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第1話「親友以上」
「おはざーす!」
「ざーすっ」
朝の校門で教師に挨拶をする。俺は直人の肩に腕を回したまま頭を下げた。ちょっと窮屈そうにしながらも、直人は嫌がらず一緒に礼をしてくれる。
「……お前さ、朝からくっつきすぎじゃない?」
「合流からずっと、エグくないすか?」
「歩きづらいんだけど」
直人の小さなため息が聞こえて、俺は笑ってしまう。こういうやり取りが、なんだか心地いい。
教室に入れば、すぐに周りが騒がしくなる。
「翔、おはよ!」「今日さ、一緒に昼どう?」
声をかけてくる女子も男子も多い。俺は笑って応じるけれど、必ず直人の席の隣に戻る。そこが一番落ち着く場所だから。
「ノート貸して」
「100円なー」
「金取るのかよ!」
不満を言いながらも差し出してくれる直人の優しさが、俺にはたまらない。周りには「親友だから」と言っているけれど、本当は違う。俺にとって直人は唯一無二だ。
廊下を歩いていると、女子に呼び止められる。
「翔くん、今日一緒に帰ろ?」
「ごめん、直人待たせてるから」
そう言えば大抵は納得してくれるし、笑って済む。でも直人は眉をひそめて俺を見る。
「…なんで俺を理由にするんだよ」
「事実だから」
「別に、待ってないけど」
「嘘つけ。俺がいなかったら寂しいだろ」
「調子に乗るな」
直人は人に無関心に見えて、人一倍周りを見ている。
──気づかれているんだろうか。
俺が直人に向ける視線が、親友以上のものだって。
「なあ直人」
「何」
「もし俺がさ……お前以外の誰かと付き合ったら、どうする?」
「……は?」
「いや、気になっただけ」
「勝手にすれば?」
そっけなく言いながら、直人は目を逸らした。その横顔に、俺は確信に近いものを覚える。
気づいている。きっと直人は、俺の気持ちに。
でも俺は、まだ口にできない。
「親友」の枠を超えた瞬間、戻れなくなるのが怖いから。
それでも、こうして隣を歩くたび、笑い合うたび、胸の奥は抑えきれないほど熱くなる。
──きっと、俺はもうとっくに直人に恋をしている。