テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あめ猫
3,650
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
クールキッドは、エリオットから目を逸らさない。
さっきまでの幼さは、どこにもない。
「……お兄ちゃん」
静かに、でもはっきりと。
「一緒に住もうって話したのに」
エリオットの肩が、わずかに揺れる。
「聞いてくれなかったよね」
「それは——」
言葉が、詰まる。
クールキッドは一歩近づく。
「仕事がなければ、うちに一緒に住める?」
まっすぐな目。
逃げ場のない問い。
「……なんでそんな話に」
エリオットの声が少しだけ強くなる。
「今はそれどころじゃ——」
言い切る前に。
着信音。
鋭く、場違いな音。
エリオットが反射的にスマホを見る。
店の番号。
嫌な予感が、走る。
「……はい」
出た瞬間、
向こうの声は混乱していた。
『エリオット!?どこだ今!?』
「店の外だ、どうした」
『火事だ!!店が燃えてる!!』
一瞬。
世界が止まる。
「……は?」
『厨房から火が出て——もう煙が——!』
言葉が、途切れる。
騒音。
誰かの叫び。
「——っ」
エリオットの顔色が変わる。
「すぐ行く」
通話を切る。
その動きの速さに、
クールキッドが一歩引く。
「お兄ちゃん……?」
エリオットは迷う。
一瞬だけ。
でも、決断は早い。
「店、火事だ」
「俺、行く」
それだけ言って、踵を返す。
ドアへ向かう。
その背中に——
「……やっぱり」
クールキッドの声。
小さい。
でも、はっきり。
「仕事、だよね」
足が、止まる。
一瞬だけ。
振り返れない。
「……悪い」
それだけ残して、
エリオットは走り出す。
ドアが閉まる。
静寂。
取り残された空気。
クールキッドは、動かない。
ただ、立っている。
そのとき。
テレビの画面が、ゆらりと揺れる。
ノイズ。
そこに、浮かぶ人影。
「——すごいね」
あの、声。
うっすらと、顔が見える。
顔の半分はドクロ。
もう半分は悲劇のマスク。
頭には、王冠をかぶっている。
セブンには見覚えがある。
Noliが使っていたアバター。
そのマスクに反して、楽しそうに。
「そんな事もできるんだ」
クールキッドの指が、ぴくっと動く。
ゆっくり、画面を見る。
「……火事」
小さく、呟く。
「ぼくが……?」
Noliが、くすっと笑う。
「ほら」
「さっき、思ったでしょ?」
甘く、囁く。
「“仕事がなければいいのに”って」
心臓が、どくんと鳴る。
クールキッドの目が、揺れる。
「……ちが」
否定しきれない。
ほんの一瞬、
そう思った。
その“ほんの一瞬”を、
Noliは逃さない。
「いいんだよ」
「それくらい」
頭を撫でるように、優しく。
「大事な人と一緒にいたいだけだろ?」
沈黙。
クールキッドの拳が、ぎゅっと握られる。
「……お兄ちゃん」
小さく、呟く。
さっきの背中が、頭に残る。
振り返らなかった背中。
「……ぼくのほう、見てくれなかった」
ぽつり。
その一言。
Noliの声が、少しだけ低くなる。
「じゃあさ」
一拍。
「見させればいい」
空気が、変わる。
静かに。
でも、確実に。
「君ならできる」
「もっとすごいこと」
「もっと、“目を離せなくなること”」
クールキッドの目が、
ゆっくりと光を帯びる。
迷いと、
寂しさと、
ほんの少しの——期待。