照とはもう山登りはしないって決めていたのに、今日は照に誘われてキャンプに来ている。
例の温泉旅館で超ダサい告白をした直後にまた誘われたら返事もらえると思うじゃん?
だから来た。
昼間は慣れない薪木拾いや薪割り、山菜摘み、魚釣りに追われ、並行して、テントの設営など大忙しだった。
だから俺、体力ないんだって。
はっきり言って疲れた。本当は寝袋じゃなくて、ふかふかのベッドの中で寝たい。
キャンプ場の設備の、コインシャワーで汗を流したら、俺は家で愛用しているモコモコのパジャマに着替えた。
暦は春でも夜はまあまあ寒いし、ましてや屋外だ。中にはしっかりヒートテックも着ている。
💛「暗がりで阿部を見ると巨大な化け猫みたいだな」
💚「失礼な。あったかいんだよ、コレ」
フードを被ると猫耳なのも可愛いと思っていたのに、照には刺さらなかったらしく、俺はがっくりと肩を落とした。
💛「うそ、可愛いよ」
どきん。
一気に心臓が跳ね上がった。わかりやすく、ときめく俺、チョロい。
💚「やめろよ///」
焚き火に照らされた照もいつも以上にイケメンに見えるし、ぱちぱちと爆ぜる火の音も、ムードがあって、かなりいい。
空は都会では見られないような満天の星。星好きなめめに見せたいくらいの夜空。
静寂の中、目の前の川のせせらぎと火の音だけが心地よく聞こえる。確かに自然にハマる照の気持ちがわかるような…?
💛「コーヒー、飲む?」
💚「うん」
広いキャンプ場なので、人は少ない。近くにテントも無い。二人っきりだ。
💛「寒いな…」
薄着の照が、荷物から毛布を持って来た。それを横目で見た俺は照に擦り寄った。
💚「俺も、さ、さむいな〜?」
照は俺と毛布とを見比べた。
💛「使う?」
💚「いや、照、寒いんだろ」
💛「いいよ。俺、我慢できるし」
💚「俺も我慢できるし」
💛「そうか。じゃ、遠慮なく」
照が本気で一人で毛布を使おうとしたので、
俺は慌ててツッコんだ。
💚「じゃあ二人で使う?みたいな発想はねえのかよ!!!」
💛「なんだ。そうしたいなら最初から素直にそう言えばいいのに」
💚「くっ……。……ありがとう///」
なんか照といると調子狂わされるんだよな。ちっとも思い描いた甘い感じにならないというか…。
それでも願いが叶って、二人で一つの毛布に仲良く包まるという胸熱展開になると、肌触りのいい毛布とともに、照の匂いにも包まれたようで嬉しかった。
案外俺たちうまくいくんじゃないかな…。
しかし、そこへ急にがやがやと次第に聞き慣れた声が近づいて来た。
❤️「翔太、やみくもに歩くと危ないよ?」
💙「うるせぇ、お前にはとことん愛想が尽きた!」
え……?
翔太と涼太?
ここは他県の山奥だぞ???なんでこんなところに二人が。
💙「あっ!照!!」
💛「翔太!……と、舘さん」
翔太は照めがけて走って来ると、そのまま照に抱き着いた。
いやいやいや、別れただろ、お前ら。
まあ、まだ俺たちも正式には付き合ってないけど…。
照の目尻が下がっている。俺は、翔太と入れ替わりに毛布ごと弾き飛ばされた。
❤️「ごめんね。デートの邪魔して」
涼太が山にそぐわないドレッシーな格好で現れた。
💙「デート?この化け猫と?」
💚「化け猫じゃねぇわ」
あーもう。モコモコ着るの金輪際やめよっかなー。
💛「可愛いだろ。阿部」
💙「ふーん?照、今、阿部ちゃんと付き合ってるの?」
独占欲が強い翔太は、不機嫌そうに照を見た。
❤️「こらこら翔太、お邪魔はやめて、ロッジに戻ろう?」
💙「ヤダよ。俺は照といる。涼太は阿部といたらいいだろ」
❤️「翔太がよくても二人が迷惑でしょ」
💙「照、俺がここにいちゃ迷惑?」
出た。必殺技の上目遣いで、翔太は照を見上げている。これで何人の男女をたぶらかしてるんだと言いたくなる。
頼む、照、迷惑だと言ってくれ。
💛「阿部、翔太がいたら迷惑?」
………もう知らん。
なんか、照の目つきまで俺に甘えてる気がする…。初めて見たわ、そんな顔。
❤️「それならいっそ、二人とも俺らのロッジに来ない?」
💙「ヤダぞ。俺は!」
💚「ロッジ?」
❤️「ここの近くのロッジ借りてるの。で、二人でゆっくりするつもりが翔太が急に怒っちゃって……来てくれると俺も助かるよ」
俺と照は話の成り行き上、涼太の謎のお誘いに乗ることになってしまった。
💚「涼太、なんで翔太が怒ってんの?」
後ろから照と腕を組んで、渋々ついてくる翔太を見ながら俺は聞いた。照は照で翔太に腕を組まれてなんだか嬉しそうで腹が立つ。
❤️「つい、俺が阿部と翔太を比べちゃって」
💚「は?俺を巻き込むなよ」
❤️「メイド服着せようとしたら怒っちゃって」
💚「………は?」
❤️「阿部なら着てくれるのにな、って言ったら怒っちゃって」
💚「着ねえよ」
❤️「え?着てみて欲しいんだけど」
💚「なんでだよ」
❤️「阿部も喜んでほしいでしょ、照に。ちょうど2着あるし」
💚「なんで2着もあるんだよ?」
❤️「いつか4人でそういうことしてみたかったんだよね〜」
💚「そんなミラクルあるか!てか、涼太、俺が知ってる涼太はこんなんじゃないんだけど…」
❤️「え?俺、普段から恋人といる時はこんな感じだよ」
俺は初めて翔太に同情した。
❤️「じゃんっ!これ!」
涼太が見せたのは、よくゲームやアニメで見るようなフリフリのメイド服だった。本当に2着ある……。
❤️「こっちが阿部用で、こっちが翔太のね」
💙「だから嫌だってば!着たいならお前と照で着ればいいだろ!!!」
❤️「何が悲しくて、可愛くない俺らが着なくちゃいけないんだよ。翔太と阿部なら似合うから!見たいよな?照?」
💛「あ、ああ、うん」
お前も肯定すな!!!着たくなるだろうが!!!
💚「ぜひ着ましょう」
僕はバカなんです。
好きな人のためならどんな大バカ野郎にもなれる。
❤️「阿部、似合うだろうなあ。俺、このままだと阿部のこと好きになっちゃうかも…」
涼太がそう言うと、翔太が焦って間に入って来た。
💙「着るよ!着ればいいんだろっ!」
かくして。
悪夢としか思えないような、成人男性によるコスプレメイド大会が行われることになった。
💚「ど、どう?」
💛「阿部。可愛いよ」
❤️「うん。よく似合ってる。清楚な感じだ」
着てみると思ったより露出もないし、そもそもロングスカートだし、上品な衣装で俺も気に入った。似合うと言われると嬉しい。
💚「えへへ」
俺は照の前でくるり、と回ってみせるなど、した。
❤️「しょうたー、まーーだーーー?」
じれた涼太が、翔太が着替えている風呂の脱衣所まで行った。
💙「ヤダヤダヤダヤダ!やっぱヤダ!!」
力ずくで腰を引っ張られて、翔太が出て来た。
💚「翔太……」
💛「ちょっと、エロ……」
翔太の着せられたメイド服は、俺とデザインが全然違っていた。スカート丈は短く、チュチュが付いているせいで、スカートの裾は広がっていて膝から下が丸見えだった。そして、中にはガーターベルトを付けていた。
涼太、ちょっとこれは意地悪なのでは…?
真っ赤な顔でジタバタする翔太の、頭のフリルがふるふると揺れた。
嫌がってる割にはちゃんと着てんなあ!?
💚「でも、可愛い…かも」
❤️「ありがとう阿部。俺たちはニ階を使うから、お二人はお二人でお楽しみください」
そう言うと、涼太は翔太を担いで、あっという間に二階の寝室へと消えて行った。
💚「ゆり組……恐るべし」
💛「着替えるか?」
💚「うん。どうしようかな?」
💛「嫌じゃなければ、そのままでもいいけど」
💚「別に嫌じゃない。このカッコ、可愛いし」
💛「うん。似合ってる」
二人でソファに並んで座った。
しばらくすると、二階から翔太の甘ったるいあの時の声が聞こえて来たので、身の置き場に困った。
照がこっちを見た。
俺も照を見た。
お互い、どちらが先というわけでもなく、キスをした。
💛「テント、戻るか」
💚「ん///」
やっぱり着替えて、手を繋いでテントに戻った。
テントへの帰り道。
照の手を握りながら、言った。
💚「なんか、すごかったな、あの二人」
💛「そう?阿部もすごかったよ」
💚「え?俺?」
💛「すごい、可愛かった」
そう言うと、照は俺をじっと見つめた。
💛「俺たち、付き合う?」
💚「えっ」
今度は照からキスをくれた。
💛「阿部が嫌じゃなければ、の話だけど」
💚「ひかる……」
俺は頷いた。
嫌なわけなんか、あるか。俺の気持ちは照にずっと向いてるんだから。
俺は憎きゆり組のお陰で、照と晴れて恋人同士になることができたのだった…………。
おわり。
コメント
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あべちゃんよかったね🥹
よかったぁ!あべちゃん嬉しいね💛💚
やったー!!あべちゃんおめでとう💛💚 ひーくん💛の的はずれな行動にズコッてなっていそうなあべちゃん💚かわいい! ゆり組おそるべし❤️💙