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──その夜、焚き火を囲んで。
パチパチと爆ぜる薪の音が、静寂を彩る。
木々の向こうに星が瞬いて、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだ。
本来なら、旅の疲れを癒やすチルな時間。
しかし、空気は重かった。主に、うどんの恨みで。
「ツバキ……今日の戦闘のビーム、すっごかったね……」
カエデが焚き火を見つめながら、亡霊のような声で言った。
「ふ……当然の結果よ。
なぜなら我が魂は、光の理と契約を果たし──」
「でもさっき、この焚き火に火を点けようとして……
またビーム暴発したよね?」
「……ごめん」
声が、思ったより小さく出た。
「私の『特製・全部乗せうどん』が、隣で器ごと蒸発したの」
カエデが空っぽの手のひらを悲しそうに掲げた。
「お揚げも、ネギも、半熟卵も……
物理演算がおかしくなったみたいに、カクカクして、
ポリゴンみたいに欠けて、シュンッ!って消えたの」
「消え方が怖いよ!?」
「卵、いい感じの半熟だったのに……
黄身がトロッてなる予定だったのに……
昼間温められなかったから、今度こそって思ってたのに……」
「弁償するから! 卵3つあげるから許して!」
私は頭を抱えた。
本当は、もう少し優しい力で世界を救いたいし、
火おこしくらい手伝いたかった。
でも今の私には、
うどんをポリゴン欠けさせて消滅させる暴走パワーしかない。
コントロールできない自分が、怖い。
──その時。
「ツバキ様」
ローザが小さく手を挙げた。
焚き火の炎が、彼女の分厚い眼鏡
(対・聖女用遮光レンズ/予備3個所持)に反射してキラーンと光る。
「先ほどから観測している魔力の変動についてですが……
気になる点がございます」
「え……なにそれ、また暴走系? 怖い話?
あと眼鏡が光りすぎて怖い」
ローザは静かに頷き、
手元の記録帳(すでに10冊目)をめくった。
「ツバキ様の魔力は……通常の魔法と違って、
信仰でも制御でもなく、
内面の『衝動』に反応して膨張していくようです」
「……衝動?」
「はい。学術的に言うならば──
『エモーショナル・バースト・システム(EBS)』ですね」
「勝手にシステム名をつけるな。ロボットアニメか」
「つまり──ツバキ様が何かを”強く願うほど”──
魔力は膨れ上がり、感情の振れ幅が
そのまま火力(カロリー)に変換されるのです」
「……じゃあ
私の”このままじゃダメ”って焦る気持ちが……?」
「それすらも、燃料(ガソリン)です。
先ほどの火おこしも『カエデのうどんを温めてあげたいな♡』という優しさが、
核弾頭クラスの熱量に変換された結果です。
優しさが致死量です」
(うどん温めてあげたいなんて思ってないけど)
沈黙が、焚き火の音で満たされた。
私は青ざめた。
は?
感情が燃料? 優しさが致死量?
パニックになりそうな頭で、私は必死に“神”の言葉を唱えた。
「……『感情とは、制御不能な光。
──だが俺は、うどんをすする!』……」
アニメ第5069話。
感情で暴走する敵を前に、カイ様が己の心を沈めるため、
戦場でうどんを啜った伝説の名シーン。
そうだ。
落ち着け、私。
心を無にするんだ。
カイ様のように、うどんを啜るイメージで……。
……ズルルッ。
「……え?」
隣を見ると、カエデが虚空を見つめながら
“エアーうどん”をすするジェスチャーをしていた。
「カイ様と同じ境地に達してる!? てか執着が怖い!!」
「……卵、美味しかっただろうなぁ……」
「完全にうどんの亡霊になってる!!」
私は頭を抱えた。
カエデのせいで全然落ち着かない。
「じゃ、じゃあ私が『お腹すいたー!』って叫んだら?」
「半径500メートルの生物が餓死します」
「『トイレ行きたい!』って思ったら?」
「洪水が起きます」
「嘘でしょ!!??」
私は頭を抱えた。
そして、最悪の可能性に気づいてしまった。
「……待って。もしさ……私が誰かを”好きかも”って思った瞬間、
ドキドキして……こう、胸がキュンッてなって、
魔力が臨界点突破したら……どうなるの?」
ローザが地面に数式を書き殴り、計算し始める。
煙が出ている。ローザの頭から。
「……計算出ました。
尊さのあまり、この大陸が消し飛びます」
「恋愛禁止じゃねーかッ!!!」
私は森に響き渡る声で絶叫した。
「乙女心が核弾頭!? ときめきがトリガー!?
じゃあ私、一生独身!? 推し活すら命懸け!?
壁ドンされたら壁どころか街が消滅!?」
「いえ、オゾン層が消滅します」
「私、聖女じゃなくて破壊神じゃない!?」
「……『乙女超新星爆発(ヴァージン・スーパーノヴァ)』ですね」
ローザが真顔でメモを取り始めた。
また変な単語が増えた。
「わあ……それ、ちょっとロマンチック……見たいかも……」
カエデがきゅんとした顔で、
何もない空間から箸を動かしている。
「ロマンと絶滅が隣り合わせなんだけど!!??」
私はカエデの頭に軽くチョップを入れた。
「あいたw」
カエデが笑った。
その能天気な笑顔を見たら、少しだけ力が抜けた。
ローザが、ふっと表情を和らげる。
「大丈夫ですよ、ツバキ様。力をコントロールするのも、
成長の一部です。それに──
ツバキ様が本当に自分らしくいられるようになったから、
きっと大丈夫です」
彼女は夜空を見上げた。
炎の光が、その横顔をやわらかく照らしている。
その言葉に、胸が少しだけ温かくなった。
*
──翌朝。
空を見上げると、青い空に、うっすらと雲が流れていた。
風が頬を撫でて、新しい一日の始まりを告げる。
「さ、行こうか」
私は進み出した。
”ツバキ”としての道を──。
完璧じゃなくても、暴走しちゃっても。
それが今の私だから。
彼氏は一生できないかもしれないけど。
推しのライブに行ったら会場ごと蒸発させるかもしれないけど。
「私は……私……か。なるようになるよね……」
遠い目で小声で呟く。
そこにカエデが私を覗き込んできた。
「うんっ! ツバキはツバキのままでいいんだよ!」
ふわっと隣で笑ったカエデが、何気なく言った。
「世界が滅びそうになっても、私がスリッパで止めるから!
今のスリッパ、耐久値『∞』だし!
うさぎの刺繍、なんか虹色に光ってるし!」
「それ、家から履いてきたやつだよね!?」
「うん! 近所のスーパーで380円だった!」
「なんでただの室内履きが神話級(SSR)になってんの!?」
「裏に『抗菌・防臭』って書いてあるからかなぁ?」
「状態異常(ウィルス)無効までついちゃってるじゃん!!」
── ツバキはツバキのままでいいんだよ
それはどんな祝福より、
優しくてまっすぐな──勇者の言葉だった。
……背後でローザが、震えながらペンを走らせている。
『聖女の覚悟──”我は我のまま、
愛(核)を撒き散らす”との宣言あり。
これぞ破壊神の産声なり。
勇者はそれを”神話級の室内履き(ルームシューズ)”にて封印せんとする構え』
(……前言撤回。やっぱりこいつらと一緒にいるとマズいかもしれない)
(つづく)
◇◇◇
──今週のカイ様語録──
『感情とは、制御不能な光。
──だが俺は、うどんをすする!』
(※つまり、うどんがうめぇ)
解説:
TVアニメ《堕光のカイ》第5069話「麺と混沌の狭間」より抜粋。
感情に反応して力が暴走する”聖女兵器(ヒロイン)”との戦闘で、
カイ様が自らの心を沈めるために行った儀式。
戦場で湯気立ち上るうどんを「すーっ」と啜る行為。
そのあまりのシュールさに敵が「えぇ…(ドン引き)」となって、勝った。
この回だけ作画監督がうどん職人だったという伝説があり、
うどんの作画枚数が戦闘シーンを超えている。
◇◇◇
おまけ
《カメリア聖典・信徒の断章》
記録者:ローザ
・「うどんで人は救えるんだ……!」(信徒Lv.1・空腹)
・「うどん派とそば派で宗教戦争が起きそう」(信徒Lv.7・麺類過激派)
・「むせたら鼻からうどん出た。たぶん神のお告げだよね」(カエデ)
・「鼻より出でし白き麺、これを『導きの糸(ホワイト・ライン)』と呼ぶ」(ローザ)
・「我が魂は、聖なる湯気に導かれ、うどんの理へ至れり──」(ツバキ・やけくそ)