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名をツバキ。
選ばれし聖女……
いや、もはや”ゴッド・ツバキ”と呼ばれる存在。
だが実態は──ビーム暴発系女子である。
†
──風の音が止んだ。
見渡す限りの草原。鳥も虫も黙り、風すら止む。
空気が重い。静寂じゃない、”断絶”だ。
「……あれ? なんか空、割れてない?」
カエデが空を指差した。
青空に、黒い線が走っている。
まるで世界そのものにひびが入ったような──不吉な前兆。
その裂け目から、禍々しい黒の靄(もや)とともに、
”手”が出てきた。
指は長く、爪は鋭い。
明らかに人間のものではない。
──その手が空間の裂け目を掴み、無理やり押し広げようとしている。
ひびはゆっくりと広がっていく。
こいつが出てきたら終わりだと、本能が告げていた。
『勇者と聖女が……出会ってしまったか……
封印の鍵が……二つ……三つ揃う前に……』
空間の向こうから、男の声が響いた。
異様に静かで、低く、そして禍々しい気配だけが重く落ちる。
草が枯れ、小石が浮き上がった。
──それは、後に《魔神の襲来》と記される出来事である。
「ッ、あれ──あれ絶対ヤバいやつ!!」
私の肌が粟立つ。
本能が警鐘を鳴らしている。
これはマズい、本当にマズい。
「空間をこじ開けようとしてる!!」
私はカエデとローザに向かって叫んだ。
「おおお……! いにしえの邪神の腕……!
これぞ聖女様の力を示すにふさわしき神の試練ッ!」
ローザが目を輝かせて、この緊急事態にペンを走らせ始めた。
恐怖よりも信仰が勝っている。狂気だ。
「なんか、黒くておっきいカニの爪みたいだね。
茹でたら美味しそう……」
カエデがよだれを拭いた。
恐怖よりも食欲が勝っている。これも狂気だ。
(ダメだこの二人、危機感ゼロ!!
私がなんとかしなきゃ……!)
本能がブレーキを踏む前に、私の感情がアクセルを踏んだ。
「来るなッ!!」
ビーーーーーー♡
草原に魔力が弾ける。
私の拒絶の感情が、無意識の魔力暴走を引き起こす。
ホーリービーム♡(左目)が空間そのものを押し返そうとした。
──空間の裂け目が、一瞬”縮んだ”。
『んん? 何だ……? なぜ次元の境界が勝手に……』
魔神の困惑した声が漏れる。
これはチャンスだ。
「あれ? 黒い手が……つっかえてる?」
カエデが状況を把握し、ウィルソンを構えた。
「ウィルソン、いっけぇえええ!!」
カエデが叫ぶ。
そして彼女は、手の中の石ころと力強く無言で頷き合っていた。
私には全く聞こえないが、おそらく今の彼女の脳内では、
少年マンガのような熱いやり取りが響いているのだろう。
こわい。
(※カエデの脳内:『任せろ! カエデーッ!』)
ゴッ!
黒い手にクリーンヒット。
魔神の手がビクッと震える。
『な、何だこの衝撃は……?
まさか石ころが……我が肉体に届くとは……』
「効いてる!?」
カエデの目が輝いた。
「ウィルソン──全員行けぇぇ!!」
カエデは袋から石を出しながら連投。
ゴッゴッゴツン! ゴッゴッ!!
次々と飛ぶ石。
一発一発が魔神の手を直撃し、手を引っ込めさせようとした。
『ぐぬぬ……小娘め……だが所詮は石ころ……』
「石ころ? 友達を石ころ?って?
友達の石ころのウィルソンを石ころ扱いしたね!?」
(カエデは韻でも踏んでるのかな)
カエデが理不尽なキレ方をする隣で、私は震える手をかざした。
「私たちをバカにするのは勝手
でも──”無事に出てこれる”とは……思わないことね!
全力で拒否してやる!」
(※つまり、超怖い。)
私の足元に魔法陣が浮かび上がる。
光を集束し、魔力の制御を外す。
もう怖いとか言ってる場合じゃない。
「もう知らない!! 聖女モード全開ぇぇ!!」
私の周りに眩い光の輪が現れた。
天使の羽根のような光片が舞い散り、
神々しいオーラが草原を包む。
「ツバキ、左から行くよ!」
久しぶりにカエデがまともなことを言った気がする。
「了解! 右から挟み撃ちね!」
私はカエデに確認した。
「……カエデ、怖い? 逃げる?」
カエデは少し間を置いてから、言った。
「……ううん。サクラなら、きっとこう言うよ」
「サクラ?……っは!」
私とカエデの声が重なった。
「「ビビってる暇があったら、ぶん殴れ!!あとで考えろ!!」」
「「だよね! だよねっ!!」」
「「いっけぇぇ!!!」」
私たちが左右に分かれて魔神の手を囲む。
カエデが跳躍しながら石を投げ続けた。
「ウィルソン! 空中投法ぁぁ!!」
カエデが意味があるとは思えないジャンプして石を投げた。
ゴン!
「見届けろ。世界ごと押し返す、私の拒絶!
《堕天照臨・ホーリービーム♡》──全開放(アンリミテッド)ッ!!」
私の左目、右目、口からビームが発射された。
前が見えない。喋れない。
(つづく)