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私
にはもう何も残っていないわ。私に残されたものはすべてあなたが持っていってしまった。
あなたのことだけが頭から離れない。あなたなしではいられない体になってしまった。こんな思いは初めてなの。
わたしにとってあなたがすべて。たとえこの身が滅ぼうとも構わない。どんな犠牲を払ってもいいからそばにいたいわ。
わたしたちだけの秘密の場所があるの。誰にも教えていない秘密の場所に案内してあげる。ふたりだけで行きましょう。そこでなら邪魔されないわ。
「お姉ちゃん!」
声をかけられた瞬間、少女――藤川奈月(ふじかわなつき)は反射的に振り返った。そこにいたのは妹の奈緒美(なおみ)である。彼女は両手に買い物袋を下げていた。スーパーからの帰り道らしい。
「こんなところで何をしているの?」
奈月に尋ねつつ、奈緒美はきょろきょろと辺りを見回した。しかし、そこには誰もいない。
「えっと……」
答えようとして、奈月は自分の状況を思い出す。今は授業中なのだ。
視線を前に戻せば黒板があり、教師の姿が見える。教科書を読む声だけが聞こえており、教室には沈黙が満ちている。その静謐さが奈月には心地よかった。
「ねえ、お姉ちゃんってば」
再び妹の声を聞き、奈月はようやく我に返る。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてたみたい」
「もう。しっかりしてよね。それで、ここで何をしていたのかしら?」
「別に何もしていないけど。あなたこそどうしたの?」
「あたしも特に用事はないんだけど、せっかくだから一緒に帰ろうと思って探していたのよ」
奈緒美の言葉を聞いて、奈月は嬉しく思った。だが、同時に少し申し訳なくもなる。今、自分はサボタージュをしている最中なのである。