僕はまだ覚えている
このマンネリデートにスパイスかけるために訪れた
空調が効いた不動産屋
君は物件を見ながらニヤニヤしている
そんな楽しそうな君を見てると僕も気になりだした
そんな僕に君は言った
「間取り気になる?笑」と、にこにこしながら見せてくれた
「外観が今どきだし、ここならコンビニ近いしいいんじゃない?」
そう君が言ったから、僕らの家は決まった
僕にはもう未来しか見えていなかった
新しい家に着き、初めて鍵を開けた始まりのあの日を
未だ覚えている
君が窓を開けた瞬間、気持ちいい風が吹き込んでくる
ダンボールだらけの部屋で君は言った
「さっき買ったコーヒー飲もうよ」
「明日もその明日も思い出を書き足していこうね」と
コーヒーを飲んでいると
「忘れないで」
「あなたへの愛は、本物だよ」
そう君が言った
僕らを繋いでいたのは糸よりも脆いガムテープで
ダンボールからそのガムテープをとると、中から溢れてくる
2人の笑い声
これでいいんだ
この時間今頃君は、僕じゃない誰かと新しい家で荷物を待っている
僕はまだ覚えている
あの夜、君と喧嘩したことを
僕は、ぶつかることにさえ愛を感じていた
けど、徐々にひび割れた僕らの生活
「もうやめにしようよ」
君が放った一言に、僕は呆然と立ち尽くした
この部屋はまるで、鳥かごのよう
僕の目の前にいるのは、僕の知ってる君じゃない
じゃあ、一体誰?一体君は誰なの?
あっけなく僕らのストーリーに緞帳が下がっていった
全部が情けなく感じて、笑えない茶番だったんだと僕は思った
所詮、ドラマのようにはいかないんだ…。
ドラマによく出てくる第三者のように、僕は心を守った
最後に僕は君に言った
「忘れないで。君への愛は本物だったよ」
涙とともにこぼれる思い出と共にちぎれた僕らの心を繋いでいた
ガムテープ
僕は開けたダンボールの中に入り、まるで捨て猫のように1人で
泣いている
いっそ会わなければ、僕らが探していたものの答えは
見つからないだろう
君は、僕との思い出を違う人に上書きされていくだろう
僕に残された世界は、君の温もりだけが残る部屋
独り言が、君がいない静かな部屋に、やけに綺麗に響いていく
日にちが経っていく度、「サヨナラ」と心でつぶやく
本当にこれで良かったんだろうか…。
僕は、今でも君のことが…
僕らを繋いでいたものは、強い糸なんかじゃない
弱い糸よりも簡単にちぎれる脆いガムテープだった
ダンボールに詰まった2人の笑い声が溢れていく
「これでいいんだろ?」
僕は心の中で君に問いかけた
この時間今頃君は…
新しい人と新しい場所で荷物を待っている…。
僕は、君の使っていた食器皿などをダンボールに詰め、割れ物注意と
書き、君のもとへ送った
僕らの心は、楽器のチューニングが合わないみたいに…
いや、僕か君のどちらかが、相手の本当の姿を受け入れられて
なかった
だから合わなかったんだ
そしてもうひとつ
僕は、君へのプレゼントをダンボールに詰めて送った
割れ物注意と書いて…。
コメント
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こんな機能あるんだね!