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6月の夢路
朝の空気は重たく、まるで夜を引きずったまま時が動き出していた。
broooockは、湿った空気のなかで立ち止まり、足元の土をじっと見つめていた。
草むらの中に、誰かが何度も通ったような細い道が続いている。
「……この道、昨日までなかったはずだよね」
振り返ると、nakamuが同じように足を止めていた。
手には小さな紙切れ。白地に、にじんだインクで文字が書かれている。
『この道の先で待っている。失くしたものを取り戻すなら、進め。』
「手紙、届いてたんだ。俺も、似たようなのが入ってた」
シャークんがポケットから同じような紙を取り出し、ひらひらと見せた。
その動きがやけに静かで、音のない空間が強調された。
「気味悪いけど……ここに来たら、この道があってさ」
きんときがぽつりと言うと、誰かが木の枝を踏む音がした。
スマイルが現れ、無言のまま周囲を見回していた。
そのすぐ後ろに、きりやんも姿を見せた。
彼の目は既に道の先を捉えていて、風の流れや地面の傾きまで計算しているようだった。
「6人、揃った……のかな」
nakamuがつぶやいたとき、broooockはふと違和感を覚えた。
何かが足りないような気がした。
だが、人数は6人。記憶のなかの顔と一致する。
ただ、その違和感は、身体の奥で静かに警鐘を鳴らしていた。
「……行こう。この道、いつか消える気がする」
きりやんが前に進んだ。
それが合図のように、他の5人もゆっくりと歩き始める。
音はほとんどしなかった。
風の音も鳥の声もない。あるのは、足元の草を踏む微かな感触だけ。
「なんか、夢みたいだな」
シャークんの言葉に、誰も返事はしなかった。
その感覚が、本当に夢かどうか、誰も確信が持てなかったからだ。
道はまっすぐではなかった。
曲がりくねり、時には地面に沈みそうになりながら、それでも確かに前へ続いていた。
そして誰もが気づいていた。
この先に待っているのは、ただの“目的地”ではないということに。
それぞれが“失くした何か”を、この道が指し示しているということに。
最初の一歩を踏み出すたびに、胸の奥にざわめきが広がる。
思い出したくない記憶。
思い出せない約束。
自分でも気づいていなかった“空白”。
やがて道は木々に囲まれていった。
深く、静かな森のようなその場所に、光は届いていなかった。
だが、6人は迷わなかった。
光ではなく、“何かの気配”がそこにあることを、皆が感じ取っていたから。
こうして、会話の少ない一行は、誰も知らない道の奥へと足を踏み入れていった。
その先に待つものが、始まりなのか、終わりなのかも知らないままに。
——道が現れるとき、地図は消える。
それは、この世界の最初のルールだった。
つづく
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