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#高校生
第73話 「前を向く力」
2022年9月。
秋の福岡県大会。
新チーム最初の公式戦。
柳城高校の新たな挑戦が始まった。
夏。
甲子園で宮城育英に敗れた。
あの敗戦はチームに大きな傷を残した。
特に塁には。
だが。
今の塁は違った。
マウンドで笑っていた。
力まず。
逃げず。
思い切り腕を振る。
甲子園の敗戦以降。
初めて見る表情だった。
初戦。
塁は7回を無失点。
柳城快勝。
続く二回戦。
準々決勝。
準決勝。
相手が変わっても内容は変わらない。
ストレート。
スライダー。
チェンジアップ。
どの球にも迷いがなかった。
そして決勝。
相手は九州第一高校。
夏の県大会決勝以来の再戦だった。
球場には多くの観客が集まった。
試合は投手戦。
0対0。
五回終了。
互いに譲らない。
しかし七回。
史陽の二塁打からチャンスが生まれる。
送りバント。
一死三塁。
スクイズ成功。
1対0。
その一点を守り切った。
ゲームセット。
柳城高校1対0九州第一高校。
福岡県大会優勝。
試合後。
記者が塁へ質問する。
「夏の敗戦から立ち直れましたか?」
塁は少し考えた。
そして笑った。
「立ち直ったというより」
空を見上げる。
「また野球が好きになりました」
その言葉に記者も笑った。
夕方。
学校へ戻るバスの中。
史陽が小さく言う。
「兄ちゃんに感謝やな」
塁は窓の外を見る。
啓介からの電話。
あの夜の言葉。
思い出していた。
「そうやな」
短い返事だった。
だが。
その表情は晴れやかだった。
福間監督は前の席からその様子を見る。
何も言わない。
ただ。
小さく頷いた。
県大会優勝。
しかし。
柳城の目標はもっと先にあった。
次なる舞台。
九州大会。
そしてその先にあるセンバツ。
柳城高校の秋は、まだ始まったばかりだった。
第74話 終
コメント
1件
塁の「立ち直ったというより、また野球が好きになりました」っていう言葉、すごく刺さりました。挫折を乗り越えて、もう一度野球と向き合う強さって、カッコいいだけじゃなくて、ちゃんと人間らしいんだなって。史陽の「兄ちゃんに感謝やな」もグッと来たし、福間監督が何も言わずに頷くラストも好きです。これからの九州大会、楽しみですね🌙