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「あれ……私、どうして助かったの……?」


イザーク様の腕の中から起き上がり、胸元に手を当てる。


「ラウラ! 助かったのか!」

「ラウラちゃん、よかった……」


イザーク様とアロイス王子が心底安堵したように大きく息を吐く。


「ヴァネサ……あなたが何かしてくれたの?」


そうとしか思えない。

魔力のない私に、毒から回復するなんて奇跡を起こせるわけないのだから。


でも、ヴァネサは自分の力ではないと否定した。


「ラウラ、今のはお前の力さ」

「そんな……私には魔力がないって、ヴァネサが言ったじゃない」

「ああ、言ったね。たしかにラウラに魔力は欠片もない」

「ほら……」

「でも、お前には神聖力がある」

「えっ? 神聖力……?」


聞き慣れない言葉に首を傾げる私に、イザーク様が説明してくれる。


「神聖力とは、神殿が崇める女神が持つ力のことだ。魔力とは別物の聖なる力だという。歴史上、ごく稀に神聖力を持つ者が生まれ、聖人や聖女と呼ばれていたらしいが……」

「まさかラウラちゃんに神聖力があったとはね」


イザーク様とアロイス王子が驚きに目を見張る。

この二人がこんなに驚くなんて、相当すごいことなのかもしれない。


「そういえば、ラウラが掃除をした後はやたらと気分が良かったり、ラウラから怪我の手当てをしてもらった子どもがすぐ元気になったりしたな。手作りスープを飲んで体が軽くなったのも、俺がラウラを好きすぎるせいかと思っていたが……神聖力のせいだったのかもしれないな」

「……まあ、その両方だろうね。ラウラは『聖女』と呼んでいいほど強い神聖力を持っている。だから毒を盛られても、体内で浄化できて助かったのさ」

「わ、私が、聖女……? まさか、私にそんな力があるなんて信じられない」


だって、私は掃除や洗濯や料理の腕しか取り柄のない、ただの平民の娘のはずなのに。

けれど、疑う私にヴァネサが言った。


「あんたは、自分で気づいていなかっただけで、小さい頃からこの力を持ってたんだよ。あたしがあんたを引き取って育てたのも、最初はそれが理由だった」

「え……?」

「あんたはあんな場所・・・・・にいるべき子じゃなかったし、とりあえず見つけたあたしが世話するしかないかと思ってね。神聖力の育て方なんて全く分からなかったけど、家事をさせてみたらどんどん力が開花していくのが分かった」

「そうだったの……」


あれはてっきり、私に手に職をつけさせるためだと思っていた。

あと、ヴァネサが家事をするのが面倒だから押しつけているのかと……。まあ、実際はそれもあったかもしれないけど。


イザーク様がヴァネサに尋ねる。


「だが、ラウラに神聖力があることをなぜ黙っていた? 本人に伝えてやればよかったし、神殿に知らせれば手厚く迎えられていたはずだ」


たしかに、どうしてヴァネサはそうしなかったのだろう。

ヴァネサの顔を見てみると、彼女は不機嫌そうに口の端を歪めた。


「神聖力を持っているなんて大事おおごとだろ。しかも小さな子供だ。周りに知られたらいいように利用されてしまうかもしれない。だから、もっと分別がつくようになるまで黙っておこうと思った」

「なるほど……。では、なぜ神殿に言わなかった?」

「はっ、神殿なんかに知らせたら、そりゃ手厚く遇してもらえるかもしれないけど、女神の力を持つ神聖な『聖女様』をただの女の子扱いはしてくれないだろ。ラウラは両親と死に分かれたうえに酷い目に遭ったばかりだった。そんな子を、『聖女様』に相応しくあるよう話し方から何から矯正される息苦しい生活に放り込みたくはなかったのさ。……それに、ずっと一緒に暮らしていたら情が移ってね。だんだん手離したくなくなってしまったのは、まあ、あたしの我儘だったかも」


ヴァネサの告白を聞いて、イザーク様は申し訳なさそうに目を伏せた。


「いや……俺の愚問だった。すまない」


ヴァネサが小さく嘆息する。


「ま、つまりはそういうことだったのさ。ラウラ、急に驚かせてしまったかもしれないけど……って、ラウラ? まさか泣いてる?」


「うぅ……だって……」


私はとめどなく溢れてくる涙を手で拭う。

こんなの泣くに決まってる。


ヴァネサが私のことをそこまで考えてくれていたなんて、知らなかった。

私にとってヴァネサは恩人であり、家族のような存在だったけど、そう思っているのは私だけだと思っていた。


でも、ヴァネサも同じように思っていてくれたのだ。


「ヴァネサ……ありがとう……」

「まったくラウラは、いつまで経っても子供みたいだねぇ」


ヴァネサが私の頭をよしよしと撫でてくれる。


「……本当はもっと一緒に暮らしててもよかったんだけどね。ある日、そこの王子様に呼ばれたものだから、あんたのいい旅立ちになると思って仕事をバックれたのさ」


ヴァネサの発言に、私の涙は一瞬で引っ込んだ。


「あっ、そういえば! あのあと私がどれだけ大変だったか……!」

「まあ、いきなりで悪かったけど、そのおかげで大事な人と巡り会えただろう?」

「まさか、全部分かってて……?」

「魔女の勘は鋭いからね」


ヴァネサはにやりと笑って、イザーク様に向き直った。


「さあ、うちの大事なラウラをちゃんと面倒見てくれるんだろうね、王子様?」


ヴァネサの圧のこもった視線を真正面から受け止めて、イザーク様が力強く応える。


「ああ。言われなくともそのつもりだ。それに、ラウラが聖女だと分かった今なら、誰も文句は言えないだろう」


イザーク様が私の手を取り、両手で優しく包み込む。


「ラウラ、お前はずっと俺に引け目を感じていたようだが、もう気にしなくていい。お前には他の誰にもない力がある」


イザーク様の言葉に、私ははっとした。


「私の力は、イザーク様のお役に立ちますか……?」


その問いに、イザーク様は笑ってうなずく。


「もちろんだ。神聖力があれば、土地の穢れも浄化できるだろう。穢れを浄化すれば魔物も弱体化してただの獣と変わらなくなり、騎士団はもちろん自警団でも対処できる。そうなれば貧困や孤児の増加を食い止めることにもつながる」

「私の力が、イザーク様の、みんなの役に立つ……」


そう考えるだけで、さっき止まったはずの涙がまた流れだす。


ずっと私はイザーク様には不釣り合いだと思っていた。

彼を支えられる力もなく、隣に立つには相応しくないと。


(……でも、そうじゃなかった。私にも、イザーク様を支えられる力があった)


そのことがとても嬉しくて、幸せで、ありがたい。


イザーク様が私の頬に触れ、そっと涙を拭う。


「ラウラ、これからも俺のそばにいてくれないか? 新たな聖女として、そして、ただ俺の愛しいラウラとして──」


「はい、もちろんです……!」


私は温かな涙を浮かべながら、心からの笑顔で応えたのだった──……。




「──ねえ」

「……」

「ねえってば」

「…………」

「聞いてる、イザーク?」

「なんだ兄上、今いいところなのに」


アロイス王子に呼びかけられたイザーク様が不機嫌そうに顔をしかめる。


「うん、大団円っぽいところ申し訳ないんだけど、何か忘れてない?」

「は? 何か?」


何かってなんだろう?

三人で首を傾げていると、アロイス王子が困ったような笑顔で言った。


「ラウラちゃんに毒を盛った犯人だよ」


「「「……あ!」」」



冷血王子が「お前の魅了魔法にかかった」と溺愛してきます 〜でも私、魔力ゼロのはずなんですけど〜

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