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オフェリア公女は私を上から下まで舐めるように眺め、信じられないと言うようにゆるゆると頭を振った。


「まったく、貴女ときたら……ここまで愚かだとは思わなかったわ。わたくしは、1週間以内に終わらせなさいと言ったはずよ。イザーク殿下と別れなさいと。今日が何日目か分かる? 8日目よ? 1日過ぎているじゃないの」


公女から侮蔑の眼差しが向けられる。


「しかも、そんなに着飾って夜会にまで参加して。わたくしを馬鹿にしているのかしら?」


まずい、このまま別れないつもりだと思われているのかもしれない。

早く説明しなくては。


「す……すみません……。でも、夜会にはただの思い出作りで参加しただけで、夜会が終わったらすぐにお別れするつもりです。だから……」

「へえ、思い出作りねぇ。だから夜会の参加は許せと?」

「あの、できれば……」


おずおずとお願いする私に、オフェリア公女が薄く笑う。


「貴女がそう言うなら仕方ないわね。さあ、早くお戻りなさいな。最後の思い出を作るのでしょう?」

「ありがとうございます……!」


よかった。なんとか大目に見てもらえたようだし、もうホールに戻ろう。

イザーク様を待たせているし、オフェリア公女と一緒にいるのは、なんだか怖い。


公女に一礼して、急いで横を通り抜ける。


「──昨日のうちに別れていれば、許してあげたのにね」

「え……今、何か……?」

「何でもないわ。最後に素敵な夜を──ラウラ」

「はい……公女様も素敵な夜を」




席に戻ると、ちょうどイザーク様も席を外していたようで、こちらへとやって来るのが見えた。


「すまない、急用があると言われて」

「いえ、大丈夫でしたか?」

「ああ、急用というような大した話ではなかった。ラウラは、ドレスの汚れは落ちたか?」

「はい、綺麗に取れました」


オフェリア公女のことは言わず、笑顔で椅子に腰掛ける。


(緊張したせいか、喉が渇いたわ)


サイドテーブルに置かれていた、なみなみと注がれた葡萄ジュースを手に取る。

私が席を外していた間に、飲み残しのジュースは片付けて、新しいものに取り替えてくれたらしい。


グラスに口をつけて、ふたくちほどごくごくと飲む。

でも、おかしなことに気がついた。


(これ葡萄ジュースじゃなくて、ワインだわ。でも変ね、イザーク様は私にお酒は飲むなって言ってたのに)


「イザーク様、これワインだったみたいで──」


終わりまで言い切らないうちに、視界がぐにゃりと歪み、とてつもない息苦しさに襲われた。

手からグラスが滑り落ち、カーペットに赤紫の染みを作る。


「ラウラ? ラウラ、どうした!?」


イザーク様が珍しく取り乱した様子で声を上げ、ホールにいる貴族たちがどよめくのが聞こえる。


「ラウラ! 大丈夫か!? ……くそ、これは毒か!?」


イザーク様が床に落ちたグラスを取り、忌々しそうに舌打ちする。


「おい、誰か! 侍医を呼べ! 早く!」

「ラウラちゃん! 大丈夫!?」


辺りが騒がしい。アロイス王子の声も聞こえる。

胸が苦しくてドレスをぎゅっと握りしめると、イザーク様が抱きかかえてくれた。


「ラウラ! もうすぐ医者が来るからな。大丈夫だ……!」


イザーク様の声が不安げに揺れる。


(ああ、そんなに心配させてごめんなさい……)


私が迂闊に置いてあった飲み物を飲んでしまったせいだ。

最後に楽しい思い出を作ろうと思っていたのに、こんなことになるなんて。


まるで溺れているように胸が苦しくて、私はもうだめかもしれない。


(死ぬ前に……せめて、今までのお礼を伝えなくては……)


最後の力を振り絞るようにして、イザーク様の手に触れ、私の気持ちを伝える。


「……イザークさ、ま……今まで、本当に、ありが……」


「待て」


私が最期の言葉を残そうとしたそのとき。

それを遮る艶やかな声が響いた。


(どうして? なんで、邪魔をするの……?)


声の主を知りたくて、なんとか首を動かして顔を向ける。


するとそこにいたのは、先ほど妙に気になった赤いドレスの女性だった。


「誰だ、お前は」


赤いドレスの女性をイザーク様が威圧を込めて睨みつける。


しかし、彼女は怯むことなく、こちらへと歩み寄ってきた。


「おい止まれ! ラウラに近づくな!」


イザーク様の警告を無視し、女性は私の横にしゃがみ込む。そして言った。


「大丈夫さ、ラウラ。あんたは死なない」


(この声は……)


女性から「ラウラ」と呼ばれた瞬間、彼女が誰なのかを理解した。


「……ヴァネサ、なの……?」

「ああ、そうさ。あんたの様子でも見ようと思って変装して来てみたら、何やってるんだい」

「うぅ……ヴァネサ……」

「ほら、大丈夫だから安心しな。稀代の魔女のあたしが死なないと言ってるんだ、大丈夫」


その女性──私の主人である魔女ヴァネサは、そう言って私の頬を優しく撫でた。


「お前が魔女ヴァネサ? ……なら頼む、ラウラを助けてくれ!」


懇願するイザーク様に、ヴァネサがうなずいて見せる。


「心配はいらないよ。ラウラは助かる。……自力でね」

「自力……?」


怪訝そうに呟くイザーク様を今度は無視して、ヴァネサが私に語りかける。


「ラウラ、心の中で念じるんだ。身体から汚い毒が消えて、すっかり綺麗になるように」

「念じ、る……?」

「ああ、そうさ。強く念じてごらん。掃除をするときのことを思い出すんだよ」


こんなに苦しいときに、なぜ魔力もない私に念じろなどというのか分からないけれど、ヴァネサが言うならそうしなくてはと思った。


(──毒は汚れと一緒……。残らず綺麗にしないと……)


汚い毒を箒で掃き出し、雑巾で綺麗に拭き取る。

心の中でそんなイメージを描き、すべて無くなれと強く念じる。


すると、身体の内側から何か強い力が湧き上がるのを感じ、次の瞬間、胸の息苦しさも身体の怠さも、すっかり消えて無くなっていた。



冷血王子が「お前の魅了魔法にかかった」と溺愛してきます 〜でも私、魔力ゼロのはずなんですけど〜

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