テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,520
#東リべ夢小説
ハゲユーザー
40
第5話「赤い涙 コンク・リスタート」
宵の口頃。雲に隠された夜空から、微かな月光が降り注ぐ天使村で
二人の神が闘っていた。
「名もなき神」と「アルテミス」。互いに守る者のために。
そんな中、アルテミスは赤い涙を流した。
名もなき神は双剣を下げたまま、ただアルテミスを見つめていた。
その涙の異様さに背筋が凍る。
涙は心の信号。崩壊する時、涙は黒赤となる。
「……お前、なんだよその涙……?」
恐怖と罪悪感の混ざる声だった。
「アルテミス様のお顔が怖いよ…血が……」
少女も怖かった。だが、それよりも苦しんでいる様子のアルテミスが痛々しくて、もう見ていられなかった。
赤い涙が目に染みる。そんな状態でもアルテミスは弓を持った。
「勝たなきゃ……始末しなきゃ…」
言葉が途切れるたび、涙がぽたり、ぽたりと落ちる。
「本当にやめろ!病院に……行け」
「ゼウス様は……絶対……
我が王よ……」
声がかすれ、弓を持つ腕が震え、膝が今にも折れそうに揺れる。
(アルテミスが苦しんでる……それも全部ゼウス野郎のせいで)
名もなき神の奥歯がきしむ。
それでも──アルテミスはがむしゃらに弦を引いた。
「一本だと……また斬られるだろう……」
赤い涙が弦に落ちる。
「だから……五本同時に射る……!」
「…面白い、来いよ」
一本一本が、土地を変えるほどの破壊力を秘めている。それでも怖くない。
「本気、出します──『五天貫矢』」
弦を離し、五本の矢が同時に放たれた。
矢は名もなき神に向かって飛ぶ。
「そこ」
名もなき神は軽く身をずらし、簡単に避けた。
五本の矢は空を裂き、名もなき神の背後へ抜けていく。
その時だった。
「……これで最期だ」
矢が生きているかのように軌道を変えた。
名もなき神の背中に向かう、逃げ場のない“死”の軌跡。
名もなき神はすぐさま、それに気が付いた。
(見えてはないけど。これ後ろから来てるな)
そして──低く、短く、呟いた。
「星空剣技──『土輪斬』」
次の瞬間、名もなき神は双剣を握りしめ、大きく回転した。
左手の緑青の剣が先頭を、右手の銅の剣がそれを追う。鬼ごっこのような剣さばきが一周。土星の環を描く。
彼の土星の環の斬撃に刻まれた周囲の空気も、時間も、五本の矢の軌道すらも。名もなき神を中心に“無”へと還る。
そして、名もなき神が回転をやめた直後、空気と時間が息を吹き返す。
軌道を斬られた五本の矢は、力を失ったただの物体として地に落ちた。
「必ず標的を消す技だぞ…なぜ落ちてる」
名もなき神は少し考えた。
「アルテミス、お前の能力はある程度予想できていた。
『絶対命中』だろ?」
「そう思った理由は?」
「お前の弓矢という遠距離用武器と、“狙撃の名手”という肩書き。その二つのことと、俺の経験上から絶対命中だと予想した。どうですか?」
アルテミスは狂気を上げて笑った。
「アハ……アハハハハ……!」
涙のほかに、喉まで崩壊した。
「外来神、貴方は本当に強くて“天界の脅威的”存在だな」
「いや、お前の攻撃が単純すぎるだけだ」
アルテミスの笑いが一瞬止まる。
「……単純……?」
「単純だよ、お前は」
その声がまぎれもなく近かった。
名もなき神はアルテミスの右斜め後ろに回り込んでいた。台風並みの速度には、簡単に気づけやしない。
アルテミスが違和感を感じて振り向こうとすると──
「さっきの仕返し」
名もなき神の右手の銅の剣のみねが、みぞおちを打ち抜いた。
「しまっ!……意識が…」
視界がぼやけ、やがて目の前が白くなり、気を失った。
アルテミスは地面へ倒れ落ちた。
名もなき神は双剣をさやへしまった。
「今度こそ勝ちだ。命がけの闘いだったけど、正直、少し楽しかったぜ」
手元の弓矢を拾う。
「これは俺が預かっておこう」
(なんか、泥棒みたいで嫌だな……)
名もなき神は眉をひそめ、弓を見つめた。
(でも、こいつに持たせたままだとまた俺らの命が狙われるし…没収!)
「アルテミス様!」
少女が涙目で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
名もなき神は落ち着いた静かな声で答えた。
「大丈夫。力加減しておいたから命に別条はないよ」
ライトちゃんはアルテミスのそばに膝をつき、震える指でそっと頬に触れた。
「でも……赤い涙が……こんなに……」
名もなき神は腕を組む。
「うーん、それな……強いストレスにより引き起こされる現象だからな……俺の加護は病気と怪我と呪いは治せるけど、心までは治せないんだ」
「……私、いつか誰かを救える者になりたい。
心身もろとも……」
「ライトちゃん、覚えとけ。お前はいつか必ず誰かを救える。だから今は“その気持ちを忘れずに”歩く。それだけでいいよ」
(落下した俺を無傷で助けてくれたんだから。できる!きっと)
「それだけでいいなら歩いてみるよ」
名もなき神は「ふふっ」と笑い、顔をあげた。
その直後、音もなく、気配すらなく、一人の「老人」がそこに立っていた。
「多界移動」
曇った空が晴れることはない。
光が星を裁く──この老人によって。
一難去ってまた一難。
今まさしく、この言葉が似合う時だった。
6話「アングァー・ヘヴィメタル」に続く。
コメント
5件
うわっ…5話、めっちゃ重くて綺麗だったよ🥀 アルテミスの赤い涙、痛くて美しくて…“勝たなきゃ”って震える声が頭から離れない。 ライトちゃんの「心身もろとも救いたい」って気持ち、すごくわかるんだ。 名もなき神の「心は治せない」って台詞が胸に刺さったよ。 最後の老人の出現で一気に不穏になって…次も楽しみにしてるね🤍