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指揮官であるヘルシングを先頭に次々と罠に嵌まり命を落としていく騎兵隊。その様子を見て『暁』側は歓声を挙げる。
「嬢ちゃんの読み通りだな!」
「つくづく、シャーリィちゃんを敵に回したくはないよ」
全ての陣地の側面には罠が仕掛けられており、鉄条網や塹壕を用いて巧妙に誘導するように配置されている。
「騎兵隊の強みは機動力と突破力。弱点は、急に止まることが出来ない点です。特に錬度が高ければ高いほど罠に引っ掛かります」
設営時に述べたシャーリィの言葉通り、錬度が高くしっかりと陣形を組んだ彼らは止まることが出来ず罠の餌食となっていく。
方向転換は周囲に張り巡らされた鉄条網がその動きを封じる。
「まさかこうも簡単に引っ掛かるなんてなぁ」
「あっちに焦りがあるからだろ。これで側面はあんまり気にしなくて良い!正面の奴等を潰すよ!」
騎兵隊の惨劇を遠目に見たカサンドラは戦慄を覚えた。多少の罠は警戒していたが、正面の味方を囮にするような罠を仕掛けてくるとは思わなかった。
罠としては極めて単純なものであるが、その効果は絶大なものだった。
「騎兵はどうなった!?まだ戻らないのかい!?」
「戻ったのは十数騎だけだ!ヘルシングの奴も死んだ!」
「なんだって!?ヘルシングが死んだ!?」
あっけなく右腕が失われたことに強い衝撃を受けた。一刻も早く陣地を突破しなければと言う焦りを突かれた形となった。
「残った奴等を歩兵団の後ろにつけな!これからが正念場だからね!」
激しい銃撃戦が繰り広げられるが、双方射撃の錬度が高いわけではなく徐々に距離を詰めながら相手の出方を伺っていた。
「焦れったいね!斬り込むか?旦那」
「いや、まだだ。先に飛び出した方が被害を受ける。あちらの方が焦りがあるんだ。どっしりと構えておくとしよう」
ドワーフ達は酒瓶を改良した火炎瓶まで持ち出して投擲。『血塗られた戦旗』の歩兵団を悩ませていた。
「火炎瓶の威力はどうだ?エレノア」
「見ての通りさ。雨で濡れてるから、燃え広がることもない。こっちを試してみないか?」
エレノアは筒状のものを手に取り不敵な笑みを浮かべる。それは今回試作された簡易ダイナマイトであった。
砲撃による爆発の威力を見て、個人が携行出来る爆弾の開発が行われた。従来の物は起爆に時間を要したが、この試作ダイナマイトは導火線に火をつけるだけの簡単な処理で点火できる。
また詰め込まれた爆薬は砲弾などに使用されている高性能爆薬で、更に内部には使えなくなった釘などの廃品が可能な限り詰め込まれ、殺傷能力を向上させている。
難点は湿気に弱く、濡れたら使い物にならなくなるため管理に細心の注意を払わねばならないこと。
雨天時の使用については試行錯誤の真っ最中である。
「湿気ってないか?」
「一応濡れないように箱に入れてたけど、どうなんだ?旦那」
「濡れてなきゃ使えるとは思うが……よし、試してみるか。貸してくれ」
「あいよ」
二人はそれぞれ手に持ったダイナマイトにマッチを用いて点火。そのまま『血塗られた戦旗』の歩兵団へおもいっきり向けて投げつけた。
エレノアの投げたダイナマイトは、あいにく水溜まりに落ちて不発に終わる。水浸しとなったダイナマイトに内包された爆薬が浸水して起爆しなかったのだ。
対してドルマンは手慣れたもので、予め導火線を短くして調整。敵歩兵の頭上で爆発するように仕向けた。
そしてその狙いは的中した。
歩兵の頭上に達したダイナマイトは、内包された爆薬を起爆させる。爆発を引き起こして、仕込まれた釘などの廃材を四方に飛び散らせた。
飛び散った破片は爆風と共に傭兵達を傷つけ、広範囲にわたって被害を与える。
「爆弾!?小癪な真似をするじゃないか!しかも雨のあとに!」
もちろん手投げ爆弾は帝国にも存在するが、雨に弱いと言う共通の弱点があり、雨天によって『血塗られた戦旗』が保有する分は使い物にならなくなった。
『暁』側は陣地内で雨に濡れないよう箱詰めして保管されていたので利用されたに過ぎない。
「おおっ、やったぞ!雨でも使えるようにするのが課題だな」
「ちっ、私のは不発かい」
「はははっ!ちょいと工夫を……むっ!」
今の爆発に触発されたのか、『血塗られた戦旗』の部隊が一斉に立ち上がり雄叫びを挙げながら突撃を開始した。
「ようやく突撃してきたかい!野郎共!チマチマ撃ち合うのはお仕舞いだ!」
「「「うぉおおっ!!!」」」
エレノアがカトラスを引き抜いて掲げると、海賊衆も小銃を捨ててカトラスやナイフなどを引き抜き雄叫びを挙げる。
「そうだな、当たりもせん撃ち合いをしても弾の無駄だ!ワシらドワーフの力を見せ付けてやろうではないか!」
「「「おうっっっ!!!」」」
ドルマンの言葉にドワーフ達も手斧を掲げて応える。そして彼らは塹壕を飛び出すと一気に駆ける。双方は泥だらけの大地を駆けて一気に距離を詰める。傭兵達も使い馴れた武器に持ち替えて突撃、真正面から激突した。
轟く怒号、悲鳴。鉄を打ち合う音が響き渡り、肉が裂け血飛沫があがる。
「カサンドラーーっ!!何処だこのアマーーっ!!邪魔だぁあっ!」
「ごっ!?」
その乱戦の中、エレノアはカサンドラを探し求めてカトラスを振るう。
自分の目の前に躍り出た傭兵の股間を蹴り上げ、怯んだ所に下顎から脳天へカトラスで貫き、死体を蹴飛ばして叫ぶ。
「エレノア!あまり前に出てはいかんぞ!嬢ちゃんを悲しませるような真似は止めるんじゃ!」
「がっ!」
ドルマンは手斧を振り下ろして傭兵の脳天をかち割り、エレノアへ制止するよう言葉を投げ掛ける。
「けどよ、旦那!あのアマは私らの因縁の相手なんだ!今さら見逃せってのか!?」
「そうは言わん!だが大局を見ろ!ワシらがやらなきゃならんことを忘れるな!ふんっ!」
ドルマンは言葉を投げ掛けながらも、斬り込んできた傭兵の足を掬い上げるように切り上げ、両足を失い宙に舞う胴体へ向けて手斧を振り下ろして両断。
エレノアも背後から忍び寄る傭兵へ回し蹴りを叩き込み、倒れた顔面にカトラスを突き立てた。
「ーっ!分かったよ!野郎共!一人残らず始末しな!通すんじゃないよ!」
エレノアは味方を鼓舞しながら目の前の敵に集中する。
それを見て安堵するドルマンであるが、不安も抱えていた。まだ生き残りが要る筈の騎兵が姿を見せないことに不信感を抱いた。
もちろん万が一に備えて数名が乱戦に参加せず周囲を警戒しているが、その不安が消えることはなかった。