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消えゆく光

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消えゆく光

1 - 消えゆく光

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2025年03月15日

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夜空に咲いた花火の残像が瞼の裏に焼き付いている。


──「来年もいむと花火がみれますように。」


ないちゃんの言葉が、耳の奥で何度も反響していた。


◇◇◇


それからの活動は、目まぐるしい日々だった。

動画の編集、歌の収録、ライブのリハーサル──。


ないちゃんもぼくも、全力で駆け抜けていた。


けれど、その一方で、ないちゃんの様子は少しずつ変わっていった。



最初は、ただの「疲れ」だと思った。


「最近あんま寝れとらんくってさ~」

「大丈夫、平気平気」


笑って誤魔化す姿に、ぼくは深く追求することはなかった。

けれど、それが間違いだったと気づいたのは、ある夜のことだった。


◇◇◇


「…ないちゃん、? 」

連絡が取れない日が続いていた。

元々マメに連絡をくれるタイプじゃなかったけれど、さすがにおかしい。


不安になり、ないちゃんの家に向かうと、鍵が開いていた。

嫌な予感がした。


部屋の中は暗闇に沈んでいた。

カーテンも閉め切られ、外の光すら入らない。


「ないちゃん?」


声をかけると、ソファの上で丸くなっている小さな影があった。


「……いむ?」


弱々しい声が返ってくる。


「どうしたの、?ないちゃん…」


近づくと、ないちゃんは毛布に包まりながら、虚ろな目でこちらを見ていた。


顔色が悪い。肌は青白く、目の下には深いクマができている。


「…なんか、全部疲れてさ~」


ぽつりと呟いたその言葉に、心臓がひどく痛んだ。


「なに、それ… 」


「わからん…笑 なんか、ずっと頭が重くて、なんもする気になれんくて…」


「…そんなんでいいわけないでしょ…ッ!」


思わず声を荒げた。


ないちゃんはびくっと肩を震わせる。


「……ごめんね、怒ってるわけじゃないの。ただ、ないちゃんがそんな風になってるのが、こわくって…」


ないちゃんはかすかに笑った。


「…優しいな、おまえは。」


そう言ってぼくの手を握った。

その手は驚くほど冷たかった。


「ないちゃん…ちゃんと食べれてる、?」


「…ううん、あんまり、笑」


「ばかじゃん…」


呆れながらも、ぼくはキッチンへ向かった。

冷蔵庫を開けると、ほとんど何も入っていなかった。


「うそでしょ、、」


仕方なく、コンビニへ買い出しに行くことにした。



「いむ」


「ん、?どうしたの、ないちゃん」






「……いかないで」






小さな声が背中を引き止める。


振り返るとないちゃんはまるで捨てられる子犬みたいな目をしていた。


「…ごめんね、すぐ戻るから」


そう言っても不安そうな顔は変わらなかった。


「ぼくがいないと、だめかな、?」


「……うん」


その言葉に、胸が締め付けられる。


「…じゃあ、一緒に行こう?」


そう提案すると、ないちゃんは小さく首を振った。


「やっぱいい…待っとく」


「…うん、わかった。すぐ戻るからね」


そう言って部屋を出た。



◇◇◇


それからぼくは、ないちゃんのことをできるだけ支えようとした。


食事を作り、一緒にゲームをし、たまに外に連れ出した。


けれど、ないちゃんはどんどん変わっていった。


笑うことが減り、話すことが減り、目の光が薄れていった。





「いむ」



ある日、ないちゃんがぽつりと言った。


「……おれ、もうだめかもしんない」



「へ、、そんなこと…言わないでよ」


「……いむがいるのに、こんなこと言ってほんまごめん。でも、、もう苦しい」


「…ぼくがそばにいるよ。だから、大丈夫」


そう言って、ないちゃんの手を強く握った。


「…ほんまに、?」


「うん。ぼくは、絶対にないちゃんを離さない 」

ないちゃんは微笑んだ。

でも、その笑顔はあまりにも儚かった。



◇◇◇


それから数週間後、ないちゃんは突然いなくなった。


スマホには「探さないで」のメッセージ。


ぼくは必死に探し回った。


やがて、静かな海辺でないちゃんを見つけた。


「ないちゃん!!」


声を張り上げると、ないちゃんはゆっくりと振り返った。






「…いむ」




「ねぇ”ばかじゃんッ!なに考えてんのッ!」









「……おれね、こわかったんだ」







「…え、なにが…?」






「おまえが、いむがいつか、おれのことを置いていくんじゃないかって」



「ぼくがそんなことするわけないじゃんっ!!」




ないちゃんは、ふっと笑った。




「……でも、俺がいなくなったら、いむは自由になれるよ」


「や”めてよッ!!」




必死に叫んだ。



でも、その瞬間──








ないちゃんは、ふわりと後ろへ体を傾けた。




「ないちゃんッ!!!」


ぼくは手を伸ばした。



でも────


届かなかった。


暗い海が、ないちゃんを包み込んだ。



「……なんで…っ…!」


叫び声は、波の音に掻き消された。


気がつけば、俺の手には、あの日と同じように、ないちゃんの冷たい指先が残っていた。





でも今度は──





もう二度と、その手を握り返してくれることはなかった。












𝑒𝑛𝑑











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