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ボリュームを絞ったインストロメンタルの音楽をつけて、
「……眠っていなさい。着いたら、起こしてあげますから」
そう物静かな声音で伝えられ髪が撫でられると、誘われるように目蓋が降りた。
うとうととしながら車が次第に山奥へと入っていくのを、ぼんやりと感じていた。
幾つものカーブを曲がりながら、山道を登って──
「……着きましたよ」
どれくらい山を上がってきたのか、彼の声が耳元で間近に聞こえて、目を開けると、
木々に囲まれた箱型の白亜の建物の前に車が止められていて、起き抜けの寝呆け眼に手をかざして振り仰ぐと、燦々と降り注ぐ木漏れ日に外観の白さが眩しいくらいに際立って映った──。
別荘のドアの鍵を開くと、「どうぞ、入ってください」と腰に手が添えられ、中へ招き入れられた。
エントランスを入ると、大きく間取りを取った天井の高い吹き抜けのリビングが広がっていて、
「……ここは、先生の?」
その広さに目を奪われつつ尋ねた。
「ええ、家とは関りのない、私個人のものです」
彼が話して、レンガ造りの暖炉を前にした中央のソファーへと、私の手を引いた。
「もう、気分の方は回復しましたか?」
ソファーに隣り合って座った彼が、こちらの顔を心配げに窺う。
「…たぶん…」
気分が落ち込んだ理由が未だに自分でもよくわからなくて、そう言うしかなくて、
「それなら、良かった……」
ホッと安堵をしたように彼から言われると、ちょっと申し訳ないようにも感じられるみたいだった……。
「紅茶でも淹れますか? 茶葉の缶をストックしているので」
「はい…」
お湯が沸くしゅんしゅんという音が心地よく耳に響く。蒸らした紅茶がティーポットからカップに注がれ、
「いい香り…」と、口を付けた。
「紅茶には、リラックス効果もありますので、ゆっくり飲んでくださいね…」
「ありがとうございます…」
一口を飲むと、彼の優しさが紅茶の温もりと共に、胸にじんと沁み入るのを感じた……。