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第二十話 おはようの観測
『――おはようございます』
その声が響いた瞬間。
図書館中の星々が、一斉に淡く光った。
まるで。
長い夜を越えたことを、静かに喜んでいるみたいに。
⸻
私は中央恒星庫を見上げる。
小さな恒星。
やさしい金色。
以前より少しだけ明るい。
「……聞こえた?」
澪が小さく頷く。
『うん』
伊織は黙ったまま星を見ていた。
でもその横顔は、どこか信じられないものを見ているみたいだった。
⸻
本棚の瓶たちは、まだざわめいている。
『ここ、寒くない』
『誰かいる』
『あれ、空……?』
小さな声たち。
今までは“記録”だった存在が、自発的に周囲を認識し始めている。
伊織が低く呟く。
「未練が、“保存物”から“観測者”へ変化してる……」
「観測者?」
「自我に近いものです」
彼は眉を寄せる。
「本来ならありえない」
⸻
すると。
ひとつの瓶が、ふわりと棚から浮いた。
白い光。
ゆっくり私たちの前へ漂ってくる。
私は思わず息を止めた。
瓶の中には、小さな記憶の粒が揺れている。
そして。
『……あなた』
声が聞こえる。
やさしい、おばあさんみたいな声。
『その制服』
私は自分の服を見る。
大学帰りのままだから、まだ学生証がついていた。
『学生さん?』
「え、あ……うん」
『そう』
小さな光が嬉しそうに揺れる。
『よかった』
胸が、少し熱くなる。
⸻
伊織が静かに言う。
「……対話してる」
「そんなに変なの?」
「未練は普通、“残響”です」
彼は瓶を見る。
「返事はしない」
でも今。
この記憶たちは、こちらを認識している。
まるで。
“まだ少し、生きている”みたいに。
⸻
『ねえ』
別の瓶が小さく揺れる。
『朝って、こんな色だったっけ』
『忘れちゃった』
その言葉に、澪の星核が微かに瞬いた。
澪はそっと瓶へ近づく。
『……きれいだよ』
瓶の光がやわらかく揺れる。
『そっかぁ』
なんでもない会話。
でも。
それだけで、図書館の空気が少し温かくなる。
⸻
私はふと思う。
この場所は今まで、“忘れるため”の場所だった。
でももしかしたら。
これからは違うのかもしれない。
忘れられなかったものを。
閉じ込めるんじゃなく。
静かに、“存在していていい”と言う場所。
⸻
その時。
本棚の奥から、小さな足音がした。
コツ。
コツ。
私は振り返る。
誰かいる。
でも。
司書でも、澪でもない。
小さな影。
子どもくらいの背丈。
星屑みたいな髪。
そして。
その瞳だけが、夜空みたいに深かった。
⸻
伊織の顔色が変わる。
「……嘘だろ」
「知ってるの?」
彼は信じられないものを見るように呟く。
「観測補助個体……」
「かんそく?」
小さな影は、じっとこちらを見ていた。
感情が読めない。
でも不思議と怖くない。
やがて、その子は静かに口を開く。
『おはようございます』
以前聞いたAIの声と、少しだけ似ていた。
でも違う。
もっと幼くて。
もっと透明だった。
⸻
『夜明け、正常観測』
小さな影は、淡々と続ける。
『図書館、新規段階へ移行』
沈黙。
そして。
その子は私を見て、ほんの少し首を傾げた。
『あなたが、鍵だったんですね』
mogyumogyuGemi
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みら

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みら

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コメント
1件
おはようの観測、めっちゃ良かった……! 「おはようございます」の声で星々が光る描写、一気に世界観に引き込まれたわ。 「未練が観測者へ変化する」とか、普段は返事しないはずの記憶たちが対話してくる展開、すごく好き。 「忘れるための場所」から「存在していていいと言う場所」への変わりゆく感じに胸が熱くなった。 最後に出てきた小さな影の「鍵だったんですね」で終わる余韻、最高すぎる……続きが気になりすぎる🔥