テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「3回目の。」
なしこの
今妹ちゃんの小説見てる最中やからストーリーとかは気にせんでな
途中のは見終わったら僕がやる
⚠なんでも許せる方のみ
なっしーは、よく”愛してる”を簡単に言う人だった。
コンビニに行くみたいな軽さで言う。
「このさんのことはなっしーがいっちばん愛してるからね!」
初めて言われた時、このは普通に引いた。
深夜二時。通話。
雨の音。撮影の話。
どうでもいい話をしていた途中だった。
「はいはい。」
「え〜、絶対信じてないじゃん」
「軽いし」
「軽くないよ?」
へらへら笑う声。
ふざけてるみたいな喋り方。
でも、なっしーは本気だった。
それが一番気持ち悪かった。
このが「寝る」と言って通話を切っても、三十秒後にはメッセージが来る。
『このさんおやすみ!』
『なっしー本気だよ?』
『既読つかない…』
『このさん寝た?』
『死んだ?』
『ねえ』
『返事して』
『こわい』
怖いのはこっちだよ、と思いながら、このはスマホを伏せた。
なっしーは少し変だった。
たぶん最初から。
誰かが傷つく瞬間を、まるで知らない人みたいな顔で見る。
人の怒りも悲しみも、「なんで?」で返す。
理解できないんじゃなくて、理解する気がないみたいな。
なのに、私に対してだけは異常に執着した。
「このさん今日なにしてたの〜?」
「別に」
「誰と?」
「きっしょ」
「でもこのさん弱いから心配〜」
弱い。
その言葉を、このは否定できなかった。
実際、弱かった。
ネットの知らない言葉ひとつで傷つくし、嫌われたと思えばすぐアカウントを消す 。
人に依存して、人を拒絶して、人のせいにして、それで自己嫌悪して泣く。
だから、なっしーみたいな真っ直ぐ壊れてる人間に、うまく対応できなかった。
「このさんってさぁ」
「なに」
「いなくなりそうだよね〜」
「……」
「だから見てないと不安なの」
その時、このは笑った。
「なにそれ。ストーカーじゃんw」
「なっしーはそれでもいいよ?」
即答だった。
笑いながら言うことじゃない。
でもなっしーは、本当に分かっていなかった。
どこまでが冗談で、どこからが怖いのか。
だから時々、このは妙に安心してしまった。
悪意がないから。
いや、違う。
悪意がないように見えたから。
なっしーはいつも、このを見つけていた。
鍵垢を変えても。
名前を変えても。
配信を消しても。
「見つけた〜!」
と、嬉しそうに現れる。
執念というより、本能みたいだった。
「なんでわかんの……」
「愛の力?」
「キモ」
「えぇ〜、」
たぶん普通なら、もっと早く縁を切るべきだった。
ブロックして、通報して、全部終わらせるべきだった。
でも、私はしなかった。
できなかった。
なっしーが怖かったからじゃない。
いなくなる想像の方が、少しだけ怖かった。
二回目の告白は、冬だった。
このがまたアカウントを消した日。
知らない誰かの悪意で、心がぐちゃぐちゃになって、全部嫌になって、逃げた。
数時間後、捨て垢から通知が来た。
『このさん』
『どこ』
『ねえ』
『返事して』
『返事して』
『返事して』
異常な量のメッセージ。
このは無視した。
すると通話が鳴った。
切っても切っても鳴る。
うるさくて、最後には折れた。
「……なに」
『なぁんでぇ〜』
泣いてるみたいな声だった。
『なっしーはこんなに愛してるのに〜』
「……」
『なんでいなくなるの』
「別に、なっしーのために生きてないし」
『でもそしたらいなくなっちゃう』
「は?」
『このさん、いつか急にいなくなりそう』
「……」
『やだ』
沈黙。
イヤホン越しの呼吸だけが聞こえる。
『ねえ』
『どこにも行かないでよ』
その声が、少しだけ子供みたいで。
このは胸が詰まった。
依存されてるだけ。
重いだけ。
普通にキモい。
そう思うのに。
「……知らない」
それしか言えなかった。
なっしーは、その短い返事だけで安心したみたいに笑った。
『よかったぁ』
その笑い声を、このは今でも覚えている。
なっしーが居なくなったのは、春の終わりだった。
呆気なかった。
本当に、びっくりするくらい。
昨日まで通話していた人が、今日にはもうこの世にいない。
そんなことあるんだ、とこのは思った。
最初、実感がなかった。
嘘だと思った。
どうせまた現れると思った。
『見つけた〜!』
って。
何事もなかったみたいに。
でも、来なかった。
通知は鳴らない。
朝起きてもメッセージがない。
アカウントは止まったまま。
配信履歴も増えない。
世界から、なっしーだけが抜け落ちていた。
このはスマホを見ながら、ぼんやり思った。
静かだ。
うるさかったのに。
いつも。
ずっと。
うるさいくらい、隣にいたのに。
数日後、このはなっしーとの通話履歴を開いた。
意味はなかった。
ただ、なんとなく。
録音なんて残してない。
声も聞けない。
そこにあるのは日付だけだった。
長時間通話。
夜中。
朝方。
意味のない時間。
スクロールしているうちに、急に息が苦しくなった。
「……は、」
泣くつもりなんかなかった。
なのに涙が落ちた。
自分でも意味が分からなかった。
だって、私はなっしーに散々振り回されていた。
キモかった。
怖かった。
それなのに。
なんで。
なんで、いなくなっただけでこんなに静かなんだろう。
部屋の隅に置いたスマホが、もう二度と震えない。
その事実だけが、じわじわ体を削った。
夜。
コンビニ帰り。
誰もいない歩道橋。
私は缶コーヒーを片手に、ぼんやり空を見ていた。
風が冷たい。
スマホの画面には、送信されていないメッセージ。
宛先は、もう返事をしないアカウント。
『ねえ』
消す。
『バカ』
消す。
『なんで居なくなったの。』
それも消す。
打っては消して、打っては消して。
最後に残ったカーソルだけが点滅していた。
なっしーは、私を愛していると言った。
一回目も。
二回目も。
何度でも。
うるさいくらい。
狂ったみたいに。
でも、私は一度も返さなかった。
返せなかった。
認めたら終わる気がしていた。
このまま同じ関係が続くと思ってた。
だから逃げた。
茶化した。
拒絶した。
曖昧にした。
でも。
いなくなってから気づく。
毎日通知を待っていたこと。
声を探していたこと。
自分の話を、あんな必死に聞く人間は他にいなかったこと。
遅すぎた。
本当に。
どうしようもないくらい。
私は、小さく息を吐いた。
街の音が遠い。
車のライトだけが流れていく。
「……本当は」
声が震えた。
言った瞬間、全部終わる気がした。
でも、もう聞く相手はいない。
「……愛してた」
静かな夜だった。
返事はない。
既読もつかない。
当然だ。
なっしーはもう、この世にいない。
それでも、このは少しだけ笑った。
3回目の”告白”は私が言うなんて思いもしなかっただろう。
「……これで、三回目だね」
ただその声は。その声だけは少し弾んでいた。
コメント
1件

好き