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「お待たせ。ごめんねえ。乗ってちょうだい」
「ありがとうございます。さきほどのお客様、大丈夫でした?」
「んんー……まあ。多分大丈夫でしょ。さ、出発」
言葉を濁したが、それ以上は言いたくなさそうだったので私も聞かなかった。
駐車場から出ると、ちょうど店の前で電話をしているスーツ姿の男性がいて、視線を逸らす。
なるほど。営業が冷やかしか、上のヘアサロンと間違えたお客様か。
車のボンネットを激しく雨が打つ。
逸らした視線の先は、雨で濡れていく建物。
店のまえで電話していた相手が、まさか初恋の人で、まさかのまさか、私に会いに来ていたなんて知る由もなく。
視線も交わらないまま、車は彼から遠ざかっていった。
「ありがとうございました」
「おつかれ、また明日もよろしくね」
白鳥さんの車が遠ざかるのを待って帰ろうとしたが、雨の音に負けてマンション内に逃げ込んだ。
私の収入では払うのが少しキツかったが、中学から女子校だった私にはここが一番安心する。
女性専用マンションで、一階に管理人在中のオートロック。マンションのどこにも女性専用とか書いていないから、外見もどこにでもありそうな10階建てマンション。
だけど実際は、親戚の男性以外は入室禁止という安全地帯。
オートロックを解除して、ポストの鍵を回していたら着信が鳴った。
『武井 美里』
久し振りの名前に驚きつつも、ポストの中に入っていた結婚式の招待状も同じ名前だったので、電話の理由が少しわかった。
以前、式に来てほしいと言われ『いけるかわからない』と濁して、連絡が途絶えていた。
「もしもし、おひさしぶり」
下がってくるエレベーターの階数を眺めながら、電話をとった。
『華怜、ごめんね。本当にごめんね』
「……なに? どうしたの?」
不穏な空気が携帯の向こうから聞こえてきた。
丁度エレベーターが到着したので、乗り込んで美里の言葉を待った。
『……仕事場に、一矢くんが来なかった?』
「かずや……」私の知っている男と言えば、父と中学一年の時の友人関係ぐらいしかない。
かずやと言えば、一人しかいないけれど。
「来てないと思うけど、どうして?」
『今から行ってもいい?』
突然の申し出に、少しだけ戸惑いつつも二つ返事で了承した。
美里には、結婚式を打診された三か月前に会ったきりだったので、会いたい気持ちもあったから。
砂原 紗藍
#再会