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平日の一週間が過ぎ、花の金曜日、もとい華やかな金曜日。
「昼行こうぞー海ー」
風天(ふうあ)が海の背後に立ち、海のオフィスチェアーを左右に回転させるように揺らす。
「ん。行こっか」
「んじゃ!水貝井(みかい)と泥好木(どろすき)お昼行ってきまーす!」
風天がオフィス全体に言うように言う。
「お前ら相変わらず仲良いな」
と先輩というか上司の皆口大子(ひろこ)が2人に言う。
「仲良いっすー」
「男女だったら夫婦レベルっすよねー」
と後輩の落合陽子が言う。
「男女ならな?いや、男女だったら仲良いかわからんし。
友達としてはいいけど夫婦になったら。ってパターンも全然あるし。
まーそれを経験してるのが皆口先輩なわけで」
「お前」
「あ」
と海と風天、2人して恐る恐る皆口のほうに視線を向ける。すると笑っているのだがどこか影があり怖い笑顔で
「泥好木ー?水貝井ー?しばいたるからちょっとおいでー」
と自分のデスクから手招きをする皆口。
「おっ、お昼行ってきます!」
と走ってオフィスを出ていく風天。
「あっ!おい!…てかオレなんも言ってないっす。あの…お昼行ってきます!」
と海も焦ってオフィスを出ていった。エレベーターに乗る2人。エレベーターのドアが閉まる。
「お前バカじゃねぇの?」
「いやぁ〜つい口が滑って」
「あぁ〜風天のせいでオフィス帰りづらくなったわぁ〜」
「いやぁ〜。そう!先輩もそろそろあのことイジらないとね?
触れづらくなって、そーゆー話になったとき先輩に気遣ってオフィスが変な空気になるの
先輩も嫌なはずだからさ?オレが率先してやらないと」
と胸をポンッっと軽く叩く風天。
「相変わらず口から出まかせがすごいな」
「でしょ〜」
「褒めては…なくはないか」
「なくはないんか」
と笑う風天。
「女性陣はどういう感じで話してんだろ」
「あぁ〜。たしかに。でも先輩も落合とか長尾とかとは飯いかんだろ」
「仲良いとは聞いたよ?」
「マジ?」
「マジマジ。飯は知らんけど結構飲み行くんだって」
「へぇ〜。誰情報?」
「長尾」
「ならそうか」
「信じてなかったんか」
「いや、出処によってかな」
と話していると1階につく。2人で降りる。出口に向かって歩く。
「あ、そうだ」
と足を止める風天。
「ん?」
「福飯来るかな?」
「あぁ〜。どうだろうな」
「ちょ、連絡入れてみるわ」
と言ってエントランスホールの背もたれのないソファーに腰を下ろす風天。海も風天の隣に座る。
「えぇ〜。福福。いたいた」
トーク一覧から福の名前を見つける風天。
「風天って地元の友達とかと連絡してんの?」
と自分も別に誰に連絡をするわけでもないのにLIMEのアプリを開き、トーク一覧を無駄にスクロールする海。
「んー。全然。ま、1人くらいかな。あとは姉ちゃんとか弟とかくらい」
「その1人ってあの千葉くんの結婚式で言ってた人?」
「ん?オレなんか言ったっけ?」
「いや、なんか連絡取ってたまに会うやつがいるとかなんとか」
「あぁそうそう。そんなこと言ったんだオレ?てかよく覚えてたな」
「なんか覚えてたわぁ〜」
「堀野里(ほりのり)大也(ひろや)ってんだけど、同じ高校で仲良くてなー。
大也も東京で就職してるからたまに飲みに行ってんだよねー」
「なんかいいなそーゆーの」
「そーゆーの?どーゆーの?」
「なんか地元の友達といまだに仲良くて、地元じゃなくて別の地で会って。っていうの」
「あー」
「オレ東京だからさ。そーゆーのないんよ」
「都会っ子自慢すか」
「違うわ」
「そーいや、結婚式なんて、行ったなぁ〜」
「行った行った。これから後輩の結婚式は断ろうかな」
「わかるわ。胸が削られる」
なんて話していても福から返信が来ないので
「電話してみよ」
と電話してみる風天。しばらく2人は黙り、エントランスホールの雑踏が聞こえる。
「出ない」
と言った瞬間出た。
「お、出た」
「ごめんごめん。LIME今見たわ」
「で?昼行ける?」
「あぁ〜。…うん。出れる出れる。今どこ?」
「下。エントランスにいる」
「オッケー。すぐ行くわ」
「ほーい、待ってるわー」
「うい」
「ういー」
と電話を切った。
「来るって」
「うん。だろうなと思った」
しばらくエントランスホールの背もたれのないソファーで待っていると
エレベーターから降りてキョロキョロ見回す福が目に入った。
風天が大きく手を振る。福がそれに気づき近づいてくる。
「ごめんごめん」
と言う福に
「今来たとこ」
と返す風天。
「デートの待ち合わせかよ」
と言う海。
「どこ行く?」
「なんか行きたいこととかないん?」
と話し合ってお昼に繰り出した。
一方の海綺(うき)はお昼過ぎに起きて、母が作ってくれた朝ご飯を食べて
部屋に戻ってギターの練習&作曲を進めていた。するとスマホが鳴る。
「あ、愛大(まな)だ」
愛大からのLIMEのメッセージ通知だった。
愛大「今日飲み行かん?昨日結構貰った…」
と通知欄にはすべて入り切っていなかったので
その通知をタップして、愛大とのトーク画面に飛んで全文を読む。
愛大「今日飲み行かん?昨日結構貰ったから1杯くらいなら奢りますぜ」
「お。いいねぇ〜。行く行く。っと」
返事を打ち込んで送信した。
「お。いいねぇ〜。よし。バイト行こー」
と愛大は出掛ける用意をしてバイト先へ向かった。
バイト先はホストクラブ。といってももちろんプレイヤー(ホスト)ではない。
「お疲れ様でーす」
ホストクラブのドアを開け中に入り、ソファーに座っている黒髪の人物に挨拶をする愛大。
「あ、お疲れ様ー」
「もう始めちゃっていい感じですか?」
ソファーに荷物を置く愛大。
「んんーまー別に始めてもいいけど?」
「円鏡(まるきょう)さんどっちがいいっすか?」
「坂木田さんはどっちがいい?」
「質問返しはモテないっすよー?」
「モテても日本じゃ1人に選ばないといけないしね。1人だけにモテるのが理想かな」
と微笑む漆慕。
「イケメンは言うこともイケメンなんすね」
「そんなそんな」
「んんー」
ホストクラブの店内を見渡す愛大。
「おぉ〜…だいぶとグラスありますね」
「ね」
「昨日なんかあったんすか?誰かのバースデーとか」
「いや、昨日はなんもなかったけど、なぜか結構出たらしい」
「へぇ〜…。じゃ、ジャン負けがキッチンで」
「いいよ?」
「じゃんけん」
「ほい」
「ぽい」
愛大がグー、漆慕がチョキだった。
「っしゃー!じゃ、うちがホールですね?」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
頭を下げる愛大。
「ということでゆっくりしてないでキッチンしてください。運んでいけないんで」
「もうちょいゆっくりしない?」
「まー、別にいいですけどー」
と言ってソファーに座る愛大。そう、愛大のホストクラブでのバイトは、ホストクラブの店内の清掃だ。
愛大と漆慕で毎日3店舗を担当しており、時給がそこそこ高い。
「円鏡さん、バンドの調子はどうです?」
「んー…。ま、悪くはないけど、人気は横ばいって感じかな。坂木田さんは?スカウトとか来た?」
「来ないっす来ないっす」
「…ピアス増えた?」
「ん?いや、増やしてないっすよ?」
「気のせいか。多すぎてわかんないよね」
「円鏡さんこそタトゥー増やしました?」
「いや?増やす予定はあるけど」
「あるんだ」
「「Rebuild the Culture」ってバンド知ってる?」
「知ってます知ってます。アメリカの」
「そうそう。あのバンドのロゴ入れようと思ってる。
今肘んとこに「3 World Map Editors」ってこれまたアメリカのバンドのロゴ入れててさ」
と言ってパーカーの右袖を捲る。すると肘の内側、曲げる部分に
「3」と「W」「M」「E」で囲まれた地球のタトゥーが入っていた。
「あぁ〜。見たことあるかも。私も入れようかな、タトゥー」
「あんまオススメはしないけどね…」
愛大はスマホから漆慕に視線を移す。パーカーでほとんどは隠れているものの
漆慕は喉仏が出ていないタイプの男子だが、本来喉仏がある部分の少し下に月のタトゥー
スマホをいじっている右手の甲には、某映画のピエロ的なキャラの目と鼻と口のタトゥー
指には小指から第二関節と第三関節の間に「BEST」と入っている。
左手にも第二関節ほどまでレントゲンのように、骨のタトゥーが入っており
これまた指には人差し指から第二関節と第三関節の間に「LIFE」と入っている。
「いやぁ〜。これほどまで説得力がないとは」
「え。ない?」
漆慕が静かに驚く。
「ないっすねぇ〜。え、だって円鏡さん、もう上半身埋まってるでしょ?」
と愛大が言うと
「さすがに埋まってないよ」
と笑って答える漆慕。
「背中は?」
「ガラ空き」
「正面は」
と愛大が聞くと
「ここは埋まってるけど」
と左手で胸の辺りを右から左に摩るようにしながら言う。
「ここは空いてる」
と左手でお腹辺りを円を描くように摩るようにして言う。
「あ、意外と空いてるんすね」
「そうなのよ」
「…」
危うく納得しかけた愛大だったが
「いやいや、充分多いって」
正気に戻った。
「そんな入れてたら不便ないのかなぁ〜とか思っちゃいますって」
「不便はー…特にないかな」
「ないんかい」
ソファーから前にコケるような仕草をする愛大。
「不便はないけどー…言ったっけ?オレの実家の話」
「ん?聞いてないっすね」
と言いながらソファーに座り直す愛大。
「タバコ吸うか。あ、坂木田さんも吸いたかったら吸っていいよ」
と言いながら紙タバコの箱をポケットから取り出し、1本出し口に咥え
箱を座っているソファーの前のテーブルに置き
ZIPPO(ジッポ)ライターで火をつけ、一吸いして煙を口から吐く漆慕。
「あ、いいっすか」
愛大もタバコを吸う。
「いや、オレの実家、というか両親が警察なのよ」
「えぇ!?そうなんすか」
「見えないでしょ」
と笑う漆慕。
「見えないっすね」
「両親だけじゃなくてさ、兄弟姉妹、親戚も警察ばっかの警察一家なのよ」
「マジっすか」
「オレだけなのよね、警察の道歩まなかったの」
「あぁ〜、バンドが怒られた感じですか」
「んや(いや)」
とタバコを咥えたまま言ってから一吸いして煙を吐き出し
「バンド自体は別に怒られはしなかったなぁ〜」
と吐き出した煙のように吐き出すように、思い出すように言う漆慕。
「ホストやったのがまあまあ言われたのと」
と言った後タバコを咥え、パーカーの右袖を少し捲り
「ほえ(これ)」
と左手で右手の手首に入っている目のタトゥーを指指して言った後タバコを右手に持って
「これが引き金だったなぁ〜」
と言う漆慕。
「あぁ」
愛大は漆慕の手首のタトゥーを見て納得した。
「高校んときから入れたくてさ、タトゥー。ま、こんな増やすつもりはなかったんだけど…」
とタバコを持った右手でこめかみを掻きながら苦笑いする漆慕。
「警察一家ですもんね。そりゃー言われるか」
「父親に「お母さんから貰った体を傷つけて」とか言われてねー。
母親は母親で「消せないの?」とか消す前提で話してきて。ま、兄弟姉妹は別に「いんじゃない?
1人くらい自由気ままな人が家族にいても」的なスタンスだったからあれだけど。
とりあえず父親がカンカンでね。「それを消すまではうち(家)に帰ってくるな」ってさ。ほぼ勘当よね」
「ま、手首一箇所でそんな怒ってらっしゃるなら、今の状態だったら勘当でしょうね」
「だよねぇ〜」
と笑う漆慕。
「ま、家族から絶縁状態にされることもあるからあまりオススメはしないかなぁ〜」
「円鏡さんの例は特例だと思いますけどね。あとそんな首にまで入れようとは思ってないですし」
「あとね」
タバコを吸って煙を吐く。グッっと真剣な顔になって愛大を見る漆慕。
いつもはクールで笑顔が爽やかで素敵な漆慕の真剣な顔に、よっぽどのデメリットがあるのだと覚悟する愛大。
「…単純に…」
「単純に?」
「…痛い」
「…痛い?」
「うん。痛い」
「そ、そんだけかーい」
とまた、今度はソファーに横にコケる愛大。
「そんだけって。嫌でしょ、痛いの」
「ま、痛いのは普通に嫌ですけど。防御力に全振りしますけど。
でもなんかMyPipeとかで見てるとあんま痛くないって言ってる人いますけど」
「あぁ〜。いや、痛いよ」
「痛いんだ?」
「普通に痛い。ま、場所によって痛さは異なるけどね」
「あぁ〜それもよく聞きますね。ちなみに円鏡さんが一番痛かったとこどこですか?」
漆慕はタバコを吸って煙を吐きながら灰皿にタバコを押し付けて
「ここ」
と左手の中指で溝落ちを指指す漆慕。
「あ、溝落ちにも入れてんすか」
「そ。ここはね…気が遠くなるほど痛かったね。息できなかったわ」
「こっわ」
パッっとパーカーを捲り、溝落ちのタトゥーが見えるようにする漆慕。
「かわい」
漆慕の溝落ちにはハートの形をした宝石のタトゥーのラインだけが入っていた。
「ラインだけなんだけどね。ラインだけであんな痛かったから色入れる気になれなくて」
と言いながら溝落ちのハートを摩る漆慕。パーカーを下ろす。
愛大は「うげぇ〜。痛そぉ〜」という表情を浮かべ、タバコを吸い、灰皿に押し付ける。それを見た漆慕は
「さ、掃除しますか」
と立ち上がる。
「やりますか!」
と2人で清掃を始めた。
「福さ、今日飲み行く?」
海、風天、福の3人はお昼ご飯を食べ終え、飲み物を飲みながら話していた。
「ん?いいよ?全然」
「マジか!じゃあオレらの行きつけんとこでもいい?」
「ま、別にいいけど」
「“オレら”ってかオレの行きつけだけどな?」
「あ、海の行きつけの店なんだ?」
「そ。オレの地元だけど大丈夫?」
「まあ、明日は昼からだから終電で帰れれば」
と言う福に
「嘘っ」
と驚く風天。
「明日も仕事なん!?」
「仕事って仕事じゃないけど、ちょっとリモートで話し合いするだけよ」
「土日に仕事の話すること自体嫌だわー」
「それな」
「うち(PR、宣伝部)は決めることとか確認事項とか、先方、ま、タレントさんとか俳優さんとか
そのマネージャーさんとか事務所の偉いさんとかの意見で変えなきゃいけないこととかもあるから
土日でのリモート打ち合わせも割と多いのよ」
「オレ宣伝部無理だわー」
「ま、風天みたいに無理ーって辞める人、もしくは部署変えする人多いよ。
大変な分やり甲斐はめっちゃある。と、オレは思ってる」
「おぉ〜社畜体質だな」
「それな」
「やめて」
なんて笑ってお会計を済ませて会社に戻る。エレベーターに乗り、エレベーターの扉が閉まる。
「さてさて、あと半分頑張るかー」
「だなー」
「福ー」
「ん?」
「とりまオレら終わったらLIME飛ばすわ」
「オッケー」
「どうせ終わる時間違うだろうし」
「なんなら先行っててもいいよ?位置情報送ってくれたら行くし」
と言う福に
「釣れないこと言うなよぉ〜。一緒に行こうぞぉ〜」
とくっつく風天。
「釣れなくはないだろ。一緒に行くって言ってくれてんだし」
「ま、とりあえず下とかどっかカフェで待ってるから一緒に行こうぜ」
「風天は思考が高校生で止まってるから」
「たしかに」
「ありがとぉ〜」
「褒めてはない」
「褒めてはないんじゃない?」
海と福がハモる。
「え、そうなの?いつまでも若々しいねって意味じゃないの?」
「「めっちゃポジティブじゃん」」
と話していると福が降りる階になる。
「んじゃ、終わったらLIME飛ばすからー」
「ん」
海と風天は顔を合わせて福のほうを見て
「「浮秋(ふあき)ぃ〜浮気すんなよぉ〜」」
とお決まりの挨拶を言う。
「だから相手がいないんだってば」
と苦笑いをする福。
「じゃ、後でね」
と手を振る福に
「ん。あとでなー」
「あとでー」
と手を振り返し、エレベーターの扉が閉まる。
海と風天の部署がある階につき、2人もエレベーターから降りる。
「よーし。午後も頑張らないけど頑張るぞー」
「それいいな」
なんてオフィスに入ると
「おぉ〜水貝井に泥好木ぃ〜。お昼はゆっくりできたかなぁ〜?」
と先輩である皆口が待ち構えていた。
「お…」
「いや…」
首を左右に曲げる皆口。バキバキンという音が聞こえる。気がする。
「あ!オレコーヒー淹れてくんの忘れた!ちょっと行ってきまーす」
と逃げ出す風天。海も後退りながら
「皆口先輩、オレは関係ないっすって。関係ないっすけどオレもコーヒー持ってくるんで」
振り返って
「失礼しますっ!」
と逃げ出した。