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「僕が好きなのは……あの日の茶会で誰かを守ろうと奔走した、豪胆で、優しく気高いメリッサ様なのですよ」
ん?
───好き?
今、この、全世界が羨む最推し騎士が、私に「好き」って言った?
「ご、ごめん。今、なんて言ったかしら? 私、最近ちょっと耳が……。聞き間違えだと、私のことが好きだと、そう聞こえたのだけど……」
混乱の極みにある私の脳が、必死に防衛本能を働かせる。
「はい」
レオン様は、一切の迷いなく頷いた。
「き、きっと、マリンのことが好きって言ったのよね? 聞き間違えよね?」
「いえ。メリッサ様です」
「そうよねそうよね! メリッサ様が────って、は、はいぃぃ……?!」
言葉が理解に追いつかない。
「レオンが、私を……!?」
ようやく絞り出した声は情けなく裏返っていて。
それでも彼は、獲物を籠に閉じ込めた後のような、満足げな微笑みを浮かべたまま動かない。
これは、あまりに都合の良すぎる夢に近い。
だけど……手首を掴む彼の熱い体温も
鼻先をくすぐる微かなオードトワレの、清潔でいて暴力的なまでに男らしい匂いも
すべてが残酷なほど現実だった。
(どうしよう……どうすればいい…?)
このままじゃ、マリンへの甘々溺愛ルートじゃなくて、私への逃げ場なし『執着溺愛ルート』に強制突入しちゃうんですけど!?
頭の中で前世の乙女ゲームの記憶が高速で駆け巡るが「攻略対象に本気で惚れられた悪役令嬢の回避法」なんて知らない。
次の瞬間、ふっと手首の圧力が解放された。
「事実を言ったら、やはり、また貴女を困らせてしまいましたね」
そう言って、困ったように、けれどどこか楽しそうに苦笑する彼。
そのわずかな隙を逃さず、私はスカートを掴んで慌てて数歩後ずさる。
「僕は貴方を愛しているんです。できることなら、誰にも渡したくないのです」
心臓は、全力疾走した後のようにバクバクと鳴りっぱなしで、顔が沸騰しそうに熱い。
「……続きはまた明日、たっぷりとお話しましょう。今夜はゆっくりお休みください…メリッサ様」
優雅に、そして恭しく一礼して去っていく彼の広い背中を、私はただ呆然と見送ることしかできなかった。
「いや……原作改変にも程があるでしょ。これ……どう収拾つけたらいいのよ……!?」
静まり返った自室で、私は頭を抱えて座り込んだ。
処刑エンドを避けるはずが
いつの間にか「悪役令嬢溺愛ルート」への片道切符を握らされていた。
推しに愛されるのは嬉しい。
(……だけど、こんな展開聞いてないっての!!)
私の全力逃走ライフは、どうやらここからが本当の始まりらしい。