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ー俺は、自分の名前が嫌いだった。
「結杏って名前女みたいだねーw」
「かわいいーw」
ーーうるさい。
「お前実は女だったりしてーw」
「可愛い顔してんなぁww」
ーーうるさいうるさいうるさい。
「結杏男好きなん?きもーwww」
「お前のこと誰が好きなん?w」
ーーーー黙れ。
高校2年生の、5月のこと。
俺・五十嵐璃央は次期生徒会長として次の生徒会行事である球技大会の計画を練っていた。
「五十嵐、ちょっといいか?」
生徒会室に先生が入ってきて、俺に話をもちかけてきた。向かいあわせの椅子に座り、話し始める。
「なんでしょう?」
「次期生徒会長であるお前に折り入って頼み事があるんだ。」
頼み事か。これまでも生徒会長だからといって何度も面倒事を押し付けられたものだ。
「…それ、生徒会長関係あります?」
「関係あるぞ。なぜならうちの生徒の話だからな。」
といってこの前は恋愛相談をされたんだったか。生徒の関連ならなんでも生徒会長だと思うなよ…
「今度は何なんですか…」
「まあそう気を張るんじゃない。…お前、西条結杏を知っているか?」
西条結杏。常に髪は金髪で、ピアスを至る所につけ、授業はサボり、成績は落単寸前。名前を呼ばれると怒って殴ってくるらしい。
「ええ、もちろんですよ。彼は校内でも有名でしょう?」
「そうだな。そこでなんだが、五十嵐、お前西条の面倒を見てくれないか。」
「………はい?」
なぜ俺なんだ。西条は大体3年で1つ先輩だし、他にも人はいるだろう。先生でどうにか出来なかったのだろうか。
「この前若い女性の先生に頼んだんだよ、西条のこと。でもな、先生優しすぎて…西条は結局先生を殴っちっまってよ…お前しかもういないんだよ!!そろそろあいつは退学になるんだ…」
そうか、先生を殴って…とはいえ、もう退学になるんなら退学でいいんじゃないか。なんで先生はここまでするんだろう。
「もう西条は退学でいいんじゃないですか?」
「いや、そうはいかないんだ…!退学する生徒が出たとなったら、うちの学校の評判が下がるんだよ……!頼む!」
先生は必死らしい。どうしても、俺に何とかさせたいらしい。正直面倒だが、根が真面目な俺はやるしかなかった。
「…仕方ありませんね。わかりました。西条のことは色々話を聞いてみます。」
「ああ!ありがとう!!じゃあ、今日中には西条に話しかけてくれよな。お前のこと、頼りにしてるからな!まー頑張った暁にはご褒美をやらんでもない。じゃ、頑張れよー」
なんて他人任せな先生だ。俺はこの先生に何度振り回されたことか…まあ、いいか。結局ちゃんとやったら先生は何かしら奢ってくれたり連れて行ってくれたりするからな。
「西条って、どこにいるんだろう…」
俺はまず、西条についての情報収集をすることにした。
「えーっと、西条はいつも一人ぼっちで友達を作らず、昼は購買のパンを食べていて…喧嘩になるから話しかけないようにしている。顔だけはいい。性格があんなんじゃなければ付き合った…ふむふむ、性格さえ良ければモテたんだな西条は。…お?」
風紀委員長や3年の先輩に聞いた情報を元に西条を探していると、丁度殴りかかっている様子に遭遇した。
「おい!!お前なんて言った」
「い、いや…結杏って名前可愛いねーって…」
「てめぇ、もう二度と俺の名前を呼ぶなよ」
そういって西条が殴りかかる寸前、
「やめてくださいよ、西条」
「あ…?誰だよお前」
「ごめん…後は任せたぞでかいのー!!」
殴られそうになっていた奴はお礼も言わずに、俺の事をでかいの呼ばわりして走り去って行った。確かに185cmあるしでかいのは分かるけど、それにしても酷いな。
「五十嵐璃央。次期生徒会長です。もう人を殴るのはやめてくださいませんか?」
「次期生徒会長だと…?俺になんの用だよ」
「だから、人はもう殴らないでください」
言葉の通じない人だな。
「それが用かよ。んー…じゃ、焼きそばパン買ってくれたらいいぜ」
「…え?それだけ?」
「あ?何が悪いんだよ」
意外と単純な人なんだな…
「悪くないですけど…意外だなと思いまして。今まで、買ってくれた方はいらっしゃらなかったんですか?」
「ダメって言われるんだ。それぐらい払えよ!って。意味わかんねぇよな」
それぐらい払えば俺がこんな目に遭わなかったのに。西条の周りのヤツも分からないな。
「そうですね。まあ、買ってあげましょう。そういえば、西条っていつも1人なんですよね?」
「おー…その方が楽だろ?」
そうか、嫌われているのではなくて好きで一人でいるのか。
「では、俺と一緒にお昼ご飯食べませんか?」
「はぁ?何でだよ」
「実はですね、俺、今日からあなたのお世話係になりまして。なので、西条と一緒にいようと思います」
「…舐めてんのか、俺の事」
そうなるよな。俺もそう言うだろう。だが、俺はこいつを説得してみせる。
「そんなことないですよ。あなたのために、なんでもする召使いですよ」
「…ほぉ!じゃあ焼きそばパン毎日でもいいのか!?」
「はい!」
焼きそばパン好きすぎるだろ…
「じゃ、お前今日から毎日パン買ってこいよ。そうしたらお前の言うこと聞いてやるよ。俺と飯食いたいんだもんな?」
決してそんな訳では無いが…良いだろう。案外ちょろいもんだ。
「任せてください!ご飯、一緒に食べましょうね」
そう言うと、西条はにこっと笑った。きっと誰も見た事が無い、彼の笑顔だ。顔だけは、やっぱりいいんだな。
―――こうして、俺が西条の面倒を見る日々が始まった。