矢太郎は焦っていた、編集社の社員旅行先が矢太郎の地元の温泉街と知ったのだ。矢太郎は行きたくないという間もなく連れ出された、貸し切り電車に揺られ嫌と言うほど見慣れた景色を眺める様に睨んでいた。何の因果なのか予約していた旅館は昔矢太郎をいじめていた、いわゆるガキ大将と言う者だった。相手は矢太郎に気づくと昔の事が何もないかのように話掛けてきた、加害者側はしたことを忘れる…とは本当のようだ。矢太郎が加害者名を嫌でも忘れない、こいつの名前は布木並月朗。あからさまにいじめをされていた。教師も見て見ぬ振りばかり、親に話ても聞く耳を持ってくれない。矢太郎は露骨に嫌な顔をした、それに気付いているのかいないのか相変わらずへらへらして肩に手を掛けてきた。矢太郎は同僚がいる手前、声を荒げる事が出来なかった。
同僚と共に風呂に入るのが嫌で時間をずらした、それが今後悔に変わった。どうやら矢太郎の親が来ていたらしい、親と共に矢太郎の腹違いの兄が連れられていた。兄、弓太郎もいた。弓太郎は矢太郎と仲が良くも悪くもない、それより矢太郎は父親が嫌だった。父親は、嫌味ったらしく金の話をしてきた。右から左聞き流していた、父親といると背中の負わされた火傷が痛む。父も無関心な母も矢太郎の中で、死んだも当然なぞんざいだった。矢太郎が体を洗い湯船に浸からず出ようとした時だった、受付場所辺りから女性の悲鳴がこちらまで聞こえて来た。急いで浴衣を着て向かう、そこには泡を噴いて倒れた月朗がいた。そこに続々と傍観者が集まってきた。矢太郎は、犯人に気付き仰天した何故なら朱色の金魚が兄、弓太郎の周りを漂っよっていた。しかし兄は先程来たばかり、疑われにくい。今ここで兄が犯人だと言った所で状況は悪くなるだけ、それに矢太郎は何故無関係な兄が月朗を殺すの理由がわからなかった。兄に耳打ちし、今夜の事で話があると言い呼び出した。しかし、兄が来ることはなかった、自分で犯人だと名乗り出たからだ。その後旅行が中止され、矢太郎の元に手紙が届いていた。
兄からだった、矢太郎に対しての謝罪とこの件の後矢太郎は家族との縁を切る様にとだけ書いてあった。矢太郎は、途中で前が見えなくなった。兄の馬鹿なほどのお人好しが矢太郎には辛かった。
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