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あや
「嫌」だなんて、言えるはずがなかった。
直樹に否定され続け、冷え切っていた穂乃果の心に、ナオミは鮮やかな熱を灯してしまった。男だと分かってもなお、その熱から逃げ出すどころか、もっと近くで触れていたいと願っている自分がいる。
「……ずるい、です。そんな風に聞くなんて……」
消え入りそうな声で絞り出すのが精一杯だった。
ナオミは満足げに目を細めると、捕らえた穂乃果の肩にさらに力を込め、ゆっくりとベッドへと沈めた。
「あっ」
「ずるくて結構。……アタシ、欲しいものは力ずくでも手に入れる主義なの。でも、本気で嫌がる事はしたくない。だから……」
ナオミの自由な方の手が、穂乃果の頬を優しく、けれど熱く包み込んだ。
親指が震える唇の端をゆっくりと、慈しむようになぞる。
昼間とは違い、メイクを落とした素顔のナオミは、女性的でありながらも、どこか飢えた野獣のような野性的な魅力に満ちていた。その琥珀色の瞳に見つめられるだけで、穂乃果の身体の奥深くに燻っていた官能の火が、一気に煽られていく。
「ねえ、答えて……。アンタはどうしたい?」
耳元で囁かれる、逃げ場のない問いかけ。
「わたし……は……」
それは、穂乃果自身への残酷で甘美な答え合わせだった。
「嫌」なのか「嫌じゃない」のか。
男の身体が怖い。けれど、この熱い指先に、もっと奥まで触れられたい――。
矛盾した感情が嵐のように渦巻いていたが、もう自分の心を騙すことはできなかった。
穂乃果は、ナオミのガウンの裾を震える指でぎゅっと握り締めると、意を決して顔を上げた。
「……嫌じゃないです。でも……でもっ」
そこまで言うのが精一杯だった。
ナオミは穂乃果の言葉を遮るように、吸い寄せられるように顔を寄せた。
重なったのは、とろけるほどに熱い唇。
押しつけるのではなく、羽毛が触れるような繊細さで確かめ、それから逃がさないように深く、深く――。
「……キスしたいと思う感情なんて、もうとっくに忘れたと思っていたのに……」
唇を離したナオミが、至近距離で苦笑気味に呟く。
その熱を孕んだ吐息が肌に触れ、穂乃果は身体を小さく震わせた。ナオミは形を確かめるように再び指で唇をそっとなぞり、今度は逃さないとでも言うかのように肩を掴んで、穂乃果を完全にベッドへと縫い付けた。
顔と顔が接近し、目が合って、改めてナオミの顔が男らしい精悍な顔立ちであることを認識する。
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