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そんなこんなで夕方。いつもの魔法研究部の部室、と呼んでいる元研究室。


昨日飾り付けられた部室の中で、いつものメンバーがそろい踏みとなっていた。


真帆、僕、榎先輩、鐘撞さん、肥田木さん、アリスさんに井口先生、そして乙守先生の姿もそこにはあった。


乙守先生は「は~い、ちゅうもく~」と明るい声と笑顔で手を打ち鳴らす。


何事かと全員の視線が集まるなか、乙守先生は真帆の肩に両手を添えて、


「楸さんの認定試験、見事合格でした~! はくしゅ~! パチパチパチ~!」


その言葉に、僕ら全員、「お~っ! マジか!」と大きく拍手する。


「えへへ、どーもどーも」

真帆もまんざらでもないという表情でへらへらしながら、小さく何度も頭を下げた。

「いや~、まさかこんなに簡単に合格できるだなんて思いもしませんでした」


まぁ確かに、僕の知る限り、この半年、真帆がまともに認定試験の勉強をしているところなんて見たことなかったもんな。


「だから言ったでしょ、簡単な筆記試験だって」


「……まぁ、そんな簡単な試験にすら落ちないよう、おばあちゃんには毎日毎日お小言を言われて、渋々お勉強していたわけですが」


えへへ、と真帆はもう一度笑って見せた。


これでとりあえずひと安心。


結局あちら――忘却の森で何が起こったのか正確に思い出すことはできなかったのだけれど、とりあえずみんなの記憶を繋ぎ合わせて何となく何が起こったのかは把握したつもりである。


とはいえ、それが何を意味するのか、どういうことだったのか、何が目的だったのか、そればかりはどうしても判然としなかった。


僕らがどんなに質問しても、

「いいじゃない、終わったことなんだから!」

と乙守先生は笑顔で言って、それ以上は決して何も教えてはくれなかったのだった。


「まぁ、終わり良ければすべて良し、で良いんじゃないですか?」


真帆自身がそういうものだから、僕らも渋々ながら、真相究明を諦めざるを得なかった。


そこからは飲めや歌えやである。


もちろん、お酒なんかではない。ジュースである。


どこから持ってきたのかカラオケセットなんてものが部室の中に用意されていて、真帆たちは代わりばんこに流行りの歌を歌い始めたのだった。


僕はというと、井口先生と並んで彼女たちのコンサートを静かに聞いているだけだった。


楽しそうに歌い続ける彼女たち――その中にはアリスさんや乙守先生ももちろん含まれていた。のみならず、乙守先生は本物の歌手かと思うくらいに歌が上手くて、思わず聞き入ってしまったくらいだった。


「ちょっと小便行ってくるわ」


「あ、はい」


井口先生が席を立ち、部室から出入り口の方へと去っていく。


そんな井口先生と入れ替わるように、トコトコとしっぽの生えた黒い小さな動物が僕のところまでやってきた。


――セロだ。


そう言えば、セロは今までどこにいたのだろうか。


忘却の森にいたような気がするんだけれども、やっぱり記憶がはっきりしない。


「セロ、今までどこにいたの?」


すると、セロは今まで井口先生が座っていたところにぴょんっと飛び乗り、ちょこんと座る。


「……俺は面倒ごとには巻き込まれたくないんでな。あのあと、ずっと隠れてお前らを見ていたんだ」


「あのあとって、あっちのこと? 忘却の森」


「そうだ」


「もしかして、僕らに何があったのか、覚えてたりする?」


「もちろん」


マジか。


「あのとき、僕らに何があったの?」


するとセロはまるでニヤリと笑むように口を開き、こちらに視線を向けた。


「――さてな。見ていただけで何が起こっていたかはよく知らない」


「なんだそれ。見てたんじゃないのかよ」


「見ていたから何が起こっているかちゃんとわかっているってことにはならんだろ?」


「……なんか含んだ言い方するな」


「別に何も含んでない。本当にわからんからな。俺にわかるのは、乙守が真帆とお前を襲おうとした瞬間、白い光に辺りが包まれて、次の瞬間には元の世界に戻ってきていたってことくらいだな。お前らが気を失っていたのは、ほんの短い間だけだ。そうそう、そういえば、気を失って倒れていたのはお前と真帆、夏希と葵の四人だけだったな。乙守とつむぎは気を失わなかった。井口がひょこひょこ現れたのはそのあとだったかな?」


「ん? それ、どういうこと?」


「さぁて」と嘲笑うようにセロは言う。「俺は知らない。もちろん、井口が現れるまえ、倒れていたお前ら四人につむぎのやつが何かやっていたみたいだが、何をしたのかまでは俺も知らない。何かを嗅がせていたみたいだから、何か魔法の薬でも盛られたんじゃないか?」


「――それ、本当に?」

言われてみれば、あのとき、肥田木さんだけ妙に慌てたように見えたけれども。

「魔法の薬って、どんな?」


「知らん。気になるんなら、本人に聞いてみればいいんじゃないのか?」


セロは言って、肥田木さんの方に顔を向けた。


肥田木さんは真帆たちと一緒に楽しそうに歌いながらはしゃいでいたのだけれど、

「あ、ジュースなくなっちゃいました。新しいの持ってきますね」

言ってから、部室の隅、真帆が持ち込んだ小さな冷蔵庫へと小走りに駆けて行った。


そんな肥田木さんのあとを僕は追う。


がちゃりと冷蔵庫を開けた肥田木さんの背中に、僕は声をかけた。


「――肥田木さん」

「ひっ!」


変に裏返った声を漏らし、こちらを振り向く肥田木さん。


肥田木さんは大きなペットボトルを取り落とし、慌てて拾い上げながら胸をホッと撫で下ろして、

「……もう、びっくりするじゃないですか、シモハライ先輩」


「ごめんごめん。ちょっと確認したいことがあって」


「確認したいこと? 何ですか?」


首を傾げる肥田木さんに、僕は単刀直入に訊ねた。


「気を失っていた僕らに、なにをしたの?」


「――っ!」


ごっとん! ふたたびペットボトルを床に落とす肥田木さん。


「な、なな、なななっ、ななっ!」


おろおろと慌てふためく肥田木さんの代わりに、僕はペットボトルを拾い上げながら、


「……本当に、何かしたんだ」


「だ、だ、だだ、誰から、そんなことを!」


「セロ。ずっと見てたんだってさ」


隠すことなく口にすれば、肥田木さんは恨めしそうな視線をセロに向けた。


口を真一文字にして、何とも悔しそうな表情だ。


「――で、何をしたの?」


すると肥田木さんは再び僕に顔を戻し、そしてどう答えたらいいものか、本当に困り果てた様子で両手を振り、


「ち、違うんです! 私も詳しいことは知らないんです! 私はただ、師匠に言われた通りに言われたことをしただけで、何にも知らないんです!」


「師匠?」


あぁ、そう言えば、肥田木さんの魔法の指導員って乙守先生なんだっけ。


真帆の指導員がおばあさんであるように、榎先輩の指導員が井口先生であるように、肥田木さんの指導員はたしか乙守先生――会長自らだったはずだ。


……ん? あれ? この話、どこで耳にしたんだっけ? 肥田木さん自身から? 乙守先生本人から? ……ダメだ。それすら思い出せない。


肥田木さんは「そうです、そうなんですよ!」と必死に首を縦に振り、

「わ、私はずっと、師匠である乙守先生から指示されて、その通りに動いていただけなんです! あの薬が何の薬なのか、本当に何も知らないんです!」


「……何かしたことは、認めちゃうんだね」


「――あっ」


口に手をやり、しまったという表情を浮かべる。


顔を蒼褪めさせる肥田木さんに、僕は深いため息を吐いてから、

「本当に、何も知らないの?」


肥田木さんは「えっと、た、たぶん、ですけど――」と指を激しく動かしながら、

「あの薬の色だと、記憶系の何かだとは思います。思うんですけど、実際に何かは本当の本当に私にもわからないんですよ! 信じてください!」


両手を合わせて泣き出しそうな顔をする肥田木さんに、僕はどうしたものか判らなかった。


果たして肥田木さんのことを信用してもいいものだろうか。


あの乙守先生の弟子だぞ。もしかしたら、これも演技なんじゃ――


なんて思いながらじろじろと肥田木さんのことを見つめていると、

「――なぁにしてんですか?」

背後から真帆の声がして、僕は「わっ」と驚きの声をあげてしまった。


「まさか、浮気?」


「そんなわけないだろ」


「じゃぁ、イジメ?」


「違う、そんなこともしない。ペットボトルが重そうだから、手伝ってあげようとしただけ」


ほら、と僕は真帆に、手にした2リットルのペットボトルを掲げてみせた。


真帆は「ふ~ん?」と疑わし気な視線を僕にくれつつ、肥田木さんの右腕に両手を回してから、


「ほら、次、つむぎちゃんの歌う番ですよ! 急いで急いで!」


「え? あ、は、はい!」


助かった、とばかりに真帆に連れられて行ってしまう肥田木さん。


肥田木さんはちらりと僕に顔を向けて、「ごめんなさい!」と声も出さずに口だけパクパクと動かしたのだった。


僕はそんな肥田木さんを見送りながら、ただ、「やれやれ」と深い深いため息を吐くことしかできなかった。


――真相は藪の中。


そういうことにしておこう、今のところは。


僕は重たいペットボトルを抱え、ふたりのあとを追う。


その視界の向こう側、真帆たちの駆けていく先に立つ乙守先生が、僕にニヤリと笑んだ気がした。

魔女と魔法使いの少女たち

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