロ様の作品のンヨンヨ解釈一致で…😭😭 信じたいibkと諭すsmが原作通りで‼️‼️‼️ 最後の「寂しそうに笑って」が結ばれることの無い恋路を悟っているようで、こっちまで苦しくなりました…本当に結ばれて欲しいです😫😫😫😿