テラーノベル
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ーー研究室。
静かな部屋に、キーボードを叩く音だけが響いていた。
モニターには、永夢の骨髄から採取したサンプルのデータが映し出されている。
飛彩は画面を見つめたまま言った。
「……これだ 」
大我が腕を組む。
「レウコイド因子か」
飛彩は頷いた。
「ああ」
貴利矢がモニターを覗き込む。
「これが、あの時あいつが言ってた残骸ってやつ?」
「おそらくな」
飛彩が画面を切り替える。
拡大されたデータが表示される。
三人は黙って見つめた。
しばらくして。
大我の眉がわずかに動く。
「……待て」
飛彩が視線を向ける。
大我はモニターを指差した。
「ここだ」
「何か見える」
貴利矢が顔を近づける。
「何かって……」
飛彩がさらに解析を進める。
データが細かく分解されていく。
数秒後。
飛彩の目が細くなった。
「……そういうことか」
貴利矢が顔を上げる。
「分かったの?」
飛彩は静かに頷く。
「レウコイド因子の中にいる」
部屋が静まり返る。
「……何が?」
飛彩はモニターを見たまま答えた。
「レウコイドウイルスだ」
沈黙。
貴利矢が目を見開く。
「は?」
大我も低く呟く。
「こんなところに潜伏してたのか……」
飛彩は頷いた。
「因子そのものだと思っていたが違う」
「因子の中に、ウイルスが潜伏している」
モニターには小さな反応が表示されている。
弱い。
だが確かに存在している。
貴利矢が息を吐く。
「じゃあ、レウコイドは最後に――」
『お前も……道連れだ』
あの言葉が脳裏をよぎる。
飛彩が静かに言った。
「おそらく、このことだろう」
「レウコイドは、自分のウイルスを小児科医の中に潜伏させていたというわけだ」
重い沈黙が落ちる。
だが。
大我が口元を歪めた。
「逆に言えば」
視線が集まる。
「攻略法を見つけたってことだ」
貴利矢の表情が変わる。
飛彩も小さく頷いた。
「そうだな」
「ウイルスがあると分かれば、対策を考えられる」
モニターの中で。
微弱な紫色の反応が揺れていた。
それはまだ小さい。
だが確かに存在する。
永夢を蝕む、レウコイドウイルス。
そして――
これが、治療への第一歩だった。
モニターには、抽出されたレウコイドウイルスのデータが表示されていた。
微弱だった反応は、解析によってはっきりと姿を現している。
飛彩が確認する。
「抽出完了」
大我がモニターを見る。
「これがレウコイドウイルスか」
画面には紫色の波形が揺れていた。
レウコイド本体は消滅した。
だが、その一部は確かに残っている。
貴利矢は椅子から立ち上がった。
そして棚の奥から、一つの装置を取り出す。
黒い銃型の機器。
バグバイザーⅡ。
パラドが目を向ける。
「懐かしいな」
貴利矢が小さく笑う。
「あの時も使ったからな」
一拍。
「ゲムデウス攻略の時に」
部屋が静かになる。
飛彩がデータを確認しながら言った。
「レウコイドウイルスを一度独立したデータとして保存する」
「その後、ガシャットへ転送する」
大我が腕を組む。
「つまり」
「ゲムデウスワクチンを作った時と同じ流れだ」
貴利矢はバグバイザーを起動した。
電子音が響く。
《GASHAT GEAR DUAL》
画面が光る。
飛彩が操作を開始する。
「転送準備」
モニターに表示されたレウコイドウイルスのデータが変化する。
紫色の光。
それが一本のラインとなって伸びていく。
バグバイザーへ。
貴利矢が表情を引き締める。
「転送開始」
電子音。
そして。
紫色のデータが流れ込んだ。
静かな光が装置の内部を走る。
数秒。
全員が見守る。
やがて。
モニターに表示が現れた。
【LEUKOID VIRUS STORED】
貴利矢が息を吐く。
「成功だ」
飛彩も小さく頷いた。
「レウコイドウイルスの保存を確認」
大我が鼻を鳴らす。
「第一段階は終了か」
パラドはバグバイザーを見つめていた。
その中には。
永夢の骨髄から見つかったレウコイドウイルス。
そして。
これから作られる治療法の核となるデータが入っている。
貴利矢が静かに言う。
「ここから先は」
視線が向く。
「ゲムデウスの時以上に危険な可能性がある」
飛彩も頷く。
「次は順応」
「そしてガシャット化だ」
沈黙。
飛彩が問う。
「本当にやるんだな」
パラドだけが迷いなく答えた。
「当たり前だ、やるぞ」
誰も反対しなかった。
その覚悟が。
既に決まっていることを知っていたから。
静寂。
パラドの腰にはゲーマードライバー。
スロットには、真っ白なダブルガシャットが装填されている。
その右手にはバグバイザーⅡ。
内部には、永夢の骨髄から抽出されたレウコイドウイルスが保存されていた。
飛彩がモニターを確認する。
「準備完了」
大我は腕を組んだまま壁にもたれていた。
貴利矢は最後の確認を終える。
「抗体が形成されれば、自動でガシャットに記録される」
パラドは小さく鼻を鳴らした。
「分かってる」
迷いはない。
ただ一つ。
永夢を救うためだけに、ここに立っていた。
貴利矢が静かに言う。
「始めるぞ」
パラドは答えない。
バグバイザーⅡを構えた。
そして――
起動。
紫色の光が溢れ出す。
レウコイドウイルス。
そのデータが、一気にパラドの体へ流れ込んだ。
次の瞬間。
「――ッ!」
パラドの身体が大きく震えた。
飛彩が即座にモニターを見る。
「侵入開始」
「順応反応を確認」
だが。
その表情は険しい。
「反応が強い」
大我も眉をひそめた。
「予想以上だな」
パラドは歯を食いしばる。
額に汗が滲む。
呼吸が乱れる。
それでも立っていた。
だが――
数秒後。
「がっ……!」
膝が崩れる。
床へ片手をつく。
全身が激しく震えていた。
飛彩が告げる。
「順応率10%」
「まだかよ……」
大我が低く呟く。
その瞬間だった。
パラドが叫ぶ。
「ぁああああああっ!!」
激痛。
全身を駆け巡る衝撃。
耐えきれず、床へ倒れ込む。
身体を丸める。
呼吸は荒く、肩が激しく上下していた。
貴利矢が思わず前へ出る。
「パラド!」
返事はない。
床を転がる。
身体を押さえる。
まるで体の内側から何かが暴れているようだった。
警告音が鳴り響く。
『WARNING』
『WARNING』
飛彩がモニターを睨む。
「ウイルスが抵抗している」
大我が舌打ちした。
「簡単に順応させる気はねぇってことか」
再び。
激痛。
「ぐああああっ!!」
パラドの拳が床を叩く。
だが。
それでも離脱しない。
立ち上がろうとする。
崩れる。
また立ち上がろうとする。
その姿を、三人は黙って見ていた。
助けられない。
これはパラド自身の戦いだった。
貴利矢が苦しそうに呟く。
「中止するか……?」
その言葉に。
パラドが顔を上げる。
苦痛で歪んだ表情。
それでも瞳だけは鋭かった。
「……するかよ」
かすれた声。
「このままじゃ――」
貴利矢が言いかける。
だが。
パラドは笑った。
苦しそうに。
それでも。
「順応しないと……」
息を吐く。
「抗体……作れねぇだろ……」
沈黙。
誰も言葉を返せなかった。
パラドは再び立ち上がる。
足は震えている。
呼吸も乱れている。
それでも。
倒れない。
順応率は少しずつ上昇していく。
20。
30。
40。
50。
飛彩が目を細めた。
「半分を超えた」
だが。
次の瞬間。
さらに大きな衝撃が走る。
「ッ――!!」
パラドが再び膝をつく。
全身を包む紫色の光。
データの衝突。
拒絶反応。
苦しさは増すばかりだった。
それでも。
脳裏に浮かぶ。
病室での永夢。
『……お願いします』
あの言葉。
あの顔。
パラドは拳を握る。
「……まだだ」
立ち上がる。
「こんなところで……終われるか」
順応率70%。
80%。
90%。
そして――
モニターが変化した。
飛彩が息を呑む。
「抗体形成反応を確認」
貴利矢が顔を上げる。
「本当か!?」
大我もモニターを見る。
波形が変わっていた。
レウコイドウイルスとは別の反応。
新しいデータ。
抗体。
その瞬間。
真っ白だったダブルガシャットが発光する。
自動転送開始。
光が溢れる。
抗体データがガシャットへ流れ込んでいく。
パラドはそれを見上げていた。
呼吸は乱れ。
身体も限界。
それでも。
目だけは離さない。
やがて。
モニターに表示が現れる。
【ANTIBODY DATA COMPLETE】
静寂。
飛彩が小さく呟く。
「成功した……」
大我が息を吐く。
「本当にやりやがった」
貴利矢も思わず笑った。
「完成だ」
その瞬間。
ガシャン――
バグバイザーⅡが床へ落ちる。
全員が振り向く。
パラドだった。
ふらりと身体が揺れる。
「パラド!」
貴利矢が駆け出す。
だが。
パラドは完成したガシャットを見つめていた。
満足そうに。
ほんの少しだけ笑う。
「……できた」
かすれた声。
「約束……守ったぞ……」
「永、夢……」
そして。
そのまま力尽きるように倒れ込んだ。
#仮面ライダーエグゼイド
つばさ
1,059
#オッキー
コメント
1件
つばささん、第23話読みました……もう、心臓が痛かったです。レウコイドウイルスが永夢の骨髄に潜伏していた真相、そしてパラドが自らを実験台にして抗体を作る覚悟——。苦痛に耐えて「するかよ」と笑うシーン、永夢との約束を胸に立ち上がる姿が本当に印象的で、目が離せませんでした。三人の医者たちが見守るしかないもどかしさも伝わってきて、パラドの強さと優しさに胸が詰まりました。完成したガシャット、次が待ち遠しいです!