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私は必死で応戦する。
拳、蹴り、頭突きなんでもした。興奮はピークを過ぎていた。
また、人々が数人囲んできた。私は頬を殴られながらも、腹に蹴りを入れられながらも、背中を殴られながらも。まるで、狂ったように各々を叩きのめす。
私はでこぼこの顔で、生き抜くことと、安浦のことを考える。もう、ゴルフ場の時の呉林の犠牲は御免だった。あんなに自分に落胆し猛烈な劣等感を感じるのがどうしても嫌だった。
「どけー! どけー!」
自転車が微動だにしない多くの人々の間を縫って、走ってきた。渡部である。
「赤羽さーん! 大丈夫ですかー!」
渡部も参戦した。
「安浦があの洋服店に入って出てこないんだ! 何かあったらしいんだ!」
渡部は頷くと、拳に力を入れる。
二人とも数秒で痣と血だらけになる。
空には赤い、巨大な月が現れた……。
何本も歯が折れたようだ。腹の中の蕎麦はとっくに吐いた。血を吐くまでのリンチが止まった。何十人と戦ったのだろうか。渡部は数分前に蹲った。私は血だらけの体をコンクリートから引き剥がして、立ち上がり、ボコボコになった顔で、安浦の入った洋服店を見つめていた。
安浦は無事だろうか……。
口の中が鉄臭い。体の到る所がズキズキする。けれども、歩きだす。安浦の入った洋服店へ。
洋服店が突如明々とし、炎上する。建物の到るところから炎が顔を出した。
私は茫然と立ち尽くした。
「安浦……」
私はぱつりと言った。涙が滲みでる。頭の中が真っ白になる。
「赤羽さん。……諦めないで下さい」
蹲った渡部の弱い声が耳に入る。
「きっと、安浦さんは無事です……」
渡部はそういうと、力なく血を吐く。
「解った」
私は最後の力を振り絞り、安浦の入った洋服店へと歩きだした。
煙る店内は広く。店の中央にある受付を中心に洋服が所狭しと、陳列されていて、奥の方にコンクリート製の階段が二階と地下に繋がっている。炎が散りばめられて、煙が視界を遮る。
一度も買ったことのないような高級そうな服が、原型を辛うじて持たせているが燃えている。
私は炎による熱で、汗をかいた。
二階は男子トイレ、地階は女子トイレがあるようで、私は地階にゆっくりと降り出した。