テラーノベル
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──────いえもん視点──────
もう、訳が分からなかった。仲間を、それも魂を壊せというのだ。魂を壊すことの重さを、俺は、俺は知ってしまった。
俺は、棺の中で眠る明るい黄緑色の髪の少女を見つける。黄緑、黄色とピンクの淡いグラデーションが綺麗な人だ。俺が手をかざせば魂が体を貫通してふわり、ふわりと浮き上がる。それは今にも壊れてしまいそうな不安定な光。ゆらゆらと揺れながら、消えてしまいそうに儚かった。
──────俺は、この人を知らない。見たこともない。名前も知らない。だけど、見た瞬間に涙が止まらなかった。涙に気づいたのは手の甲に落ちたからで、それまで泣いていることにすら気づかなかった。
なぜ、知らない人を見て泣いているのか。分からないのに、分からないのに。再び会えることが嬉しくて、嬉しくて。でも、一回も会ったことがなくて。なのに、なのに──────。
「──────ちゃ、こさ」
ちゃこ、ちゃこ。
聞き覚えのあるような、ないような曖昧な記憶。わかったと思えばそれは霧の中に隠れるかのように分からなくなる。だけど、わかってしまったから。俺は、この人の仲間だったんだと。わかってしまったんだ。誰よりも明るくて、自信満々で、少しドジで。そんな、誰よりも───。
「その人は…魂を代償として支払った人です。本来は消えるはずの魂をおそらく【最高神】が回収して…。記憶は抜けてると思いますが…ッ」
暗に、それは殺すなと言ってるようなものじゃないか。───俺だって、誰も殺したくない。たった一人の命と、それ以外の大勢の命。天秤にかければ明らかである。
「───ぐ、くざおさんならッッ!!」
俺はその人のことをよく知らない。大丈夫だ。他の人よりも、ダメージは少な───
「哀れだよなーぐさお。神の言いなりになって、最後は兄を食われて、兄に扮したやつに兄の技で殺される。───お前にとって縁もゆかりも無いかもしれないが…だからといって魂を、存在を、全てを破壊するのか?」
そいつが煽るように言う。判断が濁る。渋る。揺らぐ。呼吸が荒くなり、涙が止まらない。どうして、どうしてこんな───
「ほら、チャンスを上げてるのに…ものにしないなんてもったいないとは思わないか?」
そいつは俺を焦らせるようにそう告げる。正常な判断ができない。思考がおぼつかなくなる。あぁ、俺はどうすればいいんだ。正解は、誰も教えてくれない。だからこそ、すべての責任が、俺の手にのしかかる。俺には重すぎるその圧は、諦めれば楽になる、と囁き続ける。
その時、俺の思考に大声が割り込む。
「茶川いえさん!!!」
俺はバッと振り返る。その声の主はめめさんで、俺をフルネームで呼んだ。めめさんの目は俺をじっと見て、そして、ふっと口元をゆるめる。
「簡単なことですよ。───私を、殺せばいいんです。」
「───は?」
俺は思わず声を漏らす。なにを言っているのか。めめさんは。殺す…?
しかし、その目は真剣そのもので、そして全てを諦めたかのような目をしていた。眉が、困ったように下がった。しかし、困惑しているのは俺の方である。
「別に、この棺の中から選ばなくてもいいんです。でも、めめ村の村民じゃないとダメなんです。───私、一応村長なんですよ。守れる命は守らせてください。」
「───おッ俺には…!俺にはできません…ッッ!!」
「できない、じゃないんですよ…!やるしか、ないんです。これで、みんなを…ッ村民たちを守れるならば本望なんですよ…。」
そう言って、めめさんは俺の方に近寄り、俺の手にある光の剣を自身に寄せる。
「大丈夫です。魂は、私が出しますし、刺すのも私がやります。魂を壊すのもです。あなたは、私に手を添えるだけでいい。あなたのせいなんかじゃないんですから、ね。」
めめさんがそう優しい声で言う。まるで、駄々っ子を宥めるように。でも、言っていることは残酷で。でも、やらなくちゃいけないことで。でも、どうしても出来なくて、抵抗して、抗ってしまう。俺は、剣を地面に落とす。
「───できないんです。できないんですよ。あなたは、師匠であり、村長であり、頼れる人であり、恩人なんですから──ッ!!殺せ、だなんて言わないでください。死ぬ、なんて言わないでください…ッッ!!」
そう言って、俺は落とした剣の前で泣いてしまう。気持ちが抑えられなくて、情けない自分が、ただただ憎くて。決断力がない、自分が弱くて。ただただ非力な自分を殺してしまいたくて。
──────あぁ、そうだ。忘れていた。
俺は目の前に落とした剣を拾う。よく考えればその通りだ。別に、仲間を殺さなくてもいいのだ。それでも、この契約は成り立つ。だって、だって俺も──────
「俺も、めめ村の一員ですからッ!」
「ッ!?やめて!!あなたが犠牲になる必要は───」
「俺はッ!!選べないんですよ!!仲間の死を!!だから、わかったんです…ッッ!!俺が、俺一人が犠牲になれば───ッ!それだけでよかったんですよ!!」
ここまで来たら止まれない。俺は剣を高らかに上げ、自身の胸にもう片方の手をかざす。そうすれば予想通り俺の魂がふわふわと出てくる。【主人公補正】とでもいうのか、魂は黄色にキラキラと輝き、当たりを照らす、太陽のようだった。自身の魂がこんなにも綺麗だとは思わなかった。
最後に、いいものが見れたじゃないか。何よりも、仲間が傷つくことがなくてよかった──────。
俺は、満面の笑みを浮かべ、自身の魂に剣を突き上げる。───遠くから、めめさんの静止の声が聞こえる。こんな俺にも、最後を思う仲間がいたのだから、これ以上幸せなことは無いだろう。
あ、一つだけ後悔があったことを思い出す。
(───みんなに、別れの挨拶言ってないや。)
まあ、存在が消えるのだから、なんてこともないか。俺は、天を仰ぎ、そして──────
パリンッ
ガラス細工のような、脆い音が俺の耳に響いた──────。
ここで切ります!ふーむ、意外といえば意外ですかね?と、言うか。いえもんさん焦りすぎですよねー。契約者が死んだら誰がその契約を果たしてくれるんでしょうね?魂の契約、と言ってもその魂壊れちゃいましたけど。まあ、しーらね!ってことで!ここまでご愛読〜と、言いたいところですが。まだ終わりません。その後についてもきちんと書かせてもらいます。ただ、この物語はそろそろ終わる、と言うことを覚えておいてくださいねー!
それでは!おつはる!
コメント
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おいおいこの死神(作者)ついに主人公死なせたんだけど・・・まあいえもんさんだしやるだろうなとは思ったけど・・・仮にも主人公だよ?イギリスのホラー映画かな?(イギリスのホラー映画は大体最後で主人公が死ぬ)
めめさんが提案した瞬間に全てを察した
そうだろうと思ってたよぉ…いえもんさんは仲間思いだからね!!??(泣 天界でみんなに責め立てられる気がする…あれ?でも今いるのも天界じゃねぇか…あれ?