Side桃
「みんな、これからどっか飲み行こーぜ!」
慎太郎がいつものごとく大声で呼びかけたのは、6人での収録が終わったその夜。
そんな急に言われても空いてないよ、とメンバーの約半数は呆れ顔。
「俺ジェシーとラジオ」
樹が短く言う。
「俺、家帰ってやらなきゃいけない仕事があるんだよ」
高地も続く。
というわけで残ったのが、俺と慎太郎、そして北斗。
やっとゆっくり話せるかもしれない、と期待が高まった。
「じゃあまたな」
テレビ局の出口で別れる。3人はタクシーに乗り込んだ。
「どこ行く?」
そう慎太郎に問われたが、特に好きなお店はないから答えようがない。
「慎太郎の行きつけでいいよ」
助手席に座る北斗もそう言う。
慎太郎は運転手さんに行先を告げた。
しばらく車に揺られていると、路肩に停まった。代金を払い、車を出る。
慎太郎に着いていくと、一軒の居酒屋に入った。
常連らしく、店員さんは慎太郎と後ろの俺たちを認識すると個室へ案内した。
「ここなら6人でも来れそうだね」
北斗が口にする。
そういえば彼はお酒をあまり飲まない。どうして今日は来てくれたのだろうか、と疑問が浮かぶ。
でもそんなことも、運ばれてきたビールを少しずつ飲んでいるとすっかり忘れてしまった。
最初はそれぞれのプライベートの話で盛り上がっていたが、話題は6人のことに移り変わる。
「最近離れてっちゃうとこが多いけどさ、俺たちは嫌だよな、そんなこと」
慎太郎は酔いが回ると饒舌になる。対して北斗は言葉を発することもなくそれを聞いている。
「俺らはずっと一緒じゃないとだもんな」
俺もいつの間にかそうこぼしていた。
「メンバーであると同時に、友達だし」
北斗も静かに笑って言った。
それに嬉しくなった半面、彼にとっては俺は「友達」だという事実が深く胸に突き刺さる。
果たしてその線は超えていいものなのか。
俺があちら側に行こうとしても、拒絶されてしまうのではないか。
考えれば考えるほど、怖くなっていった。
いつの間にか、時計の針は午後10時過ぎを指していた。
「そろそろ帰ろうか」
北斗の声がし、3人は立ち上がる。しっかり割り勘をして店を出た。
「俺、電車で帰るわ」
北斗が言う。
「じゃあ俺タクシーにする」
きょもは、と問われ、「たまには電車かな」
理由はただ一つ、北斗と少しでも多く一緒にいたいから。
「じゃあなー」と挨拶を交わし、背を向ける。
駅まで行こうか、とどちらからともなく歩き出す。
隣で歩く彼に伝えるのは、今しかないと思った。
でも口が動かない。真一文字に結ばれた口が。
ちらりと視線をやると、北斗は黙って歩みを進めている。やはり気まずさを感じているのかもしれない。
黒のロングコートが良く似合う。北斗のまとうこういうクールな雰囲気が、俺を惹きつけてやまないのだ。
そして意を決する。
このタイミングを逃したら、きっと後悔する。
「北斗」
「京本」
俺が呼びかけたのと、北斗が俺を呼ぶ声が届いたのは同時だった。
二人の視線が交錯した。
続く
コメント
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続き早くみたい!!