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あれから1ヶ月経つがシオンは見つからない
日が経つにつれ、嫌な予感が強まる
「なんでなんの情報も出てこんのや」
「それは……」
ジプソが言葉を詰まらせる
ここまでしても見つからないのは、誰かに保護されているか、それとももうこの世には───
そんな考えがジプソとアザミの中で埋めく
せめて前者であって欲しい、どこかで生きてさえ居てくれたら…
しかしカラスバは勿論リザードン達にも会いにこないシオンに対し違和感はある
シオンの性格を考えれば必ずリザードンやカラスバを探しているはず
それなのにそんな素振りもない
「クソッ……」
「(ずっとこの調子だけど大丈夫かしら…)」
日に日に強くなるカラスバの苛立ちとシオンへの執着にアザミは少し恐怖を覚える
姉が見つかった時、この異常な執着を姉に全て当ててしまうのではないか、いっその事見つからない方がいいのではないかと思ってしまう
「…アザミ、今何考えとった」
「!いえ、何も。引き続き捜索しますね。」
けれど自分にはどうすることも出来ない
この人には人生の全てをかけても返しきれない恩がある
だからこそこの人の為に、姉を探さないと
「シオン、相変わらず声は戻らずか?」
『少し声は出るようにはなったけど、まだ』
「そっかぁ、ま!ゆっくり戻したらいいぜ!」
そう言ってガイがシオンの頭を撫でる
その仕草にドキドキ、と心臓を鳴らす
あれから1ヶ月経って気づいたが、どうやら自分はガイの事が好きだ
誰にでも優しくて、手を差し伸べるガイが
その手が自分一人に向いてしまえばいいのにと思う
多分自分は重い女だとは思う
いつからか誰かの1番になりたいし、1番愛されて、寝ても私の事を考えてしまう程愛して欲しいと思うようになった
けど実際、自由に駆け回るガイにはこんな感情は理解できないだろうし押し付ける事も出来ない、だからガイへの気持ちは押し殺して毎日過ごしている
「んー、やっぱ少し外に出た方がいいんじゃないか?」
その言葉にビクッと肩を揺らす
「声が出せないのは不便だろ?ここから近くに病院があるから、そこに行ってみないか?」
そう頼まれ、悩んでしまう
確かに声が出せないのはかなり不便だ
しかし、こんな子犬のような目でお願いされるとさすがに良心も痛む
『夜だし、行ってみる』
「ほんとか!?よし!じゃあ行こうぜ!!」
『今から!?』
「早めの方がいいだろ?それに俺もお前の声が聞きたいしさ!」
そう言われ、顔が一気に熱くなる
好きな人からそんな事言われたら断れる人などいるのだろうか
そう思いながらデウロから貰ったフード付きのダボッとした服に着替える
「大丈夫か?」
外を出る前にそう言われ頷くとガイは嬉しそうに笑い「シオンと一緒に外出れるなんて嬉しいぜ!!」と言って、シオンの手を掴み外へ出ていった
「暫く声を発してなかったからかもね、喉には支障はないから次第に治ると思うよ
とりあえず薬出しておきますね」
「おう!助かるぜ!!」
そう言って嬉しそうに喜ぶガイ
そんなガイの笑顔にドキドキとときめく
そのまま診察室を出て、薬を受け取り病院を出る
ホテルZへ帰るには狭い路地裏を通ればいいから、人にも会うことがなかったし助かった
それにやはり外は綺麗だった
ミアレシティの夜景に上を見ると無数の星
ずっと手にしたかった自由が目の前にあるようだった
「(アザミと見たかったな…)」
そう思っていると、遠くで「キャーっ!!誰か!!その人捕まえて!!ひったくりよ!!」という声が聞こえる
「ん!?ひったくり!?ごめん、シオン!ちょっと行ってくる!!」
「先帰ってて大丈夫だから!!」と言ってそのままひったくり犯を追いかけていってしまった
「(ウソ……うぅ、でも大丈夫路地裏は誰もいなかったし)」
そう思いながら、路地裏の中へゆっくり足を進めていく
「(ガイ、色んな人に優しいけど結構危なっかしいんだよね〜…まぁ、それでも憎めないのがガイの魅力なのかもね だけど〜)」
そう思いながら路地裏を進んでいた時だった
〖アチャ!アチャ!!〗
「!?」
前の路地裏からいきなり見たことの無いひよこポケモンがシオンの胸元に飛び込んでくる
「(迷子?えっ、どうしたんだろこの子)」
〖アチャチャ〜!!〗
そう思いつつ、離れる気配のないポケモンを少し撫で路地裏を進んでいるとコツコツ…と向こうから靴の音が聞こえる
「!!」
人かと思い、念の為にフードを深く下げ顔を下にして歩く
───コツ、コツ…………
「アチャモ、なんしとんや」
「?」
〖アチャー!〗
靴音が目の前で止まったかと思えば、男の人の声が聞こえる
この子はこの人のだったのか
そう思いながら顔を上げ、男の人にアチャモと呼ばれたポケモンを返そうとした時バチッと男の人と目が合った
「……は……?」
「!」
この顔は…ターゲットの『カラスバ』だ
その瞬間後ろに下がろうとしたがそれよりカラスバがシオンの腕を掴むのが早かった
「ッ!?」
「お前…なん───」
シオンの腕を掴む手に力が入ったと同時に一気に自分の中の危険信号が鳴り響く
この人から逃げろ、と
アチャモを片手に足を上げ蹴りを入れようとするがそれに気づいたカラスバが身を捻りギリギリ避ける
しかしその拍子にカラスバの手が緩む
その瞬間をシオンは見逃さなかった
手を後ろに引っ張り、振りほどく
「ッ!?」
相手が驚いている隙に、走って逃げる
「ッ、ま…ッて!!お前!!待てや!!」
後ろからカラスバの怒声が聞こえるが振り返らずにそのままホテルZへ走り去った
カラスバside
一瞬やった、あの瞳、絶対見間違える訳が無い
真っ直ぐで全て見透かしているような、ショッキングピンクの瞳
しかし何故かアイツはオレを見た瞬間恐怖に顔を歪めオレに攻撃してきた
「カラスバ様!?大丈夫ですか!!」
物音に慌ててジプソが駆けつけてくる
「クソ……」
確かにそこにいた
この手で掴んだ、アイツの腕を
シオンの回復能力が高いと聞いていたが病み上がりだというのにあそこまで俊敏に動くとは
「お車までお連れ致します。して…相手は?」
ジプソに問われる
それに対し、少し時間を置いたあとゆっくり口を開き答えた
「シオンや」
「え?」
その言葉にジプソ達の声が被る
何か夢でも見たのではないかと言う目で見ている
「ほんまや、オレが見間違うわけないやろ。──けどアイツ、オレ見た瞬間思っきり逃げてったわ」
「えっ!?」
更に声をあげ驚くジプソ
「な、何故逃げたのでしょうか…気でも動転していたのでしょうか…」
「わからん、けどこれでアイツはミアレにおるっちゅーことはわかったわ」
そう言いながら車に乗るや否や、足を組む
「死んでも探し出して、オレの前へ引きずり出してでも持ってこい」
青筋を立ててかなり怒っている様子でジプソ達に話す
何年も眠り続けていた彼女が目覚めたかと思えば行方不明で見つかったと思えば、目の前で逃げられたとなれば怒りも出るだろう。とジプソは思いながらハンドルをきった
「── 今度こそ、絶対オレが守ったらなあかんねん」
生きていた事に安堵するもののそんな気持ちよりも自分に対してのあの意味不明な行動、そして何者かに取られてしまうという焦りから苛立ちが抑えきれなくなっていた