テラーノベル
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ミナンダ自由都市の議会議事堂、その合議室に四名の重鎮が集っていた。彼らは大理石の円卓を囲っており、その中には魔術師ヨタナンの姿もある。
「機は熟した。我が故郷、ハルヴァードへ向かう刻が来たのです」
ヨタナンの言に、周囲を囲った面々が気色立つ。ヨタナンを除く彼らの肌は浅黒く、全員ミナンダ人だった。
「あの小童、魔法力に目覚めよったか。これで少しは勝機が生まれたな」
初老の外務大臣が二重顎の白髭を撫でる。
「馬鹿正直に説得するつもりではあるまいな? 親子の情など、魔族に通用すると思うなよ」
軍務大臣がヨタナンに釘をさす。軍服が似合う厳めしい面立ち。鋭い吊り目がヨタナンを睨み据える。
「最悪取り込まれる可能性すらある。あらゆる可能性を想定せねばな」
一際若い青年の大統領が肩肘付いて述べる。彫刻を思わせる、高貴な面立ちが見目麗しい。
数秒の沈黙を挟み、大統領が話を紡ぐ。
「猫かぶりを避けるなら危険な湿地帯を経由することになる。道中の魔物は我が軍が間引く、良いなオゴウ」
「ハッ。しかしながら、魔王を刺激することになりませんか?」
「その匙加減も含めて頼むと申しておる。早速とりかかれ」
大統領が大臣を指さすと、豪奢なミディアムヘアがたなびく。
「かしこまりました」
立ち上がった軍務大臣が敬礼し、その場を辞す。召使いの一人が円卓の水を継ぎ足すと、大統領が銀杯をあおった。
「ハルヴァードの国王エッゲンハイム二世は聡明な方だった。何故ゆえ魔物と徒党を組むのか、問いただしたくはある……」
銀杯を握った大統領が言葉を濁す。
「そこは皇子に期待しましょう。しかしながら……」
答えたヨタナンが、言葉を切りつつ話を紡ぐ。
「元君主なれど私情は挟まず、断固とした決意をもって臨みます」
ヨタナンはひらりと立ち上がると、大統領に対して深く腰を折った。
***
周囲を覆う濃霧に既視感を覚え、由実世は周囲を見渡した。
(前回の記憶をやっと思い出せたわ。これは夢の中、起きている間はすっかり忘れていたのに……)
だが、気持ちは前回以上に陰鬱だった。
(お母さんをあんな風に突き放してしまった。私って何て嫌な奴だろう)
片奥歯を噛みしめつつガックリ肩を落とすと、何者かの存在を感じた。目前に現れたのはやはり茶髪の同じ顔。その表情は厳めしく、相対する由実世は思わず身構える。
茶髪のユミヨは一呼吸置くと唇を動かした。
「あなたは悪くない。言うべきこと、やるべきことをやったのよ」
拍子抜けした由実世がキョトンと放心する。
ユミヨが微笑をたたえると、周囲の霧が吹き消えた。快晴の空が覗き、二人は広大な草原の中央で向き合う。
「ここで培った絆と経験はあなたの糧となるはず。あとはこの世界を……」
ユミヨが由実世の両手をギュッと握ると、淡い光が視界を覆いつくした。
目覚めたのは木製の手狭な一室、タガヤシ村の自室だった。思わず自分のもみ上げを摘まみ上げ、茶色であることを確認してしまう。
(何故髪色など気にしたのだろう……。さっき見ていた夢が原因かしら)
飛び起きると汲み置いた水で顔を洗い、着替えを済ませる。休暇は終わり、勇者パーティとの合流の時期が近付いているのだ。
(だけど心のつっかえが取れたみたい。いい夢、だったのかしら……)
軽くストレッチしつつ居間に出ると、ローテーブルには書置きと布袋が用意してあった。
『昨夜はごめんなさい、お弁当持って行って。お仕事頑張ってください:母より』
ユミヨは微苦笑を浮かべると布袋を手に取った。母は農作業に出払っているらしい。
「そろそろ出勤しなきゃ。確か、ビヨグランデの第二風車前に集合だったわね」
ユミヨはいそいそと自室に戻ると、出発の準備を始めた。
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