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《岬 Side》
休日の午後
俺の部屋は柔らかな日差しに包まれていた。
窓の外からは穏やかな風が吹き込み、カーテンを優しく揺らしている。
ソファにふたり並んで座って、テレビの音をなんとなく聞きながら
気だるく心地いい時間を過ごしていた。
朝陽くんが持ってきた漫画を読み終え、満足げに膝の上で閉じている。
俺は彼のために淹れた温かいココアを、彼が飲み干したマグカップと一緒にテーブルに置いた。
隣にいるだけで満たされるような、そんな穏やかな時間が流れていた。
今日は、朝陽くんを家に呼んでまったりデート中なわけだけど
少し身体を傾けて、俺の肩にもたれかかってくる朝陽くんを横目に見ながら、ふと思い出す。
最近、どこか嬉しそうにしていた彼の様子を。
「……そういえば最近、友達できたんだっけ?」
俺が聞くと、朝陽くんはふにゃっと笑ってゆっくりと顔を上げた。
その表情には、ほんの少しの照れと
隠しきれない喜びが滲んでいる。
彼の頬は、日差しを受けてほんのり赤く染まっているように見えた。
「あっ、うん!薺くんって言うんだけど、チャラいけど……結構優しくて、いい子なんだよね」
名前を口にするその声が、どこか誇らしげだった。
まるで宝物を見つけた子供のように、キラキラとした輝きを宿している。
ああ、本当に気が合ったんだなって
言葉じゃなくてもその声のトーンから、表情の柔らかさからひしひしと伝わってくる。
俺の知らないところで、彼が新しい世界を見つけ、そこで楽しそうにしている。
その事実が、じんわりと胸に温かさを広げた。
「へぇ、よかったね。……どこで遊んだの?」
俺はできるだけ自然に、興味があるふりをして尋ねた。
彼の新しい交友関係に、少しだけ踏み込んでみたい気持ちが芽生えていた。
「この前、一緒にゲーセン行ってね。岬くんと撮ったときみたいに、プリクラ撮ったんだよ」
そう言いながら、朝陽くんは自分のスマホを開いて、慣れた手つきで写真を見せてくる。
画面には、慣れないポーズでぎこちないながらも笑顔を作っている朝陽くんと
少しちゃらっとした雰囲気の男の子。
髪は明るく、ピアスもしているように見える。
至って健全なツーショットだったけど……正直
ちょっとだけ、心の奥がもやっとした。
いや、朝陽くんにとって数少ない友達ができるのは嬉しいはずなのに。
ずっと一人でいることが多かった彼が、自分から心を開ける相手を見つけた。
それは喜ばしいことだ。
なのに、でもさ──なんだろうな
このざわつく感じは。
まるで、自分だけの秘密の場所を
誰かに覗かれたような、そんな奇妙な違和感。
俺は笑ってそれを飲み込みながら、頭を撫でてやった。
「高校生だなぁ……ふふっ。にしても、友達できてよかったね」
彼の柔らかな髪が指先に触れる感触が心地いい。
朝陽くんはその手の下で、恥ずかしそうにうつむいて、真っ赤な顔で
「う、うん……」っと声をしぼり出す。
その表情があまりに素直で、あまりに可愛くて
さっきまでのもやもやがどこかへ吹き飛んでしまいそうになる。
彼の純粋さに、俺の心はいつも簡単に揺さぶられる。
こういうとこ、ほんとずるいな。
そんなとき
ふと視線が、朝陽くんの唇に落ちた。
少し開かれた口元。
先ほどまで言葉を紡いでいたその唇は、やわらかそうで
ほんのり赤くて、どこか震えるみたいに揺れてる。
まるで、触れてほしいと誘っているかのように。
吸い寄せられるように、俺の意識はその一点に集中した。
気がつけば、指先がそこに伸びていた。
理性が追いつくよりも早く、衝動が俺を突き動かした。
ぷるんとした唇に、そっと触れる。
その感触は、想像以上に柔らかく、温かかった。
「……ひゃっ」
朝陽くんがびくっと肩を震わせて、俺の顔を見た。
目をまんまるに見開いて、頬を真っ赤に染めている。
その瞳には、驚きと戸惑いと、そして微かな期待のようなものが入り混じっていた。
「な、なに……?」
震える声で尋ねる朝陽くんに、俺は軽く笑ってごまかした。
「いや、なんか……柔らかそうだなって思ってさ」
朝陽くんは目をそらして、耳まで赤くしながら
「そ、そんなとこ触んないでよ……」
なんて、小声でつぶやいた。
その反応が、俺の意地悪な心をさらに刺激する。
もっと困らせてみたい
もっと朝陽くんの可愛い反応が見たい。
そんな衝動が、胸の奥でむくむくと膨らんでいく。
俺は少し身を乗り出して、朝陽くんの顎にそっと指を添えた。
ひんやりとした指先が彼の柔らかな肌に触れると、朝陽くんの体が小さく震える。
くい、と軽く持ち上げると、視線が真っ直ぐぶつかる。
彼の大きな瞳が、俺の顔を映し出す。
「ねえ、朝陽くん。せっかくだし……俺とキスの練習、してみない?」
俺の言葉に、朝陽くんの顔から血の気が引いたように見えた。
そして、次の瞬間には、さらに真っ赤に染め上がった。
「へ……っ?」
小さなあえぎみたいな息が、彼の喉からこぼれた。
その顔は、さっきよりももっと赤くなっていた。
耳まで熱を帯びてるのが分かるほど、全身から熱が発しているようだった。
「……っ」
朝陽くんは唇を結んで黙ってしまった。
目を泳がせたり、うつむいたりしながらも、俺から視線を外せずにいる。
彼の瞳の中には、葛藤と、期待と、そして少しの恐怖が入り混じっていた。
その複雑な感情が、俺の心を締め付ける。
「……嫌ならちゃんと言ってね。無理にとは言わないから」
そう付け加えると、彼の瞳が小さく震えた。
それでもやっぱり抵抗しない。
ただ戸惑うように目を伏せて……
やがて、ゆっくりと、震えるほどゆっくりと首を縦に振る。
その仕草が、どれほど彼にとって勇気のいることだったか、痛いほど伝わってくる。
「……岬くんが、したいなら…いいよ」
その答えは弱々しかったけれど、確かに俺を受け入れてくれた。
「ありがとう、朝陽くん…目、瞑ってくれる?」
そう言うと、彼はぎゅっと強く目を閉じた。
睫毛が震えてる。
緊張で肩が硬くなってるのがわかって、かわいくてたまらなくなる。
その震えが、俺の胸を締め付け
同時に、たまらない愛おしさを募らせた。
(あぁ……好きだなぁ、ほんと)
純粋で、無防備で、真っ直ぐな朝陽くんに
ゆっくりと顔を寄せていく。
吐息がかかるほどの距離まで近づくと、朝陽くんの体がさらに硬くなったのが分かった。
朝陽くん相手だからか、心臓がうるさいくらい鳴ってる。
ドクンドクンと、自分の鼓動が耳の奥で響き渡る。
そして、そっと朝陽くんの唇を奪うと
柔らかく、あったかい。
甘くて溶けそうなくらいで。
初めて触れるその感触に、俺の全身が痺れるようだった。
短い、けれど永遠にも感じられる一瞬。
すぐに離れると、朝陽くんが薄く目を開けた。
頬が桃色に上気していて、吐息が浅く乱れてる。
焦点の定まらない瞳が俺を見つめ、その口元からは、か細い声が漏れた。
「みさき……っ、くん…」
俺の服を掴んで、俺の名前を呼んでくる。
それがたまらなく可愛い。
このまま、もっと深く、彼に触れたい。
我慢できなくて、もう一回、唇を重ねようとすると……
「ま、待っ…て」
彼の声がわずかに震えてる。
顔を逸らして、必死に呼吸を整えてる。
でも耳まで赤く染まっていて、俺に向けられた視線は、完全に〝そういう目〟になっている。
潤んだ瞳が、俺の心を揺さぶる。
「……ごめん。びっくりさせたね」
そっと手を伸ばすと、朝陽くんは肩を縮めて
俺の手に頬をすりすりとしてきて
その仕草が、まるで子猫のようで、俺の胸を温かさで満たした。
そして、目を細めたあとに小さな声でぽつりと呟く。
「…岬くんとの、きす…っ、ドキドキしすぎて、耐えられないから…っ、きょ、今日はここまででもいい……?」
その懇願するような声に、俺は思わず笑みがこぼれた。
「いいけど、耳まで真っ赤だよ?」
俺が指摘すると、朝陽くんは
「うっ、み、見ないで…っ」
と、さらに真っ赤になり、両手で顔を覆ってしまう。
その仕草が、あまりにも可愛くて、俺はもうどうしようもなかった。
思わず抱きしめたくなる衝動を抑えながら、真っ赤な頬を両手で包むように持ち上げて
視線を無理やり合わせる。
彼の瞳はまだ潤んでいて、俺の顔を真っ直ぐに見つめられないでいる。
「…朝陽くん、今自分がどんな顔してるのかわかってる?」
そう問いかけると、彼の返事は
「……わかんない」
の一言だけだった。
顔を隠して、でも隠しきれていない赤面。
その反応を見て、堪らずぎゅっと抱き締める。
俺の胸の中で、朝陽くんはぴくりと肩を震わせたが、抵抗はしなかった。
ただ小さく息を吸い込んで、俺の背中に腕を回して、ぎゅっとシャツを握ってきた。
彼の体温が、俺の胸にじんわりと伝わってくる。
「朝陽くん、また今度、キスの練習しようね?」
そう告げると、顔を胸に埋めたままの朝陽くんは、微かに震える声で答えた。
「う、うん…がんばるから…手加減して…っ、ほしいな」
彼の髪をそっと撫でながら
「ん、分かってるよ」と囁いた。
その温もりを抱きしめ続けながら
俺は彼の小さな決意と、その可愛さに、心の中で何度も「可愛すぎる」と繰り返した。
コメント
1件
一気読み!2人、眩しすぎるっっ!私の下卑た心が洗われました!!!