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日本国 官邸
総理は夕日に照らされる東京を眺めていた。部屋に国土交通大臣が入ってくる。
国土交通大臣「失礼します。総理」
総理「何か…あったのかね?」
国土交通大臣「はい…。先程、日本海北東部を航行していた海上保安庁の巡視船かやが消息を絶ちました…。おそらく、氷塊雲に巻き込まれたのかと…」
総理「…それは…。」
総理大臣は机に手を着く。
総理「…亡くなった海上保安官達は…後日黙祷を捧げるとしよう。」
国土交通大臣「了解しました…。」
その時、部屋に気象庁職員が何人か入ってくる。
気象庁職員「失礼します。総理。氷塊雲について進捗がありましたので参りました。」
総理「そうか…。ご苦労。で、進捗というのは…?」
気象庁職員は何枚かの資料を机に置く。総理と国土交通大臣は資料を手に取り目を通す。
気象庁職員「氷塊雲の雲の大きさは積乱雲の5倍です。雲の真下は日光が当たらないため、マイナス50度まで急激に気温が下がります。」
総理「マイナス…50度以上…。もしや、海上保安庁の巡視船は…」
気象庁職員は残念そうな表情で総理に向き合う。
気象庁職員「おそらく…氷塊雲の真下で船や乗組員もろとも凍りついてしまったと…」
総理「…なんということだ…。」
気象庁職員「総理、まだ氷塊雲は日本本土には上陸していませんが、今後この雲の数は世界中に広がると考えられます。更には今後日本各地で竜巻や津波といった自然災害も相次ぐことでしょう。対応を早め一刻も早く国民の避難誘導を開始することを提案いたします。」
総理はメガネを外しソファーに座る。
総理「そうだな…。だが、しかし…。今後この氷塊雲は世界中に広がり各地を氷河期に変えてしまうのだろ…?いったい国民をどこに逃がせばいい…」
気象庁職員「1番は地下シェルターへの避難だと思われます。」
総理「しかし…日本にはアメリカのような軍事地下シェルターはない…。地下施設なら数百件あるが…国民全員を避難することは不可能だ…。」
気象庁職員は職員同士で顔を見合わせうなずき、総理にある方法を提案する。
気象庁職員「国民選抜を行いましょう。」
総理「!?」
国土交通大臣「!?」
国土交通大臣は少し怒声を交えていう。
国土交通大臣「何をいうか!国民選抜で選ばれなかった国民はどうする!見殺しにするのか!」
気象庁職員「見殺しにはしません。吹雪が収まるまで窓のない部屋で暖さえ取れれば生存確率はグンと上がります。それでも、高齢者や子供といった人達は生き残れない可能性があるため、そういった人達を優先すべく選抜を行います。」
国土交通大臣「…総理…」
総理大臣は机に置かれていたコップにお茶を入れ飲む。
総理「分かった…国民選抜を行う…」
国土交通大臣「総理…本気ですかっ…!」
総理「あぁ。その代わり…できるだけ多くの子供達を助けてくれ…」
気象庁職員「分かりました。」
気象庁職員は総理大臣と国土交通大臣に一礼し部屋を出る。
日本国 EEZ
海上自衛隊 あきずき型護衛艦《あきずき》
あきずきは訓練航海のため日本本土を離れていた。
乗組員「艦長、北緯20度25分。東経136度04分。沖ノ鳥島です。」
艦長「分かった。」
護衛艦あきずき 艦長
紫呉淳一 一等海佐
艦長「はァ…」
乗組員「お疲れのようですね。艦長」
艦長「そりゃ疲れるだろ。政府が国民選抜なんて無茶な考えに乗り出したのだからな…。」
乗組員「そうですね…。」
艦長は艦長席から立ち上がり外を見つめる。
艦長「既に海上保安庁の巡視船2隻もやられた…。何百人も死者が出てるんだ…。ここから先…何千人…いや、何億人と死者がでるのだろ?」
乗組員「いえ。気象庁によりますと窓のない部屋で1ヶ月分の暖と食料があれば生存確率は上がるそうです。」
艦長「そうなの…か…。」
艦長は安心した表情で再び艦長席に座り胸ポケットから写真を出す。
乗組員「娘さんですか…?」
艦長「あぁ。今年で大学生になる。」
艦長は親指で娘の写真をさする。そしてソッと胸ポケットに写真を戻す。その時、艦橋に乗組員が1人入ってくる。
乗組員「艦長。」
艦長「どうかしたか?」
乗組員「国土交通省より、沖ノ鳥島職員の救助要請です。今から30分後にはこの海域にも氷塊雲が多数接近するとのこと。」
艦長「30分か…大丈夫だ。航海長、取り舵20度!最大船速!」
航海長「了解!取り舵20度!最大船速ー!」
航海長はハンドルを20度傾ける。あきずきは警笛を鳴らし沖ノ鳥島に向かって行くのであった。